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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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油断禁物ティータイムって素敵やん

 市街地をバイクでパトロールしているとケイトに出くわした。


 「何をしてるんですかあなた方は?」


 にけつで走ってた俺達を見て呆れたようにケイトが言う。


 「何ってパトロールだよパトロール。街の治安を守ってるんだよ」


 俺はケイトに言ってやる。


 「守っていると言うよりも乱しているように見えますが?」


 ケイトはあきれ顔で言う。確かに俺も調子に乗ってリアシートでふんぞり返ってなんちゃってライフルを手に持ち軽く地面を擦ったりしちゃあいたけども。ちょっとB突来いよビキビキ気分ではあったけれでも。クランケルにパラディウスやりに行こうぜって言いたかったけれど。


 「クルース君はジッとしてられないんですかね?」


 クランケルが俺を見る。


 「ワリーワリー、つい楽しくってな。次はケイトの後ろに乗ろうかな」


 「ご遠慮します」


 冷たく言い切るケイト。


 「振られちゃったよクランケル」


 俺の言葉にクランケルが肩をすくめケイトを見た。


 「そちらもお仕事は終ったのですか?」


 「ええ。アルスさんに頼まれましてね」


 クランケルの問にケイトが答える。


 「え?何を頼まれたのよ?」


 俺はケイトに聞く。


 「あなたの面倒を見てくれと頼まれたのですよ」


 ケイトが何を言ってるんですかとばかりに言う。


 「え~、なんで~。俺、そんなに心配~?」


 ポイ姉さんといい、ケイトといい、果てはディアナですら俺の事を子ども扱いしよるからなあ。トホホのホ。


 「ふふっ、それは心配にもなるでしょうよ」


 クランケルが笑う。


 「なんでだよう?」


 俺はふくれる。


 「ひとりで突っ走るからですよ」


 クランケルがまた恨みがましい目をして俺を見る。分離居住区民脱出行に連れてかなかった事、相当根に持っとるなこれは。


 「フレスベルグの事ならひとりじゃなかったし、事前に伝えてたぜ?」


 「それだけではないですよ」


 「そうでなくてもジミーさんはトラブルに巻き込まれやすい上に余計な事に自分から首を突っ込んでいくんですから」


 クランケルに続いてケイトが一息に言う。参ったね、怒られてるよ俺。


 「ふぇーい、反省しまーす」


 「反省してない人の態度ですね」


 「まったく、大人げない」


 クランケルとケイトが肩をすくめる。結構、気があってるんじゃない?このふたり。


 「まあ、あれだ、まだ引っ越し中の人もいるかも知れないから、もう少しだけパトロールしてから青空美術館へ向かうとするか」


 「それなら大丈夫ですよ、ライトレールの臨時便が出てましたからね。荷車組が最後の引っ越しで入ったのを確認してます」


 「さすがケイトさん!抜け目がない!」


 俺は大げさに手を叩いて言う。


 「それ、褒めてます?」


 「微妙ですね。使うならば、ぬかりない、そつがない、が妥当ですね」


 ケイトがトゲのある声を出し、クランケルが冷静な口調で訂正する。やっぱこのふたりいいコンビじゃん。


 「細かい事は気にするな!青空美術館に向けて出発進行だ!」


 俺はクランケルの背中を叩いて元気良く言う。


 「勢いで誤魔化そうとしてません?」


 「少し強引ですね」


 じっとりとした目のケイトに冷静なクランケル。


 「よーし、青空美術館まで競争だ!負けた方がヤグー茶奢りな!」


 俺は更に元気良く言う。


 「しませんよ」


 「ええ、危ないですからね」


 「も~、ノリが悪いんだから~」


 俺はふたりにこぼす。楽しいね、こういうのって。

 そんなこんなで俺達は安全運転で青空美術館へと向かったのだった。


 「およよ?なになに?引っ越しっぽくないじゃん」


 俺は青空美術館の様子を見て思わず拍子抜けする。もっと通りに荷物があふれてるかと思ったのだが。


 「ヴァルターさんの仕切りで空き家の割り当てがスムーズにできましたからね。後は室内清掃と荷ほどきだけって段階ですよ」


 青空美術館の通りをゆっくり走りながらケイトが俺の疑問に答えてくれる。

 

 「アルスさん、対象、確保しました」


 一軒の家の窓を拭いていたアルスちゃんの前でバイクを停めたケイトが、敬礼する勢いでハキハキと言った。


 「あら、ご苦労様ですケイトさん。今、お茶を入れますから中で休んでください。クランケル君もトモトモもどうぞ」


 アルスちゃんはそうにこやかに言うと雑巾をバケツに入れて手に持ち家の中に入って行く。

 家と言っても独立した一軒家ではなく、この辺りでよく見られる間口が狭く背が高い隣り同士が連なっているタイプの都市住宅だ。

 中に入ると空の棚が壁際に並んでおり、カウンターみたいなものがある所から何らかの店舗であった事が伺い知れた。

 俺達は入り口付近に置かれたテーブルとイスセットを見つけてそこに腰を掛けた。


 「皆さん、ご苦労様でした。どうぞ一息ついて下さい」


 アルスちゃんがトレーにお茶を入れて持って来てくれる。

 薄い黄金色に華やかな香りのこのお茶はヤグー族の花茶だな。


 「「「頂きます」」」


 俺達は感謝してありがたく花茶を頂く。


 「ふぅ~、生き返るなあ」


 俺は熱いお茶をひとすすりして息をつく。


 「ふふっ、クルース君はたまにオジサンになりますね」


 「トモトモは幼児と壮年が同居してるんですよ」


 クランケルの言葉にアルスちゃんが嬉しそうに答える。

 

 「一息ついた所で現状の報告をしましょうか」


 アルスちゃんはイスに座り落ち着いた声で言う。


 「ほんじゃ俺から行こうか」


 俺は街中の給水栓であった事を話して聞かした。


 「そんでサトッツヨ君と仲間君には上手い事、情報をバラまいてくれるように頼んだって訳。その後はクランケルと合流して街中のパトロールをしてきたけど、何事も無しって感じかな」


 「まーた気軽にポンポンと新兵器をあげてしまって」


 ケイトが俺をたしなめる。


 「兵器じゃないから平気だよ、なーんちゃって」


 「では次はわたしですね」


 アルスちゃんが俺のダジャレを軽く流す。


 「こちらは居留地全住人の移動が無事になされた事が確認されています。居留地の方には衛兵が集結、夜には国防軍もやってくる予定です」


 「おお!動きが速いね!」


 「国境付近の資源採掘場には既に国防軍が到着しているとの事です。アルロット伯の決断が速かったため国防軍もスムーズに動けたようです」


 俺の言葉にアルスちゃんが答えてくれる。


 「情報の拡散ですがバッグゼッド帝国各機関が既に手を打ち始めています。各新聞商会も協力的で関係機関と連携を取りながら順次情報を開示していく方向で話がまとまっています。タンゼニン氏によるとドーンホーム教会と帝国側の話し合いも順調に済み、明日の正午に本部から正式発表する予定だとの事です」


 スゲーな、ちゃくちゃくと確実に進んでるじゃないの。


 「トーカ領についてですが資源採掘場の労働者入れ替えについて既に二割ほどが済んでいるとの事です。二割というのは本日お休みの方たちの数です。これから更に入れ替えを進めていくとの事ですが、既に入れ替えた二割の人員は残りの労働者や関係者への警告を随時していく計画で、最悪の場合は全ての関係者の撤収と同時に採掘場の破壊をする予定だそうです」


 「そうならないように祈るばかりです」


 アルスちゃんの言葉にケイトが口を開く。


 「あくまで最悪の場合です。トーカ領周辺にも衛兵隊国防軍の配置は進んでいますから、まず大丈夫でしょう。後はビリガント領ですが、こちらはショートバウム氏が積極的に動いて頂いたため防衛は盤石、トーカ領資源採掘場確保のための戦力も用意して頂ける手筈になっています」


 「凄いですね、まさかこれほど早く話が進むとは」


 クランケルが驚く。俺も驚いちゃうよ。


 「ランラート男爵が帝国内の各勢力と精力的に連絡を取っていたのが効きましたね。中道派と軍拡派と軍縮派が国を守るために一枚岩になりましたからね」


 アルスちゃんがお茶を飲んで言う。ランラート男爵か、あの人はコミュニケーションお化けだからな、世が世なら国を変える大人物だったろうなあ、って今がその世界で普通にランラート男爵は大人物か。

 

 「こりゃあ、どうやら勝ち戦になりそうだな」


 「油断は禁物ですよ、まだまだ不確定要素はありますからね」


 クランケルが俺を見て言う。内通者疑惑の事を念頭に置いて言ってるんだろうな。


 「確かにそうだな、まだまだなにが起きるかわからないもんな」


 「そのぐらいの気持ちでいた方がいいでしょうね」


 襟を正す俺にケイトが諭すように言った。

 アルスちゃんはそれを見て微笑まし気な表情をしている。

 ここに居るメンツだけでもちょっとやそっとの事じゃ負ける気はしないからなあ。

 ついつい気が緩みがちになるのはご勘弁だ。


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