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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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若者と情報戦って素敵やん

 給水泉で狼藉を働いた男達は謎の奴からの襲撃とそれに対処する俺を見てすっかり毒気を抜かれてしまったようで、その後、素直に謝罪してそそくさとその場を去って行った。

 荷車の親子は大通りに出るまで一緒に付き合って、居留地に帰る途中のクランケルを停めて青空美術館まで連れてってもらう事にした。

 その際クランケルに先ほどあった事を伝え、気を付けるよう他の連中にも伝えてくれと頼んどいた。

 クランケルは俺ばかりズルいと不満を口にしたが、荷車便の仕事が終わったら青空美術館や街中の警戒に当たってくれと頼むと嬉しそうに了承してくれた。

 サトッツヨ君達とは今回の件は怪我人も出ていないし物損もないので特にどうしようもないが、一応念のため、あった事を衛兵に報告するのに付き合ってもらう事にした。

 衛兵さんを見つけ街中でファイアーボルを放って来た謎の襲撃者の事を話すと、相手の特徴や襲って来た時間逃走経路などを尋ねられた。

 俺とサトッツヨ君とその連れの三人で覚えている限りの事を伝えると、衛兵さんは関係各所に伝え警戒に当たる旨と俺達が帰宅するまでの道のり警備をつけるかどうか尋ねられた。

 俺は断り、サトッツヨ君達は一応つけて貰えばと促すが、やはりそこは男の子、俺達もいらないときっぱり断った。

 まあ、あいつらが襲ったのは俺だと思うし、衛兵さんは街中の警戒を強めるとも言ってくれたのでサトッツヨ君たちに危険が及ぶことは無いとは思うが。

 問題はなぜ俺ばかりが狙われるのか、そしてなんで俺の行動が漏れているのかなんだよな。

 

 「クルース君、なんかヤバい事に首突っ込んでんのかい?俺らなんかじゃ力になれないかもだけど、地元じゃけっこー顔が利くしさなんかあったら言ってくれよ」


 「そーだよ、俺らでっけー借りがあんだからよー」


 サトッツヨ君とその仲間君が言う。

 なんだよなんだよ、いい奴らじゃんかよー。もう、おじさん、そういうの弱いのよ。

 

 「おう、ありがとな。そんじゃあ遠慮せずに頼っちまうけどさ、実は最近ジャーグル国境付近が騒がしくてな。ヤグー族の分離居住区ができたり、そこから人が逃げてきたりさ」


 「あ!知ってるよ!ジャーグルはすっとぼけてるんだろ?街中の魔物もさっきの奴もそれ絡みなのか?」


 サトッツヨ君が前のめりになって言う。やっぱ男の子やねえ、こういう話は大好きとみえる。


 「まだそうと決まったわけじゃないが、その可能性は高いと考えられてる。俺はヤグー難民の居留地に慰問に来てるから、それが気に食わないんだろーな。記者なんかも来てるからさ、ジャーグル王国がヤグー族にどんな仕打ちをしているか割と赤裸々に伝わっちまうからな」


 「なるほどねえ、やっぱクルース君半端ねーわ」


 仲間君が感心する。そして仲間君が俺を呼ぶ時のイントネーションも地元の先輩呼ぶ時の語尾が上がるイントネーションだ。

 

 「それでクルース君、どーすんだい?今からその襲撃者のアジトを探して逆に襲撃してやるのかい?だったら仲間集めるぜ?」


 サトッツヨ君が言う。


 「いや、今までも何回か襲撃を受ける度に衛兵ざたになってるけど奴ら尻尾を掴ませない。向こうさんもプロだ。俺達が今やってるのは情報戦なんだ」


 「情報戦?なんだいそりゃあ?」


 サトッツヨ君が首をかしげる。


 「情報戦ってのは味方を守り敵を攪乱妨害攻撃する情報活動の事だ」


 「なにそれ!かっこいい!」


 仲間君が興奮する。


 「そうだろ?これからの戦いは情報戦を制した方が勝つのさ」


 「で、どうやってやるの、それ?」


 仲間君が尋ねる。


 「敵はこっちを混乱させるために仲間同士を争わせようとする」


 「あ!俺達が疑われたのもそれか!」


 サトッツヨ君が手を打つが、それは日頃の行いだな。


 「まあ、そんな感じだ。ジャーグルサイドが面白くないのはヤグー族がバッグゼッドに来ることだ」


 「なんでだよ?自分でイジメてるから逃げ出したんだろーに」


 俺の言葉に仲間君が口を尖らす。


 「自分がいじめてた奴が別のグループで楽しそうにやってるのが気に入らねーんだな」


 サトッツヨ君が言う。


 「まあ、それもあるがさっき言ったようにジャーグル王国のやってる事がバレちまうのが気に入らないってのが大きいな。分離居住区なんていっちゃいるが実態は強制収容所だからな。ヤグー族の土地を奪い財産を奪い尊厳を奪っている事実をジャーグル王国は隠そうとしているからな。それに俺はヤグー族の文化は人気になると睨んでるんだよ」


 「ヤグー族の文化?」


 「ああ、彼らの工芸品や食べ物は帝国のみならず大陸全土で人気になると思ってるよ。実際、今でもジャーグル街なんかじゃ知る人ぞ知る店になってたりするからな。俺はそれをもっと大々的に商業化する手伝いをしてるから、それで狙われてるってフシもあるのさ」


 「それと情報戦とどうつながるんだいクルース君?」


 サトッツヨ君が聞く。


 「ある筋からの情報なんだがジャーグル側は自分達が帝国内で起こした問題行為を、原因はヤグー難民やドーンホーム教会にあるように思わせる情報操作をしてくるらしいんだ」


 「どういう事?」


 「バカだな、街中で暴れた魔物とかヤグー難民がやったって言いふらすって事だよ」


 首をひねる仲間君にサトッツヨ君が言い聞かす。


 「え~、そんなの信じないっしょ普通」


 仲間君が言う。


 「普通なら信じないような事でも不安や不満が蔓延すると信じちゃうのが人の弱さなんだよ」


 「不安はわかるよ、街中に魔物が出りゃあそれは不安にもなるってなもんだよ。でもさ、不満ってなにさ?なんかあんの?」


 仲間君が言いサトッツヨ君も確かになあと首をひねる。


 「さっき給水泉でヤグー族の親子に絡んでる奴らいたろ?」


 「ああ、いたねえ」


 「あいつらヤグー族の事を悪く言ってただろ?なんでだと思う?」


 俺はふたりに聞く。


 「あいつら仕事がないんだよ。だからやる事なくて昼間からぶらついてんだ、だから働かなくても国が金くれるヤグー族にムカついてんだよ」


 サトッツヨ君が答えた。


 「それが不満だ。普通なら信じないような事を信じ込ます土壌は出来上がってるな」


 「じゃあどうすんだ?俺達になんかできる事あるのか?」


 「あるよ、おおいにある。まず、ヤグー難民が働かなくても金を貰ってるってのは間違いだ。帝国は生活が安定するまでの一時的な援助をしているだけで、多くの人は狩りをしたり漁をしたり商いをしたりして自立しているんだ。ヤグー文化の商業化が進めば更に多くの人が自立できるだけではなく、ヤグー族以外の人の働き口も増えるだろう。そうした事実を広めれば敵が情報戦を仕掛ける余地がなくなるってなもんだ」


 「なるほど!そんでもってヤグー族に憎しみの目を向けるのは敵の思うつぼだって知らせれば、みすみす踊らされる奴もいなくなるってもんだ!」


 サトッツヨ君が声を上げる。


 「理解が早くて助かるぜ。俺達の間に憎しみを蔓延させる事は奴らを最も喜ばせる事だ。それで互いに疑心暗鬼を生じ潰し合ってくれたら万々歳ってもんだ。わざわざそんな手に乗っかってやる事はないさ」


 「わかったぜクルース君!情報戦、俺らも参加させてもらうぜ」


 「おう!仲間にも教えてやろう!」


 サトッツヨ君と仲間君は力強く言った。


 「早速行くぜ!」

 「おう!」


 「ちょっと待て、これ乗ってけよ」


 サトッツヨ君はスケボーを持ってるが仲間君は手ぶらだ。これからどこに行くのか知らないが素早く動けた方が良いだろう。

 てことで俺は乗っていた自転車を進呈する事にする。


 「それって新しい遊び道具だろ?いいのか?」


 サトッツヨ君が言う。


 「遊び道具ってよりは移動手段の意味合いが強いな。操縦の仕方を教えるから情報戦に使ってくれよ」


 俺は自転車の乗り方を教えてやるとふたり共すぐに乗り方を覚えた。やっぱこの世界の若者、特に貴族は剣術や馬術をやってるから運動神経が良いんだよな。あと、身体強化も割とポピュラーだしな。


 「ありがとうクルース君。絶対情報戦、勝利するぜ!」


 「任せとけ!」


 仲間君が自転車に跨って言いサトッツヨ君はスケボーに乗って胸を叩く。どうやら自転車は仲間君の方が気に入ってくれたようだ。


 「頼んだぜ!」


 俺は颯爽と去って行くふたりに手を上げる。

 サトッツヨ君は仲間君のこぐ自転車の後ろを掴んでいる。やっぱやるよねーそれ。俺も若い頃、仲間の原チャリに引っ張ってもらってこけてズボンの膝ズタボロにしちまったことがあったっけ。

 サトッツヨ君はそうならないように気を付けろよ。


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