気合って素敵やん
準決勝次鋒戦、シエンちゃんは気合十分だ。
「よーし!それじゃあ、ちょっと行ってくるぞ!。」
「いってらっしゃーい。気をつけてねー。」
「なんか、気合が抜けるなあ。」
アルスちゃんのほんわかした見送りの言葉に、肩を落とすシエンちゃん。
それでも試合は始まる。
肉お肉選手の入場ですと、こちらもイマイチ気合の入らないリングネームで呼ばれたシエンちゃんは、歓声の中、両手を挙げて堂々と入場した。
対するファイティングパワーズ、次鋒は前回の中堅ファスター選手。
ゴリゴリのマッチョ軍団の中では痩せ型だが、それは筋肉ダルマではないシャープなマッチョだからで前回の戦いも徒手格闘で、投げからの間接技というキレイな勝ち方をしていた選手だ。
審判の説明を聞き、選手は互いに礼をした。
いいね、気持ちの良い試合をして欲しいね。
虎顔のファスター選手は嬉しそうに笑うと、一気に間合いを詰めて来た。
シエンちゃんも嬉しそうな表情で、右ハイキックで迎え打つ。
それを左手で受け、右の中段パンチを繰り出すファスター選手にシエンちゃんの左ハイキックがヒットする。
右拳を前に突き出したまま驚愕の表情で膝をつくファスター選手。
驚くのも無理はない、このほぼ同時と言ってもいいタイミングでの左右のハイキック連撃は、俺がシエンちゃんに聞かせた、前世界のエンタメ作品内で登場人物がやっていた技で、それを聞いたシエンちゃんは是非やってみたいと練習していたのだった。
シエンちゃんは膝をつくファスター選手の前で、片足立ちになり右足で空中に向かってキレイな蹴り技を披露している。
沸き立つ場内、歓声と指笛の中、ファスター選手はゆっくりと立ち上がりその場で何回か跳ねた。
片足立ちで待つシエンちゃん。
幾度目かの軽いジャンプの後、身をかがめての低空タックルをしてきたファスター選手。
ハイキックを警戒してなのだろうか、シエンちゃんは手堅いローキックを出すとファスター選手の動きが加速しシエンちゃんの腰のあたりをガッチリとホールドした。
ローキックはミートポイントをずらされ、しかも不安定な姿勢で受けたタックルにファスター選手は完全にマウントを取ったと思った事だろう。
ところがシエンちゃんは倒れない。
倒れないどころか腰をつかんでいるファスター選手の胴に手を回し、強引に持ち上げるとファスター選手はたまらず手を放してしまう。
シエンちゃんはそのままファスター選手を抱えるように持ち上げ、地面に背中を叩きつけた。
でたー!!パワーボム!!
場内はヤンヤヤンヤの大喝采。
泡を吹いて白目をむいたファスター選手に審判が近づき、声をかけ、何やら魔法をかけた。
頭を振って意識を戻すファスター選手に、審判が何事か告げる。
がっくりうなだれるファスター選手。
審判は高らかにシエンちゃんの勝利を告げた。
中堅キーケちゃんの試合は、終始スピードで翻弄し前回の試合のダメージを引きずっていた相手方選手、前回の大将さんのスタミナを削り取り、ヘトヘトにしたところで関節技でギブアップ勝ちという手堅いものであった。
さて、そんなこんなで次がいよいよ決勝戦。
相手チームは別の闘技場で試合をしているのでどんなチームかわからない。
そこが団体戦の面白さだと実況のオルホールさんは盛んに言っている。
決勝戦は最初に選手全員が闘技場に出るの事になっているので準備しておいてください、と言われて本戦選手控え室に案内される。
場内が静まり返り、実況のオルホールさんの声が響き渡る。
「大変お待たせ致しました。団体戦決勝の開始です。まずは両チームのご紹介から。東入場口からウパタル探検隊の入場です!。」
俺たちは、早く出て下さい!と言う案内係の声に従い試合場へと入って行く。
審判に促されて試合場中心近くに並ぶ。
「西入場口からマスクドペインの入場です!。」
西入場口から入ってきたのは、体格こそバラバラではあるが、数字の書いてあるマスクを被った集団だった。
俺たちと向き合う形で並ぶ5人のマスクを被った人たち。
俺の前に立った背の高いマスクナンバー5が、俺たちの顔を見て一瞬ビクッとした。
なんだなんだ?
握手を交わし控え室に戻る。
今日の出場順は提出してあるのだが、シエンちゃんが5番のマスクと戦いたい、と言う。
シエンちゃんは中堅だったが5番マスクは先鋒なので先鋒に変えて欲しいと言うのだ。
別に誰も異論はないので了承し、運営委員の人に順番変更の旨を伝える。
そうして始まった先鋒戦。
シエンちゃんは、あれ?とか、どーもなあ?とかひとりでブツブツ言いながら呼び出しアナウンスに従って試合場へと出向いて行った。
相手の選手はシエンちゃんが出て来たのを見て、明らかに挙動がおかしくなったが、すぐに気を取り直したのか平静に戻り、試合は開始となった。
5番選手が積極的に仕掛け、接近戦での手数の多い攻防に場内は興奮したがなんだか上手く出来すぎというのか、俺はシエンちゃんがこんなに上手く接戦を演出できるものか怪しく感じた。
「シエンちゃん、本気で接戦なのかね?ちょっと演技にしちゃ出来すぎじゃない?。」
「きひひ、あたしもそう思うな。戦闘中に何度か会話を交わしているように見えたが。」
「なんだか、わたし、あの選手には何処かで会ったような気がするんですよ。誰かしら?。」
なんて、三人で頭を傾げているとシエンちゃんの戦いは山場を迎えていた。
空中で連続蹴りをするシエンちゃんと防戦一方の5番マスク。
空中連続蹴りで勝負がつかなかったシエンちゃん、つまらなそうな顔をして5番マスクに飛びかかっていき、あっさりと投げ飛ばされてひっくり返ったまま起きなかった。
審判が近づきカウントする。カウントは10を数え、審判はナンバー5選手の勝利を告げた。
むくっと立ち上がり、ナンバー5選手をギンギンに睨みつけながらこちらにやって来るシエンちゃん。
心なしかナンバー5選手が震えているように見えるのは気のせいだろうか。
「参ったよ、まったく!ポリ助の奴!。」
「あらーー!!やっぱり!!エンポさんでしたかー!お元気でしたか?。」
「さっき見たろう!元気だったよ!!次会う時は元気なくしてやる!!まったく腹立たしい!!。」
どうやら、謎の覆面ナンバー5選手の正体はシエンちゃんの弟さんのエンポリオさん、その人だったようだ。
シエンちゃんの話だと、弟さんは旅の途中ここに立ち寄り、客人として迎え入れられた、と。そして、武勇伝などを話すうちに是非とも腕前を見せて欲しいと言う話しになり、この大会に出ることになったと。そうしたわけで、申し訳ないのだがここは自分の顔を立てて勝ちを譲ってもらいたい、残りの試合は勝ってもらって構わないから、とこうした会話が戦闘中に行われたそうだ。
怒っちゃいるが、基本的には弟思いなんだろうな、結局勝ちを譲ってやった訳だからね。
「そんな訳で、スマン!。」
潔く謝るシエンちゃん、だが別に我々はパーフェクトゲームを狙っているわけじゃあない。
優勝して、この街の長、メルヘンベル主催の晩餐会に出てキズメの情報を得るのが目的だ。
いや、別に構わないよ、と皆一様に言うのだった。
次は次鋒戦、俺ですな。
頑張って行きまっしょい!




