エグキモイって素敵やん
街中の大通りで俺たちは大型バス程もあるキメラ魔獣と睨み合っていた。
「ストーム!その子達を頼む!」
「了解!」
俺はサトッツヨ達の事をストームに任せてサソリカマキリと向かい合う。
サソリはハサミをガチガチと動かし、カマキリはファイティングポーズをとっている。
こいつ人為的に作られた合成獣なのか?だとしたら作った奴は間抜けだな、サソリの背中にカマキリ生やしちまったらサソリのもう一つの強力な武器、毒の尻尾を使うのに邪魔になるじゃねーか。
俺はサソリカマキリにジリジリと近付くと牽制に鉄鋼弾をカマキリ部分に発射する。カマキリはそれをすさまじい速さで鎌を動かし弾き飛ばす。
その間に俺は足元に落ちていた鉄の棒を二本拾って両手に持つ。サトッツヨの手下達が持ってた術式具だ。
間髪入れずにサソリがハサミで攻撃してくるのでそれを鉄棒で受け止める。サソリのハサミが炎に包まれる。
「結構威力あんじゃんか。こんなもん、人に向けちゃダメだぞ」
俺はストームが距離を取って避難させたサトッツヨ達に大きな声で言う。
「出力リミッターあったよな?」
「ガチガチに利いてるはずだぜ?ありゃあ、あいつが魔力上乗せしてるんじゃ」
「マジかよ」
手下君達がなにやら言っている。驚いとけ驚いとけ、そんで驚いたら今度からむやみに知らねー奴にチョッカイかけるのはやめておけよ?
「クルース君!後ろ!!」
ストームの声がして左背後に熱風を感じ俺は転がり避ける。
見るとサソリの尾が迫っておりストームの爆熱玉を喰らって跳ねあがっていた。
「ワリー、助かったぜ!」
いつの間にかサソリ野郎の下半身は直角に曲がっており、尻尾が俺の場所を攻撃範囲内に捕らえていたのだった。
「気持ち悪い事しやがって!」
再び襲い掛かるハサミを思い切り鉄棒でひっぱたく。ハサミの稼働する方が根元から折れるが鉄棒も火を噴いて壊れちまったので火傷する前に手放す。
距離を取ろうとするとカマキリが恐ろしい速度で鎌を振るうので距離もとれず、サイドにまわろうとすると尻尾が襲ってくる。
近づけばハサミ攻撃、ハサミじゃ攻撃しづらいほどの超近接でいくと口のハサミで攻撃してきやがる。
サソリってのは口の前に二対のハサミがあるんだったな、まったく不用意に近接戦闘を選ぶんじゃなかったぜ。
俺は手に持ったもう一つの鉄棒をサソリの口に向かって投げつける。
サソリは口のハサミで鉄棒を挟みへし折るが、鉄棒は盛大に火を噴き上げる。俺が魔力を追加で入れといたからな、美味しく頂けよ。
「ああ!買ったばっかりなのに!」
「ばか!そんな事言ってる場合か!」
手下君が情けない声を上げてサトッツヨ君がたしなめる。
あんまりグズグズしてると建物に被害が出ちまうな、一気に攻めるか。
俺は威力調整したファイアーボール鉄鋼弾、名付けて炸裂弾をハサミの関節部分にぶち込んで行く。フレスベルグの時みたいに力任せじゃない、精密な射撃と速射性を心掛け威力を押さえた炸裂弾だ。
関節部分に炸裂弾を複数喰らいサソリのハサミは弾けるように落下した。
身体から離れたてもハサミが動いてるので可動部分の根本に炸裂弾をぶち込んで破壊する。
反対のハサミで攻撃してくるが、こっちはさっき可動部分を破壊済みだ。挟むことが出来ないので左程警戒する必要はない。
それより強引な体制で攻撃に加わって来たカマキリが問題だ。
こいつの鎌は避けても風魔法をまとってるのか肌が薄く切り裂かれる。ススキの葉で手や足を切った時みたいにひりひりと痛痒くてむっちゃ不愉快だ。
「こんの野郎、チクチクさせやがって」
カマキリの頭に炸裂弾を放つが高速鎌でことごとく防がれてしまう。だが防いだと言っても弾いた炸裂弾はサソリの身体に当たって小爆発を起こしている。
小爆発を嫌ったサソリがハサミと尻尾で身体をまさぐる。炸裂弾の衝撃に何かが付着しているとでも思ったのだろう、ハサミとシッポは激しく身体をこすり、カマキリの胴体にぶち当たる。
カマキリは自分が攻撃されてと思ってか、サソリのハサミに向かって鎌を振るう。
サソリのハサミはカマキリの鎌攻撃によって破壊されてしまい、怒ったサソリは尻尾でカマキリを貫いた。
「うわっ、エグッ」
貫かれたカマキリの胴体から巨大な黒い線虫がウネウネとはみ出してくる。ハリガネムシか。
カマキリの勢いが落ちる。
水辺でもないのにハリガネムシが出て来たって事は宿主が瀕死になったって事だもんな。
サソリは尻尾で執拗にカマキリを攻撃する。カマキリの胴体は千切れてサソリから離れそうだ。
「うう、おぞましい」
グネグネと蠢くハリガネムシを見て俺は思わず顔をしかめてしまう。
カマキリとサソリはとうとう分離してしまいカマキリは動かなくなり、尻尾を動かしていたサソリの方も次第に動きが弱まった。
「なんかわかんないけど、これ放っておくのやだよな」
俺はまだ蠢いているハリガネムシを指差してストームに言う。
「やだよ!気持ち悪い!」
ストームも顔をしかめて言う。
「それじゃあ始末しちまおうぜ」
「えー?どうやるのさ」
顔をしかめたままストームが言う。
「こういうのには熱湯ぶっかけるに限る」
「そんなのでやっつけれるの?」
「多分、いけるだろ」
そうして俺とストームは火魔法と水魔法で熱湯を出して巨大なハリガネムシにぶっかけていった。
周囲に飛び散ったサソリカマキリの体液も洗い流せるし一石二鳥だろ。
熱湯をぶっかけられた巨大ハリガネムシはゆっくりとねじれ、じきに動かなくなった。
「いやー、しっかしエグかったなー」
「ほんと、気持ち悪い生き物だったねえ」
エグイ、気持ち悪いと言いながらも巨大ハリガネムシから目が離せない俺とストームだった。
「あのー」
顔をしかめながら巨大ハリガネムシを見ていた俺とストームにサトッツヨ君がおずおずと話しかけてくる。
「ん?どしたの?これ見たいの?」
ストームがハリガネムシを指差して言う。
「そうじゃなくて、あの、すいませんでした!」
サトッツヨ君は勢いよく頭を下げ手下君達もそれに続いた。
「ああ、構わないさ。それより怪我無かった?」
ストームが笑顔で言う。
「それは大丈夫です、お前らも大丈夫だよな?」
サトッツヨ君が言い手下君達は頷く。
「そういや、術式具ぶっ壊しちゃったな。弁償するよ、あれお幾ら程するの?」
俺は手下君達の方を見て言う。
「いやいやいやいや、そんなん結構っす」
手下君はブルブルと手を振り俺に言う。
「え~、本当に?悪いじゃんよ~。そんじゃあ、さ、代わりと言っちゃなんだけどさ、ちょっと待っててよ」
俺は周囲を見渡し乗って来たロングボードを探す。
「あったあった、こいつを代わりに進呈しよう」
俺はそう言って彼らにロングボードを渡す。
「え?いいんすか?」
「うん。気に入ったら居留地に今度出来る波乗りショップに来てくれよ。遊び方の講習なんかもやってるからさ」
「でも、俺達、君達を襲ったのに」
サトッツヨ君が下を向いて小さな声で言う。
「なーに言ってんだよ、ケンカが終わればダチだろ?なあ?ストーム?」
俺はサトッツヨ君の肩を叩いてストームを見る。
「そう言えばクルース君が壊した術式具ってふたつだったよね?だったらこっちも進呈していいかな?」
ストームはそう言って自分が乗っていたスケートボードを俺に見せる。
「そうだな、それでちょうどか」
俺はストームに笑って言う。
「はい、じゃあ、これもどうぞ。よかったら友達にも宣伝しといてよ」
ストームは笑顔で言いサトッツヨ君達はスケボーを受け取って目を潤ませていた。
うんうん、若いもんはこうでなくっちゃ。涙腺を潤ませながら若者たちを見ていると、けたたましい笛の音と共に衛兵隊が駆けつけてきた。
「そこを動くな!!武器を置いて地面に手をつけ!!」
衛兵さんは俺たちを取り囲み大きな声でそう言った。
「いや、ちょっと待って下さいよ。俺たちは被害者で」
「いいから言われた通りにしろ!!」
俺の言葉を遮って怒鳴る衛兵。
なんだよ、若者のすがすがしい青春模様を見て心洗われていたのに、今度は大人の横暴ですか?
盗んだ馬で走り出しますよ?




