デンジャーゾーンって素敵やん
俺たちは皆を一旦洞窟内に避難させるとフレスベルグ迎撃のために飛び出した。
「ジミーちゃんは甘いわね」
「なにがよ?」
俺は飛びながらポイ姉に尋ねる。
「あんな奴らリンチにあおうと知ったことではないでしょ?」
ポイ姉は俺が残してきた人達に、拘束した内通者ふたりを私刑にするような事はしないよう釘を刺してきた事を言っているだ。
「ああ、あれね。ああいう時って必ずそうなるでしょ?」
「まあ、なるでしょうね」
「でもって、ああいう連中って口が立つからさ、その混乱を利用して拘束を解かせて人質にとって逃走を図ったりするじゃん?そうなると面倒じゃん?」
「確かにあり得るわね」
「だから甘いってよりは面倒事を避けるためさ」
「ふーん、まあいいわ」
ポイ姉が意味ありげな笑みを浮かべて俺を見る。
「それよかあいつ、気を付ける点は?」
俺はフレスベルグを見て言う。近付くにつれてやつのデカさがわかるが、こりゃあ大型爆撃機だよ。
「羽の下は強烈な羽ばたきと鋭い爪、口の前は風魔法、その他の場所は羽を飛ばす攻撃に注意ね」
「なんだよ死角なしかよ」
攻撃手段の豊富なやっちゃで。
「定石は上から攻撃だな。攻撃に死角はないが奴の目には死角があるからな」
「それもこっちの攻撃に気付けば見えてない場所へも羽を飛ばしてくるから一緒だけどね。まあ、人のいる場所に落とさないように、それだけ気を付けてね」
「そういうこっちゃクルースちゃん。んじゃいっちょ派手にやりますか、俺は真ん中のを頂くぜ」
「私は左」
コゼランちゃんとポイ姉は言うが早いかフレスベルグに向かって急降下していく。
「そんじゃ俺は右の奴ね」
俺はV字編隊するフレスベルグのうち右手のやつに狙いを定めて急降下しながら鉄鋼弾を連射する。
鉄鋼弾はフレスベルグに当たり羽毛にめり込むが、当たった場所の羽毛が猛烈な勢いで俺に向かって飛んでくる。
俺は飛んで来る羽毛をきりもみ飛行で避け更に鉄鋼弾をぶち込んでから再び上昇する。
ふひょー、気分は戦闘機パイロットだ。
態勢を立て直し再度フレスベルグに接近するも羽毛の弾幕に阻まれ接近しきれない。
しかも羽毛弾は俺の居る位置を正確に補足しており、高速移動してもそれを追うように射線が移動する。
クソっ、こんなペースで羽を撃ってんのに良く丸裸にならねーな?すぐに再生してんのか?
確か目には死角アリってコゼランちゃんが言ってたな。
俺は奴の後方に位置を移す。
羽毛弾の弾幕が薄くなる。
「しめしめ」
下に見えるのは砂浜か、よし。
俺は目の前に見える奴の足の付け根に向けて火魔法でファイアーボールをまとわせた鉄鋼弾を連射する。
ファイアーボールをまとわせた鉄鋼弾はフレスベルグの右足付け根に着弾、煙を上げて爆発する。
「ゴアキョォォォォォォォォォォォォ!!!!」
フレスベルグが咆哮を上げ大気が震える。着弾した奴の足は皮一枚で繋がったって感じにブラブラしている。
火魔法と土魔法鉄鋼弾のミックスは初めて使ったがかなりの威力だな、使いどころに注意しないとやばいねこれは。
俺は更にファイアーボールミックス鉄鋼弾、じゃ長くていけねーな、炸裂弾とでも呼ぶか、その炸裂弾を奴の足元に連射する。
フレスベルグの巨大な足は千切れ眼下の砂浜に落下する。
もう一本の足も千切り落としたる!
俺は炸裂弾をもう一本の足の付け根に連射、すると奴は垂直に上昇しそれを避ける。
おいおい、そんな動きが出来るのかよ。
俺は垂直上昇した奴を目で追う。
「あ、まじーな」
なんと奴はこっちに腹を向け空中で静止していた。
「コアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
直後、猛烈な風と音波振動が俺を襲う。
俺は腕を顔の前でクロスし防御し鼓膜が破れないように口を開けた状態でゲイルダッシュし後方上空へ逃れる。
「あいつつつ」
目じりや耳の下に液体が流れ落ちるのを感じる。どうやら出血したようだ。耳がキーンとしてるが音は聞こえているから鼓膜は破れてねーな。
重爆撃機と交戦する戦闘機パイロット気分でいたが、奴は魔物だって事を忘れちゃヤバイ。どんな動きをするかわかったもんじゃねー。
フレスベルグは小首をかしげて俺を見ている。どうやら必殺の音波風魔法ミックス攻撃を喰らわせて俺が死んでいないのが不思議らしい。
しかしそうしていたのも一瞬の事、すぐに口を開け羽を広げ追撃態勢に入ろうとする。
「同じ攻撃を喰らうかよ」
俺はゲイルダッシュで再び上空に飛ぶ。
眼下に凄まじい空気の圧が通り過ぎる。
俺はフレスベルグに向かって急降下し、まだ空いている奴の口の中に炸裂弾を連射する。そしてそのまま炸裂弾を連射しながら奴の首元から腹した尾翼へと急降下する。
「ヒョハァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーー」
盛大に空気が抜けるような音がしてフレスベルグが腹を上に向けて砂浜へと落下していく。
こんだけデカイ魔物だ生命力も半端ねーだろ、しっかり止めを刺しとかねーと二次被害が心配だ。
俺は砂を巻き上げて墜落したフレスベルグの首を光魔法の回転ノコギリ、シエンちゃん命名する所の引き裂き光輪で切断する。こいつの肉が食えるのかわからないけど食えるんなら血抜きしといた方が美味いだろうよ。
「ちょっとアンタなにやってんのよ?倒さなくてもいいって言ったでしょもう」
「お?ポイ姉、そっちはもう済んだんだ」
「とっくよとっく」
「おいおい、倒しちまったのかよ?」
ポイ姉に続いてコゼランちゃんもやって来る。
「ああ、素材とか金になんねーかなって思ってさ。金になるなら居留地のために使えればと思って」
「そりゃ、金にはなるけどもよう。こんな所に放っておいたらシーウォーカーが寄ってくるぞ」
コゼランちゃんが言う。シーウォーカーってのはサハギンやアーヴァンク、シーグールなど二足歩行のできる海洋性魔物の総称だ。
「それなら心配ないですよ」
涼しい顔をして現れたのはクランケルだった。
「お?どした?こんな所で?夕涼みか?」
俺はクランケルに言う。
「どしたじゃありませんよクルース君、居留地は大騒ぎですよ」
「なんで?」
「なんでって、あれだけ凄まじい鳴き声がすれば大騒ぎにもなりますって」
クランケルが呆れたように言う。
「そっかー、そりゃ申し訳ない。子供達とか怯えてなかったか?」
「真っ先にアルスさんがなだめて回ったので大丈夫ですよ。アルスさんが言ってたんですよ、君が見当たらないって事はきっとその対処をしているに違いないから大丈夫だ、と」
「ありゃ、アルスちゃんそんな事言ってたか。事前に説明しとけばよかったな。悪い悪い、実はさ」
俺はクランケルに、分離居住区から自主的な脱出を試みたヤグー族の人々の案内をして来た事や、相手の計画、そして追手のフレスベルグの事を話して聞かせた。
「自主的な脱出ってのはちょっと苦しいわね」
俺の説明を聞いてポイ姉が渋い顔をする。
「それでクランケル君、シーウォーカーの心配がないっていうのはどういう事だい?」
「それは、ほら、こう言う事ですよ」
「うおっ、なんじゃこりゃ!」
「スゲーなこりゃ!」
「どうしたんだべこりゃあ」
コゼランちゃんの質問に答えるクランケルに呼応するかのように海岸に人が集まって来た。
「これは解体していいんですよねクルース君?」
「ああ、居留地のために使ってくれよ」
「それじゃあ、そう伝えてきますよ」
クランケルはそう言って集まった人の元へ歩いて行った。
「俺は衛兵に事情を話してから向かうわ」
コゼランちゃんは軽く手を上げ去って行く。
「さて、それじゃあ私達は自主的に脱出してきた人の所に戻るとしましょうか」
ポイ姉が殊更自主的と言う所を強調して言う。
「いや、あれは自主的って言っていいっしょ?強制連行した訳じゃないんだからさー」
俺はゲイルで飛びながらポイ姉に言う。
「勿論、それでいいわよー」
「なんか気になるんだよなあ、その言い方」
「それは自分でも苦しいってわかってるからじゃなくって?」
「そりゃ、わざわざ説得に行って一部避難路を確保してはいるけどさ、あくまで皆さんの意思を尊重してですね、自発的な行動とこちらは受け取っている訳でして」
「なーに偉い人のいい訳みたいな事を言ってるのよ。大丈夫よ、その辺りは上手く書くから」
「スンマセン、よろしくお願いします」
俺は素直に謝りお願いする。
「クス、うんうん、お姉さんに任せなさい」
主導権を握られているなあ。いかんなあ。
反省しながらも脱出民たちが隠れている洞窟へ到着。
俺とポイ姉は安全が確保できたことを皆に伝えた。
それを聞いた人々はホッと胸をなでおろすが、その後に言いずらそうな顔をして俺とポイ姉を見た。
「どうしたの?何か言いたい事でもあるのかしら?」
ポイ姉が問いかける。
「実は、内通者のふたりを逃がしてしまってな」
ガンスイが前に出て口を開く。
「正確には逃げたのに気づいたんだが、追う事をしなかったんだ」
「なんでかしら?」
ポイ姉が問う。
「あいつらは仲間を売るような事をして兵に目をかけて貰ってうまい汁を吸って生きてきたんだ。このまま、難民の居留地に行けばそのうち闇討ちされるかそうじゃなくても暮らし辛い事になるのは目に見えている。奴らもそれがわかってるから逃げた訳だしな。俺たちは拘束されたままでここから山を越えてジャーグルに入るのも、捕まえて厳しい生活をさせるのもどちらも変わるまいと判断した。そして、探索に行く危険や無事保護した後の奴らにかかる手間を考えて放置する事を選んだんだ。申し訳ない」
ガンスイが頭を下げる。
「頭を上げてくれ、あんたの判断は間違ってないと俺も思う。元々俺はあなた達を無理やり連れて行こうとは思っちゃいないんだ。それじゃあジャーグルがやってる事と変わらなくなっちまうからな。あくまでこれはあなた達の自主的な脱出であり俺たちは案内をしたに過ぎないんだから。ね?」
俺は最後にポイ姉を見る。
ポイ姉は肩をすくめて、もう、何回言うのよ?という目で俺を見る。
「そう言ってもらえるとありがたいよ」
ガンスイは深く息をついてそう言った。
「おーい、いるかー」
コゼランちゃんの声がするので俺は洞窟の外に出る。
「早いじゃん、ってなにそれ?」
俺はコゼランちゃんが持って来た担架みたいな物を見て尋ねる。
「何って皆さんの移動手段だよ。ここに横並びに座りゃあ三人位は運べるだろ?」
コゼランちゃんは担架を見せて言う。ってまんま担架だったか。
「しかしこっちは三人だろ?こいつで運ぶにゃ半端だな」
担架だから両側で持つのにふたりいた方がバランスが良い。
「そこはぬかりはないよ」
コゼランちゃんは笑みを浮かべる。
「ふう、ジミーさんはいつも独断専行ですね」
「まあまあ、私達は生徒会さんの護衛任務がありますから、それを気遣ってくれたんですよねトモトモ?」
「それを言うならクルース君にも護衛任務はあるのですが、まあ我々を信頼してくれたと思いましょう」
そう言って現れたのはケイト、アルスちゃん、クランケルだった。
クランケルが片手に担架をふたつ持っているのでこれで合計三つ。持ち手は俺、ポイ姉、コゼランちゃん、そしてケイト、アルスちゃん、クランケルで丁度だ。
分離居住区から脱出した人は逃げた二人を除くと48人だ。皆で五回運んで最後にひとペアが一回運べばお終いだ。
てなわけで俺たちは手分けをして皆を居留地まで運ぶのだった。




