観客を楽しませるのって素敵やん
「いや、トモちゃん!面白かったぞ!。だが、ちょっと地味すぎたなあ。もっと、大きな声を出したり、動き回ったり、悔しがったりといった観客に訴えかける事をしないとな!。」
「なるほど!参考になるよ!。」
「確かに言われてみると、そうかも知れぬな。どれ、あたしもひとつシエン先生の教え通りやって見るとするかね。」
そう言って闘技場へと向かうキーケちゃんは、まさに達人といった風情で貫禄十分だ。
「さて、連勝続きのウパタル探検隊から焚き火酒選手の入場です。」
「どうもこのチームの選手は妙な名前が多いですね、しかし、いずれも実力者ぞろいで玄人好みの渋い試合をします。焚き火酒選手は初戦で大将登録されておりましたので、この辺りで派手な試合展開を見せてくれるでしょうか、期待したいですね。」
「さあ、続きましてベイスメントガバリンズより雪月牙選手の入場です!!。」
「雪月牙選手は先ほどの暴風鬼選手の姉という事だそうで、弟の雪辱戦と、気合十分です。さらに焚き火酒選手と同じく、初戦で大将登録されておりましてこれも楽しみな試合ですね。」
「さあ、審判手を挙げて、試合開始です!!。」
雪月牙選手はどうやら女性のようで、そう言われると確かに体のラインが女性っぽいか。
よく見るとキレイな顔立ちをしているようで、緑色の肌と青い髪色、長く均整の取れた手足に得物は長い槍とクールビューティーな感じだ。
対するキーケちゃんは後ろに手を組んで飄々とした佇まいと、こちらは達人の風格。
さあ、達人対クールビューティーの戦いは如何に!
頭上や身体の横に縦横無尽に槍を回す雪月牙選手。
キーケちゃんは足を開き少し膝を曲げ、後ろに回していた手をゆっくりと身体の前に出すとまるで地面から出てくる何かを押さえつけるように手のひらを下に向けた。
キーケちゃんはその姿勢のまま、左右に上体を傾けている様に見えるが、どうした歩行法なのかジリジリと相手選手との間合いが詰まって行く。
クールビューティー雪月牙選手は、知らぬ間に交戦圏内に入られたようで驚いた表情をして、それでも素晴らしい速さで槍を突き出した。
キーケちゃんはそれを腕立て伏せの姿勢で避けてから前転をし引く槍より早く、腕の力を使って下方から伸びあがるような蹴りを放った。
「ワチャァーーッ!!。」
鳥のような声を上げて放った蹴りを不自然な上体のそらし方で避ける雪月牙選手。
「おーーっと!両者ともに素晴らしい反応速度ですね!。」
「はい、特に雪月牙選手は死角となる下からの蹴りに良く対応しましたね。しかし、体勢の崩れは止められません、どう凌ぐのか難しいところですね。」
確かに解説の言った通り、不自然な姿勢で避けた雪月牙選手に対してキーケちゃんは相手の背後に着地するや否や、両掌で押し出すように背中を突いた。
雪月牙選手はバランスを崩してたたらを踏むが、地面に槍を刺して棒高跳びの要領でジャンプしキーケちゃんとの間合いを取った。
今度は槍のリーチの長さを生かして、中距離から怒涛の突きを放つ雪月牙。
キーケちゃんは背中が地面と水平になるほど反り返ったスウェーバックで踊るように避け、更にその姿勢のまま裏拳で槍を払って見せた。
まるで、前世界でプリンスと呼ばれたイギリスのプロボクサーみたいだ。
妙な姿勢からの体重の乗らない裏拳とは思えぬ衝撃を受けたのか、雪月牙選手は槍を引いてあっけにとられた様に槍の側面を眺めた。
キーケちゃんは、片手でカモンとばかりに手のひらを上にしてクイクイやっている。
雪月牙選手は槍を地面に突き立てると、徒手格闘に切り替えた。
雪月牙選手の右のハイキックからの左の後ろ回し蹴りは、ほれぼれするほどキレイだったがキーケちゃんはしゃがみローキックで軸足を払い、雪月牙選手は自分の蹴りの勢いのまま倒れ込んでしまった。
背筋の伸びたキレイな姿勢で相手が立ち上がるのを待つキーケちゃん。
相手はゆっくり立ち上がると服のほこりを払い、地面に手をつき四つん這いになるとカタパルトから撃ち出されたみたいな勢いでキーケちゃんに体当たりをしてくる。
ロケットみたいな体当たりをキーケちゃんは足を広げ腰を落とし、真正面から受け止めた。
まるでマンガみたいにキーケちゃんがその姿勢のまま後ろに押されるが、足の跡を地面に残し勢いは弱まり止まる。
キーケちゃんが手を離すと雪月牙選手は即座に後ろに飛び間合いを取る。
再び背筋の伸びたキレイな姿勢で、おいでおいでとやるキーケちゃん。
雪月牙選手はフッと力が抜けたように笑い両手を上げた。
審判は近寄って雪月牙選手と何事か話し、勝者!焚き火酒選手!と宣言した。
どうやら相手選手は万策尽きたと降参したようだった。
ウーム、さすがはキーケちゃん。
相手の力を出し切って勝つスタイル。
ショウマンシップに溢れとります。
観客もそれに呼応するかのように焚き火酒!焚き火酒!とコールしてますよ。
相手選手と握手を交わし、観客に軽く手を上げて挨拶しこちらへ帰ってくるキーケちゃんは渋過ぎる。
帰ってきたキーケちゃんに手を出すと、すれ違いざまにハイタッチしてきて、俺はキーケちゃんのカッコよさに痺れたのだった。
「おっ!!なにそれ!!我も我も!!。」
直後にシエンちゃんがマネをして、すぐにシエンちゃんのペースになるのは御愛嬌だよ。
無事、第二試合も終了したので、残すところ明日の準決勝と決勝の二試合のみとなる。
そう考えると、自分がやる試合数自体は少ないな。
ストレート勝ちなら三人しか試合しないわけだし、今日も俺以外は一試合しかしなかったわけだし。
こりゃ、明日はシエンちゃんは二試合とも出たがるだろうなあ。
俺たちは案内係のネザーさんから明日の開始時刻や控室の場所などの説明を受け、ベスト4進出記念メダルを貰って解散と相成った。
俺たちは昨日と同じ温泉宿でもう一泊することにした。
どうやらみんな温泉が気に入ったらしい。
勿論、俺も温泉は好きだ。しっかり休んで明日への英気を養うとしよう。




