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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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続くトラブル錯綜する思惑って素敵やん

 俺とコゼランちゃんは声がした方へと走って行く。

 つーかコゼランちゃんの走り、めっちゃ速い!俺はゲイルブーストを軽くかけて着いて行く。


「どーした!」


 人だかりがする場所に到着し声をかけるコゼランちゃん。


「それが困った事になりまして」


 衛兵さんがこちらに向きなおり言うとその後ろに見えたのは、ボロ雑巾のような恰好をして横になっている男と彼に水を上げている衛兵、そしてなにやら憤慨した様子のタンゼニンの姿だった。


「彼は心身ともに衰弱し妄想を抱いている。彼の言う事を鵜呑みにすべきではありません」


 タンゼニンが強い口調で衛兵に言う。


「ですから、それをこれから確かめようとしている訳でして」


「発見されたのは我が教会の敷地内です。確認する権利は我らにあるはずで」


「しかしこの場所はアルロット領内でもありますので、やはりそう言う訳にはいきません」


 衛兵さんの言葉にわからない人だとばかりに頭を振るタンゼニン。


「なにがあったのか説明して貰いたいのだが」


 コゼランちゃんが落ち着いた口調で言いタンゼニンが挑戦的な目でこちらを見る。


「この男なのですが、どうやら分離居住区からやって来たらしいんですよ」


「なんだって?」


 衛兵さんの言葉を聞いて驚くコゼランちゃん。


「なんだい分離居住区って?」


 俺はコゼランちゃんに尋ねる。


「ヤグー族強制移住地区の事だよ。しかし、どこに出来たってんだ?まさか国境沿いにか?」


「どうやら、そのようでして」


 コゼランちゃんの問に衛兵さんが答える。


「だから、彼の妄言だと言ってるでしょう。わざわざ国境沿いに分離居住区を作る意味がないでしょう?隣の国に逃げて下さいと言ってるような物ではありませんか」


 タンゼニンが主張する。


「おや?公式にはヤグー族のために行った施策だと言う話しだったが、逃げなきゃいけないような事をしてるって自覚があるのかい?」


 コゼランちゃんが言う。


「どんなに与えても不満を言う者は必ずいます」


「与えても?奪っているの間違いじゃないのかい?」


「立場の違いからくる解釈の相違ですから、そこは話してもらちがあかないでしょう。とにかく我々としてはあらぬ噂を立てられてはとても迷惑です。幸い我々ドーンホーム教会は苦しむ者を救う場所です、彼に清潔な衣服と食事、それに寝る場所を提供し正常に戻って頂こうと、そう提案しているんですよ。それでもそちらが彼の身柄を拘束したいと言うのならば、我々の奉仕の後で彼が健康を取り戻してからにして頂きたい。これは人道的な観点からの提案ですよ」


 なーにが人道的観点だよ、都合の悪い事を言わないようにちょいと洗脳しましょうかって腹積もりだろうが。

 俺は真っ直ぐタンゼニンを見る。タンゼニンは口角を上げて軽く首を動かすと隣にいたボウラン地区長が頷き集まった信徒たちに向かってげきを飛ばすように、人道的手段をとらせろ!と叫んだ。

 信徒たちはそれに倣って、人道的手段をとらせろ!と一斉に叫び出した。 

 タンゼニンは笑ってこちらを見る。

 信徒たちのシュプレヒコールに、なんだなんだ、と記者団も集まって来た。


「なにがあったのですか?聞かせて貰ってよろしいですかな?」


 デイリーホザダのミカナキ記者がタンゼニンへ声をかける。

 タンゼニンが友好的な笑顔を浮かべて軽く手を上げると信徒たちのシュプレヒコールが止む。

 まったく、こんな所ばかり統制が取れてるんだよね、こういう連中って。

 それにミカナキ記者も、この場合、話を聞くのは衛兵からが筋じゃないのか?なぜ一直線にタンゼニンへ?

 俺は奇妙に思いミカナキを見る。

 タンゼニンはミカナキに自分たちサイドの見解を説明する。


「ほうほう、ふむふむ、なるほどなるほど。要するにですな、話をまとめますとドーンホーム教会さんは行き倒れた人を助けたいと、こう申している訳ですな。非常に人道的で正しい行為に思えますが、それを咎めるのはなぜなのですかな?アルロット領の意向ですか?そこの所を聞かせて下さい」


 ミカナキが大きな声で衛兵さんに言い、記者団がどよめいた。

 おいおい、我こそは記者団代表なりってな顔してんじゃねーぞミカナキ。


「別に咎めている訳ではなくてですね、彼が国境沿いに出来た分離居住区から脱走して来たと言うので、そこの所を詳しく聞かねばならない訳でして」


「こんな衰弱しきった状態でですか?彼を殺して口を封じようとでも言うのですか?そして言ってもいない分離居住区からの脱走を事実にしようと、そういう腹積もりですかな?」


 ミカナキ記者が芝居がかった口調で言い、記者団が更にどよめく。


「ちょちょちょ、待って下さいよ、皆さん。結果を急ぎ過ぎですよ。まだ、なにも決まったわけではないでしょう?普通に行き倒れの人って可能性もあるんですからね。普通の行き倒れがあった場合、アルロット領ではどうしているんですか?」


 俺は手を上げて大きな声で言う。


「衛兵詰め所で介抱し健康状態が戻った事を確認してから事情の聴取ですね。事件や事故ではない事が確認されればその場で釈放ですよ」


 衛兵さんが言う。


「その際の治療費などは?」


「領持ちですよ。税収の一部はそうした所にも使われていますからね。回復後、家に帰るお金がない場合なども額にもよりますが領から出ますよ。家も身寄りもない場合は希望があれば定住場所や仕事を斡旋する仕組みもあります」


「なるほど、ありがとうございました。でしたら国民の血税が使われてるシステムなんですから国民が利用するのは当たり前です、更にその後のケアもできてるんですから、これはもう衛兵さんに任せるのが当然ではないですか?ドーンホーム教会さんの御厚意はありがたいのですが、今はそちらさんもこうして慣れない地での生活に色々とご苦労なさっているでしょうから、ここは国に任せるという事で如何でしょうか?」


 俺は記者団にも聞こえるように大きな声で言う。


「しかし、それは彼がバッグゼッド帝国民であった場合の話しだ!そうじゃなかった場合も、国民の血税を使うのかね!」


 ミカナキが大きな声で言いタンゼニンが苦い顔をする。タンゼニンさん、あんたは味方にする相手を間違ったよ。


「バッグゼッド帝国民でないならば、尚更の事、衛兵さんに任せるべきでしょう。異国の民が行き倒れなんて、下手な事をすれば国際問題に発展しかねないですからね」


「しかしだな」


「まあまあまあ、ここはお国に任せて下さいよ。国は皆さんの安全を守る味方なんですからね、すぐに命に別状はなさそうですが衰弱している事は確かですから、彼のためにも、ここはひとつスムーズに救助活動をさせては貰えませんか、お願いしますよ」


 尚も食い下がろうとするミカナキを制して、コゼランちゃんはタンゼニンに頭を下げた。

 記者団がおおー、と感嘆の声を上げる。

 完全に人命救助を阻止する側にまわってしまったなタンゼニン。


「別に我々は救助活動を邪魔しようとしていた訳ではありません。我々がその任に預かろうかと提案していただけの事です。そうした理由があるのならば我々も無理にとは言いません、どうぞ活動を再開されて下さい」


「え?しかしですな、この件は国や領の横暴行為とも取れるわけでしてな」


「もう結構ですと申し上げているのです、あなたも余計に事態を混乱させるような言動は慎んでいただきたい。皆さん、そう言う事ですから帰りましょう神の場所に」


 踵を返すタンゼニンにすがるような視線を送るミカナキ。はしごを外されたような気分なんだろうな。ミカナキもこれに懲りて何でもかんでも食いつけば良いって姿勢を改めて貰いたいものだ。


「ありがとうございます、助かりました」


「いやいや、大変ですなあ」


 衛兵さんに感謝されたコゼランちゃんは労うように言う。衛兵さんは何とも言えない顔をして軽く会釈をし、周囲の衛兵に指示を出し行き倒れ男を搬送させていった。


「まったく、内憂外患だなここは」


 コゼランちゃんがため息交じりに言う。


「そういうのは慣れっこじゃないのかい?」


「う~ん、ちょっと違うかなあ~。いつもはもっと、こうなんてーの?ひりつくような駆け引きや謀略でまだやりやすいけどよ、こうネチネチ中途半端にやられちゃ、スッキリしないね」


「スッキリの感覚がもう、わけがわかんねー事になっとるな」


「俺自身そう思うけどよ」


 コゼランちゃんが頭の後ろで手を組んで言う。なんか葉っぱでもくわえかねない勢いだ。


「しかし、どうしたもんかね?」


「なにがよ?」


「なにがってコゼランちゃん、分離居住区の話さ」


「国境沿いにできてたらってか?無茶な事は考えるなよクルースちゃん」


 コゼランちゃんが頭の後ろで組んでた手を戻して真面目な顔をして言う。


「わかってるさ、強引に武力解放させようなんて思っちゃいないよ、多分、それが奴らの狙いだろうしな」


「ああ、俺もそう思うね。わざわざ脱走者を出してこちらに情報を流したのも、こちらにチョッカイかけさせて国際問題にしようって魂胆だろうな。目的は金か、帝国の立場を悪くさせるためなのか、あるいはその両方か」


「タンゼニンが引き下がったのも、その辺の事情ありきかも知れないな」


「奴の立ち位置が微妙なんだよな。ジャーグルべったりなのか、ドーンホーム独自路線なのか」


「ジャーグルべったりなら脱走者の存在は知らされていたはずだ。それならば確保する理由はなくないか?」


 俺はコゼランちゃんに問う。


「身柄の確保を主張する事で脱走者を使って情報をわざと流した可能性を薄くする意図があったのかも知れんぞ」


「なるほど、それも考えられるか」


「ドーンホーム独自路線だとすると、国境沿いに分離居住区ができた情報を隠蔽しようとしたが話してるうちにジャーグルの思惑に気付き自然な形を装い引き下がったとも考えられるな」


「どちらにしてもジャーグル寄りである事は確かか」


「ああ、だがもしこの情報を知らされてなかったとすれば、タンゼニンはきっと今頃焦ってるぜ?下手をすりゃあ敵地で火だるまだからなあ」


「しばらく大人しくしてくれれば俺としては大助かりだけどな」


「どうだろうな、奴も結構やり手っぽいぞ」


「期待はできないか。まあ、いいさ。それよりコゼランちゃん、今夜お暇?」


「なんだよ突然、飲みの誘いって訳じゃなさそうだな」


 コゼランちゃんが微妙な顔をして俺を見る。


「ああ、夜のお散歩にお誘いしようかと思ってさ」


「おいおいおい、無茶はするなと言っただろ?」


「無茶はしないさ、ちょっと話し合いに行こうかなと」


「参ったねどうも、なにするつもりかちょっとお茶でも飲みながら聞かせて貰おうじゃないの」


 コゼランちゃんが俺の肩に手を回してグッとひっぱった。


「んじゃあ、行きますか」


 俺は笑顔で答えるのだった。


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