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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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文化財と商材って素敵やん

 「博物館の後は実際に青空美術館を散策して頂きたいと思います」


 博物館前の広場でアルロット会長が皆に言う。

 青空美術館ってのはここいら辺り一帯の事だ。昔は栄えたがその後、急激に需要が減った事で多くの商家が撤退し結果、当時の景観を残す事になった地区である。

 こういう所を歩くのは個人的に非常に好きなので大歓迎である。


「皆さんには四つの班に分かれて行動して頂きます。それぞれの班には我々生徒会がガイドにつきたいと思います、ではお願いします」


 アルロット会長はそう言うと、記者団の前に生徒会のメンバーを並べて組を作った。

 組の内訳はまずアルロット会長とフィン書記ペア、そしてコバーン体育部長とブリーニェル副会長ペア、オライリー会計とヴォーン生活部長、そしてマディー学芸部長のペアは。


「え?なんでシャンドレさんがそこにいる訳?」


 マディー学芸部長の隣りでぎこちない笑みを浮かべるシャンドレ記者の姿に、俺は思わずそうこぼしてしまった。


「この辺りの事に詳しいからって会長がお願いしたらしいよ」


 ストームが言う。


「そうなのか、なんか俺、その辺の事、全然知らされてないんですけど」


 俺はちょっと拗ねる。


「そりゃクルース君が単独行動ばかりしてるからだよ」


「まあ、確かにそうか、ってなんだよ警護の番も俺抜きで決まってんのかよ?」


 ストームの言葉に仕方なしと納得してふと班分けを見れば、警護担当で来ている俺をのぞいたメンバー、ケイト、アルスちゃん、クランケルはそれぞれ会長班、体育部長班、会計班に加わっていた。


「それは決めてなかったけど、クルース君のために空けといたんじゃない?」


 ストームが言うので警護担当がいないマディー学芸部長の列を見ると、ポインター記者とディアナがしなをつくって俺を手招きしているのが見えた。


「おい、俺のためだあ?厄介な荷物を押し付けただけちゃうんかい?」


「まあ、そう言わないでよ僕も入るからさ」


 俺はストームに肩を叩かれながらマディー学芸部長とシャンドレ記者の列に加わった。

 よく見ればデイリーホザダのミカナキ記者とその取り巻き連中もいるじゃないか、おいおいおいと俺はクランケル達を見るが皆、涼し気な表情で笑みをを浮かべているばかり。


「ふぅ~~」


「ちょっとジミー、ため息なんかついてどういう事よ!私をガイドできるんだからもっと嬉しそうにしなさいよ」


「そうそう、こんな美女二人をガイドできるなんて光栄に思った方が良くってよ」


 ディアナに続いてポインター記者が言う。


「いつの間にそんなコンビネーションを身につけたんよ?」


 俺はディアナとポインター記者を見て言う。


「まあ、なんて言うの?女子力の高さに共感した的な?」


 ディアナがすまし顔で言いポインター記者もそれに調子を合わせて腕組みして頷く。


「それでは出発しまーす。まずは街が一望できるバラと弓展望公園に行きたいと思いまーす」


 シャンドレ記者が大きな声で言い手を振った。

 おお、ちゃんとしたツアーじゃないの。

 俺はシャンドレ記者の先導で街を歩く。記者団の数は学園から一緒に来た記者達に加えアルロット領で合流した者達も合わせて結構な人数になっていた。今、四つの班に分かれて一班当たり十五人程なので総勢で六十人って所か。かなりの数だな。


「今更だが記者の数がスゲーな。それだけ注目されてるって事なのかね?」


「ホントに今更だよクルース君」


 ストームがあきれ顔で言う。


「国外からも来ているからね、そりゃあ注目度高いわよ」


「マジで?国外からも来てるんじゃそりゃ数も多くなるわなあ」


 ポインター記者の言葉に俺は驚き納得する。


「まったく、相変わらず吞気だこと。それだけバッグゼッド帝国の動きは警戒されているって事なのよ、あんまりのんびり構えてると大変よ~~」


 ポインター記者が俺を脅かすようにおどろおどろしい口調で言う。


「勘弁してよ、難民受け入れにあまり政治的な意味を持たせないでくれよ、頼むよホント」


「こちらの橋は髪切り橋と言います。昔、橋が崩れないように川に生贄を捧げる代わりに髪の毛を流していた事からその名がつきました」


 シャンドレ記者が説明し記者達が橋から下を流れる川を眺めて声を上げた。

 橋から川までの距離はそこそこある、十メートルはあるか?川の流れは穏やかで水量も少ないが川ってのは機嫌がコロコロ変わるからな。

 橋を渡るとカラフルな色をした可愛らしい建物が並んでいる。


「こちらは飲食店街になります。現在、営業しているのは一軒のみになりますが、皆さんの書く魅力的な記事によって訪れる人の数が今後増える事でしょうから、営業できる店もそれに伴って増える事と思います」


 マディー学芸部長が言い、記者団が笑った。

 連なる元店舗を見れば、軒先にきれいなイスやテーブルが並べられたオープンカフェ風味の店や、看板に立体的な魚の彫刻があしらわれた店などあり、これが全て営業してたらさぞや賑やかな事だろうなと在りし日の事に思いをはせてしまう。


「なあに遠い目をして」


 ポインター記者が俺を見る。


「いや、ついここが賑やかだったであろう時の事を想像してね」


「何言ってんだよジミー、これからっしょこれから!盛り上げていきまっしょい!!」


 ディアナが元気良く言って飛び跳ねおれの背中をバシッと叩く。


「んっがっくっくっ」


 俺は大人の事情で現在では見られなくなった前世の国民的アニメのエンディングの真似をした。


「ぎゃはははは!これだからジミーは!」


 ディアナが爆笑する。いいねえ、これだけ良いリアクションが貰えるとこっちもちょけた甲斐があるってなもんだよ。

 ポインター記者が呆れたように肩をすくめて見せ、ストームはまあまあと言った顔をしてそれを見た。

 長く続く階段を上って行くと開けた場所へ出る。


「こちらがバラと弓展望台になります。こちらの展望台はすぐそこに見えます大きな屋敷の持ち主であったクェーサー・チェスロム氏が作ったもので、チェスロム家の家紋からバラと弓展望台と名付けられました」


 シャンドレ記者が説明する。

 大きな広場には噴水があり、その向こう側には大きなお屋敷が見える。そして展望台の名前の通り、屋敷の反対側を見渡せば街が一望できた。

 記者達が眼下に見える街並みを見て感嘆の声を上げる。

 噴水が上げる水のせいか風が涼しくてとても気持ちが良い。


「その屋敷の持ち主は今は何をされているのですか?」


「チェスロム氏はチェスロム汽船商会の会長でしたが、魔導技術の発展に伴い運河を使った船による運搬が減少しワイン酒造に手を出したところ大冷害による不作で大赤字を出し出奔してしまわれました。この街の商人たちが大量に撤退するきっかけになったと言われています」


 記者の質問に流ちょうに答えるシャンドレ記者。

 マディー学芸部長は展望台から見える景色の説明を集まった記者達にしている。

 とても素晴らしい景色だ、これは素晴らしい観光資源だと思う。

 ただ、人が集まるならそれに伴った設備も必要にはなってくるな。


「なーに考えてんだよジミー」


「ああ、人が集まるなら色々と必要なものがあるなってな」


「さすが商売人」


 俺の返答にディアナが笑う。


「必要なものってなんだい?」


 ストームが興味をもち尋ねてくる。


「座る場所とかゴミを入れる場所とか用を足す場所とかだな。せっかくきれいな街並みなんだからさ、汚したくないだろ?」


「確かにそうね、この場所の価値を落とすような発展のさせ方はしたくないものね」


「だよな」


 俺はポインター記者に言う。


「で、ジミーならどうする?この場所をどう盛り上げる?」


 ディアナが挑戦的な笑みを浮かべて俺を見る。なに?そのお手並み拝見的な笑みは?だったらちょっとオジサン本気出しちゃうよ?


「そうだな、バッグゼッド帝国ってな若者に力がある良い国だと思うんだよ。魔導技術の急速な発展で国民のほとんどは飢えから解放されて生活必需品以外の物を求めてるけど、若者は特にそうした傾向が強い。だから若い人達こそみんなが次に求めるものをわかってるんじゃないかと思うんだよ」


「それで、どう動くのよ?」


 ディアナの目に真剣なものが宿る。


「ここにある空の店を若い人に積極的に任せたいと思う。だけど若者ってのは金がないだろ?」


 展望台から見える眼下の景色を見ながら俺は言う。


「まあ、ないね」


 ディアナが答える。


「だからそうした若者のために改修費や賃料などを補助する仕組みを作りたいね」


「へえ、なにそれ?面白いじゃん。具体的にはどうするのよ?」


「そうだな、どこと手を組むかにもよるけど仮にケイトモでやるとしたら、経営のノウハウやなんかを教えるスクールに入って貰ってそこの学生扱いって事で低利子融資をするかな。学校で学ぶって話になればある程度の身元保証にもなるだろ?人柄ややる気なんかも見れるし、借りるだけ借りてバックレる奴を減らすのに丁度良くもあるだろ?」


「いいじゃないか!その話、会長に聞かせても良いかクルース君!」


「ぬおっ!マディーさん聞いてたんですか」


 突然大きな声を出すマディー学芸部長に俺は思わず仰け反ってしまう。


「そりゃこんな近くにいれば嫌でも耳に入るってもんさ。その話、ケイトモで進める前に会長に聞かせたいんだが構わないか?」


「そりゃ構いませんよ、今思いついただけの事ですし」


「そうか!会長もお喜びになるに違いない!ありがとうクルース君!」


 マディー学芸部長は俺の肩をバシバシと叩き豪快に笑った。

 なんか今日は叩かれてばっかりだな。


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