ぶつかり合いって素敵やん
さて、本日は後一試合あるんですよ。
まずはファイティングパワーズ対カスターオイルズ。
名前の通りの、腕力戦闘集団とこれまた腕力系のブタ顔系、これはオーク系なのかね?の戦いは、これが実は結構見ごたえがあったのよ。
なんだか野生動物のドキュメンタリー番組でも見てるみたい。
サイと水牛が戦って水牛が勝ってみたり、みたいな感じ。
力と力のぶつかり合いは、手に汗握るものだった。手に汗握るものではあったのだが、いざ自分たちが戦うとなると、どうやって接戦にするか頭を悩ませるところだ。
アルスちゃんの試合は良かったもんな。
見てる観客も盛り上がったし、最後意識が戻った対戦相手が恥ずかしそうにアルスちゃんに握手を求めていたのなんて、試合以上の歓声が上がったもんだったよ。
力こそパワーなこの戦いを制したのは、これが粘りに粘ったファイティングパワーズだった。
第一ブロック最初に準決勝へ駒を進めたのは、力こそパワーのマッチョ集団ファイティングパワーズでした。
我々の次の試合は、小柄な身体ながらスピードと小回りの効いた攻撃で勝ち進んだ小鬼集団ベイスメントガバリンズだ。やたらいかつい名前ね。ストリートギャングみたい。
先鋒シエンちゃんて、もう心配が止まりませんが、シエンちゃんは名前を、ちなみにリングネームは肉お肉というトホホネームではあったが、呼ばれて入場するのにバク転の連続で入場しましたよ。
もう、目立つなよってあれだけキーケちゃんに念を押されていたのに。
キーケちゃんを見ると、ほうほう、いい度胸をしとるのう、と笑いながら呟いていた。怖いです。
歓声に両手を上げてこたえるシエンちゃん。
「ベイスメントガバリンズから、シルバーファング選手の入場です!。」
対戦相手は、向こうも順番を入れ替えてきたようで初戦の先鋒とは違う小鬼さんが出てくる。
シルバーファング選手も対抗心を燃やしたのか、身体を高速回転させて小さな竜巻のようになって入場してくる。目が回らないのかね?
審判の掛け声で試合が開始される。
「よっ!はーっ!ソイヤッ!!。」
シエンちゃんは大きな声を出しながらファイティングポーズをとり、小刻みに跳ねながら左右に移動している。
「何をやっておるのだシエンは。」
キーケちゃんが頭を押さえうなだれる。
「でも、彼女なりに接戦を演出しようとがんばっているんですよう。」
アルスちゃんがフォローする。
「幾ら何でも猿芝居が過ぎるだろ。ほら、対戦相手を見てみろ。馬鹿にされたと思って憤慨しておるぞ。」
対戦相手のシルバーファング選手は、侮辱と受け取ったようで、腰に差していた剣を抜いてバカにするな!と抗議していた。
「おーーっと!肉お肉選手!シルバーファング選手選手に対して非常に挑発的な行動をとってますねー!これにはシルバーファング選手も猛抗議です!。」
「そうですね、肉お肉選手ですか、名前からして非常に挑発的ですね。あの動きも最初は素人なのかと思いましたが、この挑発的な名前からしても煽り行為と考えて間違いないでしょう。」
「どうにも、この解説と実況の人たちも、わかってボケているんじゃないかねえ。」
「そんな事はないと思いますよトモトモ。一生懸命やってらっしゃると思いますよ。」
「だといいけど。」
試合は猛抗議するシルバーファング選手に、シエンちゃんがおかしいなあといった感じに頭を傾げている所で、その仕草に場内は爆笑の渦に包まれ、相手の怒りの火に油を注ぐ結果となった。
「何たる無礼!成敗致す!!。」
シルバーファング選手は剣を両手で持ち上段に構え、ゆっくりと円を描くように時計回りに動かした。
「なんだ!なんなんだ!それ!目を回す作戦か?そうだろ?。」
うるさく尋ねるシエンちゃんに、相手選手は少し嫌そうな顔をした。
「今、嫌そうな顔したよね。」
「ええ、しましたねえ。」
俺とアルスちゃんは言い合って笑った。
シルバー選手は時計回りに動かした剣を真下で止め、凄い速さでシエンちゃんの足元に切りつけて来た。
「うわっ!あっぶな!不意打ちか!不意打ちだな!。」
途中よそ見をしていたシエンちゃんは急に足元を切り付けられた感じになり、目の前で起きているのに不意打ちを受けたようなことに勝手に一人でなっていたのだった。
おかしな体勢で避けたシエンちゃんは、普通の人が見れば不意打ちに体勢崩して何とか逃げたように映っていることだろう、それは非常に良い事だ。
だが、シエンちゃんは普通の身体能力ではない。
それこそ、魔法を使わなくても単純な筋力で片足で反り返ってから元のポジションに戻るくらいやってのける。
彼女にとっては、無理な体勢などないのだ。
その証拠に、足元を切り払った後の下から上への伸びあがる攻撃も、そのままジャンプした相手が空中から放った短剣もすべて妙な体勢のままよけきっている。
それがまた、前世界のサイレント映画、喜劇王と呼ばれた大俳優の映画の1シーンように、降りかかる災厄を偶然にすべて避けきってしまったように見えて、場内は笑いと拍手に包まれた。
実際は、その喜劇王と同じで偶然などでは勿論ないわけだけどね。
辺にひねった体勢から元に戻ったシエンちゃん。
「もちょっと、手加減しろよなー!カッコ悪いとこ見せちゃったじゃないかー!。」
ご立腹でした。
変なことを言われて面食らったのか、一瞬キョトンとしたシルバー選手は直ぐに気を取り直して、左手に剣、右手に短剣を構え、間を詰めて来た。
連続攻撃を繰り出すシルバー選手、それを下がりながら素手で受け流すシエンちゃん。
どよめく場内、上がる歓声。
シエンちゃんの下がり方がだんだんゆっくりになり、止まった。
止まったままの攻防、今度は段々とシエンちゃんが押していく。
受けに回るシルバー選手を上手に押していくシエンちゃん。
この辺りの力加減はかなり絶妙で、キーケちゃんも、やればできるではないか、と頷いていた。
この一連の流れはそれこそサイレント映画の喜劇そのものだったが、観客には非常に受けた。
押しているシエンちゃんに、場内からお肉!お肉!とお肉コールが起きる。うーん、なんのこっちゃ。
シエンちゃんに押されて、闘技場の壁際に追い込まれるシルバー選手。
シエンちゃんの大振りの右平手をかいくぐるシルバー選手。
立場逆転、今度はシエンちゃんが壁際に追い込まれた形になる。
いよいよ盛り上がる場内、響く歓声。
シルバー選手の左手剣が右上から左下へと鋭く下ろされる。
シエンちゃんはそれを右肩を引いて避け、そのまま左手でシルバー選手の右肩を押さえて回転方向に力を加えたもんだから、シルバー選手はもんどりうって倒れてしまった。
おう!中々どうして見せる戦い方をするじゃあないっすか!
と思ったら場内の沸き方はイマイチだった。
「あれ?今の攻防面白かったけど、場内の盛り上がりはイマイチだったね。」
「それは、ほとんどの客にはただ勢いがつきすぎてひっくり返った様にしか見えとらぬからよ。やられた方も何が起きたかわかっておるまいよ。」
「ありゃま。」
「それは、わてのマネでっかクルースはん。」
「そうでおま!。」
「ホンマに食えぬお人でっせ。」
そう言っている間にシエンちゃんがシルバー選手の頭を掴み締めあげている。
「どうだ!秘儀、ドラゴンクロー!!。」
いや、確かにドラゴンさんですけど、やってることはただのアイアンクローですから。
「おーーっと!これは何ですか!!。」
「これはですね、オルホールさん、脳天締めですね。」
「脳天締めですか!!。」
「はい、普通は動きの止まった相手にかける技ですが、肉お肉選手は相手の一瞬の隙をついて掴みましたね。恐ろしい握力ですよこれは。そしてこの技、地味ですがかなりの苦痛を伴います。」
「なんと言う事でしょうか!!肉選手の恐るべき握力にシルバーファング選手はどこまで耐えられるのか!!。」
審判が近寄り様子を見ている。
審判はシルバーファング選手に何かを問いかけているが、何度かの呼びかけの後にシエンちゃんの手をつかみ技を止めさせた。
「勝者!肉お肉選手!!。」
審判が声高らかに宣言する。
「どうやら、シルバーファング選手のギブアップが入ったようですね。」
「いやー、あれはキツイですからね、よく頑張った方だと言えるでしょう。」
「いやー、いい汗かいた!!。」
シエンちゃんが肩を回しながら帰ってきた。
「どうだった、我の戦いは?。」
「まあ、良かったんじゃない?接戦ぽく見えたしね。」
「シエンよ、あの入場の仕方はなんだ。あれだけ目立つなと言ったであろう。」
「いやー、試合内容を地味にする代わりに入場ぐらいはいいかなって。」
「まあ、良い。次は気を付けるのだぞ。」
「はーい!。」
返事は良いシエンちゃん。
さて次はわたくしめにございます。
名前を呼ばれて試合場に入るが、やっぱり心なしか歓声が少ないような。
いやいや、それを気にすると落ち込むからやめとこう。
俺の対戦相手は、暴風鬼選手。
小柄なゴブリン軍団の中では大柄な方なのだろう。他の選手より頭一つ大きく筋肉質な引き締まった体躯をしており、得物は両手に持った細い棒。
その二本の棒を、まるで舞を踊るかのように華麗に振り回しながらの入場は見る者を魅了し、場内は感嘆の声に包まれた。
おおー!こりゃ、まるで前世界のフィリピン武術エスクリマのオリシ使いだ!カッコイイ!!
オリシってのは短い棒の事で、エスクリマの中でもこれを両手で操る技術を双短棒術、ドブレバストンと呼ぶのだが、とにかく、かっこいいのよ。
フィリピンでは国技認定されていたっけね。
いやー、前世界で映画や何かでよく見たアレを実体験できるとは!!
これは、ワクワクしてきましたよ!
俺は審判の開始の声の後、対戦相手の暴風鬼選手に深くお辞儀をし敬意を払った。
暴風鬼選手も武の技術を身に着けた、いわば武人なのだろう俺にこたえて礼をしてくれた。
俺は間を取り、両足を肩幅ほどに広げ右足を半歩下げ、正面から相対する。
半身にはならないシラットという格闘技のスタンスだ。
暴風鬼選手は両手のスティックをまるで和太鼓を叩くように、器用に回しながら交互に振り下ろし、近づいてくる。
俺もシラットスタンスを崩さぬままじりじりと間合いを詰め、交戦圏内に入る。
相手のスティックを握った拳を掌底で受け止め払う、暴風鬼選手は距離やタイミングによりスティックでの攻撃と握った拳での攻撃に分けてくるので、その度にこちらもミートポイントをずらし、相手の手首辺りを手の甲や親指付け根辺りで受けたり払ったり、タイミングが合えば押さえ逆の手で打撃を加えるなどする。
相手もやるもので、スティックの持つ位置がいつの間にか中心近くになっており、片手で持ったスティックを手首の動きで振り角度を変え、俺の押さえを避け逆に俺の手首にひっかけ引きつけ体勢の崩しにかかられたりもする。
俺は引かれるまま前に出て肘を入れようとするが、反対に持ったスティックで即座にボディーを払われてもろに食らってしまったので、思わずゲイルを発動して飛んで衝撃を逃がしてしまった。
うわぁ、相手が魔法を使わない限り俺も使うまいと思ってたのにな。
俺は飛んで逃げた先で、肩と首を回し調子を整える。
暴風鬼選手はニヤリと笑い、スティック同士をリズミカルに叩いて余裕を見せた。
うーん、なんか俺がやられ役みたいになってないか?
よーし、だったらちょっと速度を上げるぞ。
正面を向いたまま、間合いを詰めていく。
暴風鬼選手はストレートパンチを繰り出すように鋭く右手を伸ばし、手首のスナップでスティックを叩きこんでくる。
俺はそれを左手で外側から受けてそらし、同時に下から右手を巻きつけるように入れ相手のスティックを持った手首に引っかけ左の肘を入れ、その後、右のパンチを相手の肩口に入れた。
後ろに倒れ込み、驚いた顔をする暴風鬼選手。
シラットの技を初めて見たのだろう。
シラットというのは前世界の東南アジアの伝統武術なんだがこちらの世界に来る前、映画やマンガなど様々なエンタメ作品に登場し、その新しい動きと激しいアクションで人気が出ていた武術だったのだ。
暴風鬼選手は仰向けに倒れた状態から、ネックスプリングで跳ね起きると一気にこちらへ向かってきた。
俺は先ほどと同じく正面から受け、捌き流し、タイミングが合えば掌底を入れていく。
攻撃が当たらず焦れたのか暴風鬼選手は、回し蹴りを放ってきたので俺は懐に飛び込み蹴り足をすくってそのまま転倒させ、すくった足を抱えたまま暴風鬼選手の喉に膝を入れて動きを封じた。
スティックで攻撃をしてこようとすれば喉を圧迫していた膝に力を加えた。
審判が近づいて来て暴風鬼選手にギブアップするか尋ねた。
暴風鬼選手はしばらく喉元に力を入れ耐えていたが、頷いたので俺は膝の力を抜く。
審判が俺のリングネームを呼び、会場からは健闘を称える拍手が聞こえて来た。
俺は起き上がる暴風鬼選手と握手をした。
「世の中は広いですな。修行に励みますよ。」
暴風鬼選手は、はにかみながらそう言って入場口へ戻って行ったので俺は、いつかまた、と声をかけたのだった。
ウーム、俺的にはいい戦いだったのだが、場内の盛り上がりはどうも今一つに感じるんだよね。
戻ってみんなにそこんトコロ聞いてみなくちゃな。




