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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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進むテーマパーク計画って素敵やん

 「詳しくお聞かせ願えますか?」


「ええ。ちょうど良いので子供達にも説明いたしましょう。子供達、みんなついていらっしゃい」


 ヴァルターさんが言うと子供もたちは、はーい!と元気良く答えた。


「まずはクルーさんのおっしゃっていた複合行楽場所の件です」


 ヴァルターさんは歩きながら言う。


「おっといきなり本命ですね。そいつは規模が大きいので後回しになると思ってましたよ」


「ええ、クルースさんの構想みたいな規模にするには時間かかりますが、まずは小さな規模からやってみたらどうだと言うのがご主人様の考えでして」


「しかし、色々と不穏な状況下ですが大丈夫でしょうか?」


「ご主人様はそうした状況下だからこそ小規模でも始める価値があるとお考えです。敵は難民の皆さんがここで生活する事が帝国の厄介事になると皆に思わせようとしているフシがあります。だったらその逆をやってやれと言うのが我が主の意見です」


「なるほど、素晴らしい考えだと思います」


「ありがとうございます。警備の兵を増やすのにも外部からの人の出入りが多くなるから、と言う名目も立ちますからね」


「警備を増やすのに名目がいるんですか?」


「はい。難民受け入れに否定的な立場の方々は、結局アルロット領も難民を武力支配する気なのだろうなどとくちばしを突っ込みますので」


 ヴァルターさんは困った顔をして言う。


「ふうむ、それは色々と厄介ですね。否定派の中に警備兵を増やされると困る者達がいる可能性もありますね」


「ご主人様もそうおっしゃられています。だからこそ、今は行動に移す時だと」


 なるほどね、敵の嫌がる事をやるってのは戦いの定石だ、アルロット伯はなかなか戦い慣れていらっしゃるようだ。


「わかりました。そう言う事ならこちらも全力で行きましょう」


「おお!ケイトモの創設者にそう言って頂けると頼もしい限りですよ!ほら!見えてきましたぞ!」


 弾むような声でヴァルターさんが言う先に見えたのは、空き地にテントを建てている人達の姿だった。


「あそこが最初の複合行楽地となります」


「「「「わーーーー!!!!」」」」


 ヴァルターさんに言われて子供たちが声を上げる。

 建てられているテントは居住用に見る形以外にも屋根だけテント、いわゆるタープテントなどもありイベントエリア感が感じられる場所になっていた。


「進捗状況は如何ですかな?」


「あらヴァルターさん、ちょうど今、どこを何にするか話し合ってたところですよ」


 ヴァルターさんが声をかけた相手はチャスコばあちゃんだった。

 見ればチャスコばあちゃん以外にもご高齢の方々が大勢いる。


「それはそれは大変結構でございます」


 ヴァルターさんが嬉しそうに言う。


「そうそう、テントの中に色々と用意したものが置いてあるよ。子供たちの衣装もね」


 チャスコばあちゃんが子供たちに言う。


「やったー!」

「わーーい!」


 子供たちが飛び跳ねて喜ぶ。


「見させてもらっても良いですか?」


 俺はチャスコばあちゃんに尋ねる。


「勿論よ」


 チャスコばあちゃんは嬉しそうに答えてテントへと向かった。


「昨日の今日だから、こんなものしかなかったけれどみんなにも声をかけて色々と集めてみたよ。子供達も良いのがあったら着てごらん」


 テントの中に入ったチャスコばあちゃんが言うと子供たちが衣装の山に向かって走り出した。

 俺は並べられたものを見渡す。食器のようなものやアクセサリー、布類などが置いてあってまるでフリーマーケット会場のようだ。


「これはパロサントですか?」


 俺は束ねられた木を手に取り香りを嗅いだ。甘くウッディな香りがする。


「そうだよ。そのまま置いていてもいいし、火を着ければより濃厚な香りが楽しめるよ」


「う~ん、落ち着く香りですねえ、ん?これは、もしかして」


 俺は左右に大きな取ってがついた洗面器のような形状の金属製の鍋を手に取る。


「それは龍鳴(りゅうめい)ポットよ。見た事あるのかい?」


「ええ、似たような物を地元で」


「へえ、だったら使い方はわかるかい?」


 チャスコばあちゃんが楽しそうな顔をして言う。


「使い方ですか?何か特別な使い方があるのですかな?」


 ヴァルターさんが俺に聞く。


「私の地元と同じ使い方なら。やってみて良いですか?」」


「ああ、いいよ」


 チャスコばあちゃんが笑って言う。


「では、遠慮なく」


 俺は水魔法で鍋の中に水を入れ、その水で両手を湿らせる。


「行きますよ」


 俺は鍋の左右に着いた取ってを両手の平でこする。

 鍋はヴィーヴォーヴィーボーヴィーヴォーと音を立てる。


「む!これは楽器なのですか?」


「中の水を見ててくださいね」


 驚くヴァルターさんに言いながら俺は更に濡れた両手で鍋の取っ手をこすっていく。

 これは簡単そうに見えて実はこすり方にコツがいるんだ。

 こすっていくと鍋の中の水が細かく跳ね、まるで中で小魚が跳ねている様になる。


「ほう!これは面白い!」


「おやおや、上手だねえ」


 ヴァルターさんとチャスコばあちゃんが言う。


「これであってましたか?」


 俺は手を止めてチャスコばあちゃんに尋ねる。


「あってるよ。しっかしあれだねえ、お兄ちゃんの地元にも龍鳴ポットがあるなんてねえ」


「りゅうめいポットとはどういう意味なんですか?」


「龍が鳴くで龍鳴だよ。お兄ちゃんとこじゃ違う呼び名なのかい?」


 龍が鳴くって、シエンちゃんが聞いたら怒りそうだな。


「ええ、魚が水面を飛び跳ねてるみたいだから魚洗鍋って言ってましたね」


「なるほどねえ、ところ変われば名前も変わるもんだねえ」


 チャスコばあちゃんが感心して言う。


「はあ、面白いものですねえ。私もちょっとやってみてもよろしいですかな?」


「どうぞどうぞ」


 ヴァルターさんに言われて俺は場所を変わった。


「ふん、むう、これは、なかなか、難しいものですな」


 ヴァルターさんは必死に取ってをこするがなかなかいい音がせず水が動かない。


「お!お!どうです!これは!」


 だんだんと音が出始めて鍋の中の水が湧きたち始める。


「これは、面白いですなあ」


 いい音がしてしっかりと中の水が跳ねるのを見てヴァルターさんが言う。


「いやー、これは変わった道具ですな。しかし、これは一体なんの道具なんですか?」


 手についた水をポケットから出したハンカチーフでふき取りながらヴァルターさんが言う。


「そう言えばそうですね。私も面白い道具とくらいにしか認識してなかったですけど、本来の用途はなんなんでしょう?」


 水が波立つ原理が共振の効果だって事は知ってるが、こいつの本来の目的は知らなかったな。

 前世では中華街とか中華料理屋とかで見かけたから中国のものだろうってことぐらいしか知らないや。


「お兄ちゃんとこではどうかわからないけど、うちじゃあこれは狩りに出たりするときに危ない事が起きないか知るための道具だったって話しだよ。まあ、大昔の話しだから今じゃそんな事をする人もいないし、詳しい事を知ってる人もいないけどねえ」


「ほうほう、わが国で言う所のヌメロロジーのようなものですな」


「なんですそれは?」


 俺はヴァルターさんに聞く。


「大昔から伝わる吉凶読みの方法ですよ。数字からそれを読み解くのだそうですが、まあ、なにぶん魔導学が発展する遥か昔の話しでして、現在では用いる人もおりません」


 ほう、数秘術か。前世でもあったな、誕生日や名前の画数なんかで行う占いだった。

 なるほどね、それじゃあこの龍鳴ポッドの本来の使い道である吉凶占いってのも、前世でも同じだったのかも知れないな。


「すいません!ヴァルターさんかクルースさんはおられますか!」


 テントの外から声がする。

 俺とヴァルターさんは顔を見合わせて頷き、テントの外に出た。


「ああ、お探ししました」


 外に出ると衛兵さんが立っていた。


「どうされましたか?」


「じつはおふたりにこれを」


 衛兵さんはそう言ってこちらに紙の束を差し出した。


「どちら様からですか?」


 ヴァルターさんが紙束を受け取りながら言う。


「神聖協力会のタンゼニン氏からです」


 衛兵さんが言う。

 俺はヴァルターさんが受け取った紙束を見る。

 その表紙にはこう書いてあった、子供たちの清さを保つために守って頂きたい59の項目、と。


「これは嫌な感じしかしませんな」


 ヴァルターさんが俺を見て言う。


「とにかく中を見てみましょう」


 俺はうんざりする気持ちを押し殺しヴァルターさんに言うのだった。


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