伝統って素敵やん
ジャーグル難民達の居留地は大きなテント、小さなテント、様々な露店が立ち並び商売をする人や洗濯物を干す人で非常に活気があった。
「そう言えばナスコとチャスコばあちゃんって名前が似てるけど、親戚か何かなのかい?」
俺は近くに歩いているばあちゃんは元気だと教えてくれた女の子に聞いた。
「ううん、違うよ。ヤグーの言葉でスコーってパロサントの樹の事なんだよ」
「パロサント?」
「うん、いい香りのする樹。パロサントは聖なる樹だから名前にスコーがつく人はいっぱいいるよ!私もそうだよ」
ほう、香木か。
「なんて名前なんんだい?」
「スコーミン!」
大きな声で言うスコーミン。
「可愛い名前だね」
褒めてやるとスコーミンは嬉しそうに笑った。
そうして子供たちに案内をして貰い、チャスコばあちゃんのテントに到着する。
テントの前には木を切っただけの切り株イスにおばあさんが座って日向ぼっこをしていた。
起きてるんだか寝ているんだかわからない顔をしているなあ、なんだか昔の駄菓子屋とかに良くいたおばあちゃんって感じだ。
「チャスコばあちゃん!」
ナスコが大きな声を出す。
「はいはい、起きてますよ」
チャスコばあちゃんは起きてるんだか寝てるんだかわからない顔をしたままナスコに言う。
「チャスコばあちゃんに編み物をやって欲しいんだって」
「はいはい、今度は何を壊しちゃったんだい?腰ひもかい?肩掛けかい?」
「違うって」
ナスコが言う。
「じゃあ、スコーミンの髪留めかい?」
チャスコばあちゃんは顔を上げて言う。
「だから違うって、今日はヴァルターさんとこっちのお兄ちゃんが」
「はいはい、ちょっと待ってなよ」
チャスコばあちゃんは腰を上げてテントへと入って行った。
「もうっ!全然話を聞いてくれない!」
チャスコが地団太を踏む。
「仕方ないよ、娘さんに家でじっとしてなさいって言われてから、なんか元気なくなっちゃったし」
スコーミンがナスコに言う。
「ほら、好きなの持って行きな」
チャスコばあちゃんは組紐や丸めた布などが入ったカゴを持って戻って来た。
「おお、これは素晴らしいですな」
ヴァルターさんがカゴの中身を見て声を上げた。
「おやおやヴァルターさん、ごきげんよう」
チャスコばあちゃんはヴァルターさんに挨拶をする。
「お元気そうでなによりです」
ヴァルターさんは頭を下げる。
「ヴァルターさんも良かったら持って行きますか?」
チャスコばあちゃんがカゴを持って言う。
「今日はチャスコさんにお願いがあってやって来たのですよ」
ヴァルターさんはチャスコばあちゃんに来訪の意図を告げる。子供たちが持っていた編みうちわにチャスコばあちゃんのヤグー編みの組紐をつけて販売したいので力を貸して欲しい事。このカゴに入っているような物も販売したいので是非、作って貰いたい事、ヴァルターさんは丁寧に説明した。
「やろうよ、ばあちゃん!」
「そうだよ!一緒にやろうよ!」
子供たちが口々に騒ぎ立てる。
「でもねえ、娘がねえ、なんて言うか」
チャスコばあちゃんは困ったような口調で言った。
「それならお任せ下さい、私の方から説明させて頂きますから」
ヴァルターさんが言う。まあ、居留地のある領の領主さんについている執事さんの話しなら娘さんも聞いてくれるだろうな。
「でもねえ、大事な物が欠けてるからねえ。とても売り物になんてねえ」
チャスコばあちゃんはまだ困ったような顔をする。
「なんです?大事な物とは?」
ヴァルターさんがチャスコばあちゃんに尋ねる。
「スコーですよ」
チャスコばあちゃんは答えた。
「スコー?もしかして、パロサントの樹の事ですか?」
俺はチャスコばあちゃんに尋ねる。
「そうですよう。あれを焚いて香りをつけてやっと完成なんですよ」
「ここにはパロサントの樹はないんですか?」
「ありますよ」
「だったら、それを使えば?」
「いやいやいやいやー、とんでもないですよう。あんな貴重な樹をお世話になっている立場でとんでもないですよう」
チャスコばあちゃんはブルブルブルと首を振って答えた。
「こちらでもパロサントは聖なる樹と言われているのですか?」
俺はヴァルターさんに尋ねる。
「調べてみないと詳しい事はわかりませんが、特に何かに利用されていると言う話しは聞きませんね」
「それじゃあ、もしかしたらバッグゼッドでは無価値かも知れないという事ですね?」
「その可能性は十分にありますね」
「調べて貰っても良いですか?その間に私はなにか商材になりそうなものがないか調べてみますから」
俺はヴァルターさんにお願いする。
「わかりました早急に調べましょう。しかし、さすがはケイトモ創設者ですな」
「勘弁して下さいよ」
俺は去り際にそんな事を言うヴァルターさんに手を振った。ヴァルターさんの方こそ、さすがは一流の執事仕事が早いよ。
さてと、俺は俺でやれることをやろうか。チャスコばあちゃんの服を引っ張たりして騒いでいる子供たちを見て、俺は思うのだった。




