闘技大会って素敵やん
温泉旅館みたいな宿はちゃんと温泉もあったので驚いたが、アルスちゃんに聞くと火山地帯には必ずある名物なのだと言うので、それもそうかと納得したのだった。
温泉に浸かってその晩はゆっくり休んで、いよいよ、闘技大会当日だ。
って、参加決めたの昨日だから、いよいよって言うほど待っちゃいないけど。
朝食をとり昨日行った受付へと向かう。
受付では参加団体が対戦順を決めるために並んでいた。
「なんだ、また並ぶのか。」
シエンちゃんがぼやく。
「仕方あるまい。急ぐことでもなし、のんびり構えろ。」
「うむ、キーケちゃんがそう言うなら、のんびりするか。」
そう言って地面に寝転がるシエンちゃん。
「のんびり構えろとは言ったが、寝転がってどうする。列は前に進むものよ。立って待つがよい。」
「ちぇっ、はーい。」
キーケちゃんにたしなめられて、軽く舌打ちをしながらも素直に言う事を聞くシエンちゃん。
「あらあら、服に土が着きましたよ。」
アルスちゃんが優しく言って、手のひらから出した風で掃ってあげてる。
「お、悪いな。」
「いえいえ。」
さてと、そんな具合で列に並ぶことしばし、俺たちの順番となりました。
「本日はご参加ありがとうございます。まずはこちら参加規約をお読みいただきまして代表の方のサインを頂きます。それから、参加者のお名前をこちらにご記入下さい、こちらは実名でなくても構いません、殆どの方は闘技名を使用されております。それが済みましたら、となりの箱の中から一枚紙を取り出してください、対戦順を決めさせて頂きます。」
受付のお姉さんに言われて、まずは利用規約を読む。
観客席へ及ぶ攻撃の禁止、審判への攻撃の禁止、対戦中の当事者以外の闘技場内への進入禁止、闘技場での対戦による身体一部、又は生命の消失等について大会運営は一切の責任を負わぬものとする、闘技場の著しい破損に関して損害を請求する場合がございます、等々が書かれている。
「ふむ、まあ、問題あるまい。大丈夫だな?シエン?。」
「なんで我にだけ聞くのだ!大丈夫に決まっとろう!要は壊したものは弁償すれば良いのだろ?簡単な事よ。」
やっぱり心配だよ。
だが、まあ、サインしないわけにもいかないからね。俺が代表でサインをした。
「ふぅ、ま、よござんす。お次は名前の記入でおま。好きな名前でやっとくれやす。」
そう言ってチームウパタル探検隊、先鋒に何か記入するサマ爺。
「おい!お爺!なんて書いたんだ?。」
「うひゃひゃ、本番までの秘密だす。」
「お?なんだ、面白い事言いよって!よし、我も本番まで秘密にしよう。」
ではわたしも、ってんでみんな本番までの秘密だってさ。
じゃあ、俺も本番までの秘密にしよっと。
「次は、と。」
「対戦順決めでおまんな。」
サマ爺に続いて対戦順を決めるため、箱の前に来た。
箱の上に手を入れる穴が開いていて、中から一枚の紙を選び取る例のあれだ。
あれって、正式名称なんて言うのかね。
「本日は参加団体16組の勝ち抜き戦となります。どうぞお引き下さい。」
受付嬢の後ろの壁に大きくトーナメント表が張り出してあり、8組の勝ち抜き同士が決勝でぶつかるようになっていた。
「では、参加を決めたサマ爺さんが引いて下さいな。」
アルスちゃんに言われて、自分でいいのかと言うサマ爺に皆、良い良いと答えたので、じゃ、恨みっこなしでっせと引いた紙には7と書かれてあった。
どうやら、2つのブロックに分かれて戦う中で第1ブロックの最終戦のようだ。
本日は第2試合まで行われ、明日、準決勝と決勝が行われると言う事だった。
「16組でしょ?って事は今日行われる試合は第1で8試合、第2が4試合だから、12試合行われるのか、見ている方も大変だなあ。」
「なあに、闘技場はひとつじゃありませんよってにな。今日の団体戦も2ヵ所でやりまっさかい。ひとつの闘技場で行われるんは、その半分ちゅー事になりまっせ。」
「でも、団体戦だからその分試合数も多いんじゃない?。」
「なあに、昨日のママさんの話じゃ初日の試合は殆ど早めに片が付くそうでっから、まあ、よろしいんちゃいますやろか?。」
「まあ、最初の方は玉石混交だろうな。」
「後に行けば強者に会えるか?。」
「まあ、そうとも思えぬが。シエンがおった島にはあたしも行ったことがあるが、あそこの魔獣ぐらいの奴が果たして現れるかねえ。」
「なんだよ!来たことあるなら一声かけてくれればよかったのに!キーケちゃんも水臭いなあ。」
「あのなあシエンよ。お前と出会う前、それも昔の事よ。若い頃にな、腕試しに何度か行ったのさ。その頃にお前に会っていたらどうだったろうなあ。それを想像するのも楽しいものだ。」
「若い頃のキーケちゃん?うーん、想像できぬなあ。」
「コラ、シエンよ。あたしだって生まれた時からお婆だったわけではないぞ。」
「そうですよシエンさん。その清らかな美しさと国の争いを治めた功績から、春の到来を告げるレインザーの雪解け水と言われた方ですからね!。」
「なんだか良くわからぬ二つ名だなあ。春の到来からが二つ名なのか?それともレインザーのからか?どっちだアルス?。」
「レインザーのからですよ、もう、この叙情的な表現がわかりませんか?今のキーケちゃんからも感じられるではないですか!本当にシエンさんは失礼ですよ!。」
「まあまあアルスよ、その辺にしておいてくれ。あたしも昔のことを言われるのは、なんとも面映ゆくてな。」
「あら、失礼しましたわ。」
「失礼なのはアルスだったな!わははは!キーケちゃんはキーケちゃんで良いのだ!。」
「まあ、なんだかシエンさんにまともな事を言われてしまうとは。」
アルスちゃんが恥ずかしそうに言う。
「いや、アルスちゃん!俺もシエンちゃんに昨日言われたっけねー。まさか、シエンちゃんから手加減するように言われるとは思わなかったもんね。あの時は思わず天を仰いだけど、今にしてみればシエンちゃんの心根に感動すらしてしまうね俺は。」
「なるほど。言われてみればそうですね。シエンさんの心根はどんどん広がっているように思えますね。」
「またまたまたぁー、トモちゃんもアルスもぉー、あんまり褒めるなって。さすがに照るぞ!。」
「うふふ、そういう所はシエンさんらしいですわ。うふふ。」
「くふふふ!そうだろう!な!トモちゃん!面白いな!。」
「ああ、面白いったらないねえ。」
なんて、キャッキャウフフしながら選手控室に。
ウパタル探検隊様、と書かれた紙が貼ってあるトビラを開けて中に入る。
部屋の中の広さはコンビニくらいかね、長椅子とテーブルが置いてあるだけ。
なんとも殺風景だ。
「失礼しまーす。」
声がするのでどうぞと答えると、トビラが開いてウサギ顔のお姉さんが入ってきた。
「皆様お揃いですか?。」
俺たちは揃っていると答える。
「私は大会案内係のネザーと申します。よろしくお願いいたします。早速ですが幾つかご説明しなければならないことがあります。まずは、こちらの控室ですが勿論、ご自由にお使いいただいて構いません。ですが、殆どの選手は選手用の観覧席で試合をご覧になられております。皆さまの試合時間までは、ご自由にお過ごしになられて構いません。観覧席近くに売店もございますので、そちらもご自由にご利用されて結構です。ただし、試合時間に会場に居られない場合は不戦敗となりますのでお気を付けください。なにか、ご質問等ございますでしょうか?。」
ウサギ顔の女性はここまでスルスルと一気に説明して、息切れひとつ起こしていない。
「別にないな。皆はどうだ?。」
キーケちゃんが尋ねるが、我々も特に質問はなかったので首を振る。
「では、結構だ。ありがとう。」
「はい、かしこまりました。観覧席近くに運営の控室がありますので何かありましたらご遠慮なくどうぞ。それでは失礼します。」
そう言うとウサギの人、ネザーさんは部屋を出ていった。
「売店があるそうだ!行ってみよう!。」
「そうですね、ここにいても何もありませんし、試合観戦して時間をつぶしましょう。」
「ほな、行きまひょか。」
という事で我々は選手専用の観覧席へ行くことにした。
「おおっ!もう一回戦始まってんじゃん!。」
我々が観覧席に行くと、会場は歓声に包まれており既に試合が始まっているようだった。
「我は売店で何か買って来るぞ!。」
「あら、あたしも行きますわ。」
「おお、来い来い!。」
アルスちゃんとシエンちゃんは連れ立って売店に向かった。
俺たちはチーム名が書かれスペースが確保してある長椅子に座り、試合を観戦することにした。
試合会場は円形でそれを囲むように客席があり、まんまコロシアム、前世界で言うならアリーナか。
風魔法だろうか、会場内には実況と解説の声が響いている。
サマ爺が言ってたように、闘技場と言えば実況と解説なんだろう。
試合場では大きなハンマーを持った牛顔のマッチョと、レイピアを持った隼顔の細身の男が戦っていた。
見るからにパワー対スピードって感じだよ。
「解説のスモアンさん、この試合、まさに力対速さの戦いといった様相を呈して参りましたが、どうでしょうか?。」
「いやあ、オルホールさん、マニーク選手のウォーハンマーですがね、あれは当たるとダメージ大きいですよ。対するフィドリ選手のレイピアはマニーク選手にどこまでダメージを与えることができるのか。これが勝負の分かれ目になってきますね。」
「なるほど、まさに攻撃と言う名の自己紹介と言ったところでしょうか!!。」
「はい、そうですね。」
なんじゃ、これ?
「しょーもない実況解説だなあ。」
両手にしこたま食べ物を抱えたシエンちゃんが言う。
「うひゃ!試合前でっせ!大丈夫でっか!。」
「なーに!心配ない!お爺もどうだ?ちょっとなら分けてやるぞ?。」
「いやいや、結構でおます。」
「どうですか?試合は。」
「アルスちゃん、お帰り。いやあ、まだ始まったばかりっぽいねえ。」
「あら、そうですか。じゃあ、観戦しましょうかね。」
試合場ではウォーハンマーを大振りした牛マッチョ選手の懐に隼選手が入り込み、肩を入れた体当たりをして吹き飛ばしていた。
会場の端にすっ飛ばされた牛マッチョ選手は、時折身体をバチバチいわせ、ひっくり返ったまま立ち上がらない。
審判はカウントを始め、10を数えたところで隼選手の手を上げ、勝利を宣言する。
どうやら、ダウンはカウント10で立ち上がらないと負けという事らしい。
「おーっと!フィドリ選手見事な体当たりでしたね!。」
「はい、至近距離からの電撃魔法も見事でした。あのタフなマニーク選手もこれにはたまらずノックアウトでしたね。」
「ありがとうございました。まずは、ファイヤーバーズ一勝です。次鋒戦始まります!西の方角!ファイティングパワーズからスンブ選手の入場です!」
大きく西と書かれた選手入場口から、両手に湾曲した大剣を持った筋肉質な牛顔女性が出て来て、両の剣を掲げてアピールする。
場内は大きな歓声に包まれる。
「スンブ選手は大変な人気ですね、ルックス、実力、共に折り紙付きです。」
「いやー、スモアンさん!これはファイヤーバーズ側、プレッシャーになりますねー!続いて東の方角!ファイヤーバーズからゼッタード選手の入場です!。」
さっきとは反対側に大きく東と書かれた入場口があり、今度はそこから、大きな斧を持ったガッチリした体躯の鶏顔の男性が入場してきた。
両選手、試合場中心に近づき審判に短い説明を受けた後、審判のゴーサインを受け武器を構えた。
鶏顔男ゼッタードは頭の上でゆっくりと大斧を回しながら、間合いを詰めようとしている。
牛顔女スンブはニヤついてそれを見ていたが、一瞬で間合いを詰めてゼッタードの懐に入り両の大剣を舞を踊るように振り回した。
「おーっと!流石スンブ選手!これは一気に決まったかー!。」
「オルホールさん、よく見て下さい。ダメージを負ったのはスンブ選手のようですよ。」
片手の剣を下に落とし、後ろに間合いを取るスンブと顔色一つ変えず頭上で大斧を回すゼッタード。
「何があったのでしょうか?解説のスモアンさん!。」
「ゼッタード選手はスンブ選手が剣を振るのに合わせて、頭上で回転させていた大斧の軌道を変えましたね。スンブ選手は高速回転する力で向かい打たれたものですから、手首を負傷したようです。」
「おーーっと!なんと言う事でしょうか!天のいたずらか?序盤から大番狂わせとなってまいりました!これには闘技場ファンの皆さまのため息が聞こえるようです!。」
「はい、えー、ファンの皆さまにご案内します、まだ勝負はついておりませんのでお手元の闘技券を撒き散らさないようお願いします!皆さまのマナーでキレイな闘技場を。重ねてお願いします。」
「スモアンさん、ありがとうございます。ゴミと思い出は持ち帰る、でお願いいたします!。」
左手を押さえ顔をしかめていたスンブは左手を不自然なほど後ろに下げると、鞭をふるうように高速で前にしならせた。
「ほう、外れた手首を入れおったか。やるではないか。」
キーケちゃんが言う。
「いやー、そもそも突っ込みが甘いし、あれで外れる手首も甘い。なにより遅い。更に言うなら腕力に劣る者はもっと攻め続けねばならん。手数を増やして持久力で勝たねば。」
「なるほど、シエンはそう見るか。さてはお前がそうした戦い方をされるのが苦手と見たぞ。」
「あちゃー。痛いとこつくなあキーケちゃんは。まあ、確かにそうだ。弱い魔法でも大勢で交代交代何日もやられるとたまらんぞー。昔、寝ている所をそうやって襲われたことがあってな、なんだかチクチクするなーと思って起きてみると、軍隊か何かが大勢で弓やら魔法やらかけてきよってな。痒くて痒くて寝れやしないから、ちょっと威嚇してやったら、後からわんさかやってきてな。我が寝ていた洞窟の入口を塞いで絶え間なく極大魔法をぶち込んできおってなあ。物凄い数で防御魔法もガリガリ削りよるもんでキリがなくてなあ。ありゃ、本当にめんどくさかった。」
「よくやり返さなかったねえ。」
「まあな、最初は余裕だから無視してたんだけど、あいつら反撃してこない奴にはとことん無茶すんだよな。極大魔法位になると、まともに食らったら痣ができてしばらく取れないからな。我も外見に気を遣うお年頃だったから、食らわぬようにしてたら反撃も出来なかったのが本当の所だ。」
「きひひ、それでどうやって切り抜けた?。」
「いや、仕方ないから根比べよ。途中何度か寝てる隙に産毛を焦がしたがまあ、そんな感じで3~4日やってたら、連中どんどん年寄りみたいな外見になってバタバタ倒れだしてな、それで逃げてった。まったくしつこい連中だったよ。手数の多さも力と学んだよ。」
「きひひ、そりゃまたエライ学び方をしたもんだよ。」
「そう?キーケちゃんでもそう思う?。」
「思うな。シエンはもっと普通を学べ。ほれ、試合を見てみい。あれが、普通だ。」
試合はスンブの猛攻をゼッタードが大斧で器用に捌いているが、イマイチ攻め手に欠けている。
時折スンブが蹴りを入れたりフェイントをかけたりしているが、やはり戦局を変えるほどにはならない。
「いやー、スモアンさん!一進一退の攻防!手に汗握りますねー!。」
「はい、玄人好みの戦いですね。」
「そうなのか、凡戦だと思うが。」
「また、シエンさん。そういう事を言ってはいけませんよ。」
「そうか、あれが普通か。ウーム。普通とは難しいものだなあ。」
「きひひ、ちょっとズレちゃあいるが、普通であることの強さや大切さを学ぶと良いぞ。」
「ムムム、難しい事を言うなあ。」
シエンちゃんが頭を抱えるのをよそに、試合場の二人はあからさまに疲れが見え、スンブのラッキーパンチならぬラッキーキックが見事にゼッタードの顎に入り、スンブの勝利となったのだった。
なるほど、普通は難しいよ。




