ジンジン照れるって素敵やん
空中に投げ出された俺。
しかし、馬車を横転させるなんてありえないだろ。どれだけ丈夫な馬なんだ。世紀末覇者の馬か?つーか、投げ出されている間にしては随分、考える時間があるな。これが、走馬灯ってやつか?いや、俺はゲイルで飛べるんだこれぐらいで致命傷を受けることは無い。
というよりも、これは現実なのか?違うんじゃないか?夢か?いや、この感覚、カースか!!
そこまで考えが進んだ瞬間、俺は目を覚ました。
どうやら俺は地面に転がっていたようだ。
目の前には馬車が停まっている。
俺は身体を起こし、まだ少しジンジン痺れる頭を振る。
目の前の馬車は記者さん達が乗っている馬車だった。
馬車の中を見る。
記者さん達が眠っているのが見える。
馬車を引く馬も御者さんも眠っている。
俺は前方に停車している生徒会のメンバーが乗っている馬車を見る。
前方の馬車も後ろの馬車同様、街道の脇に停車しており馬も眠っている様子だ。
俺は馬車の二階めがけてゲイルダッシュする。すると、前方に女性らしき人を担いだ集団が見える。
俺はひとまず前方を走る集団を追いかける。
集団の数は4人。担がれているのは、どうやらアルロット会長のようだ。
「誰か追って来るぞ」
「ちっ、術が破られたか」
「足止めしろ」
会長を担いだ奴が言うとふたりの男が立ち止まり、俺に向けてファイアーボールを放ってきた。
俺は空中で避けながら地面すれすれを飛行し空雷弾を連射する。
お?なんちゃってライフルで練習した効果か?いつもより空雷弾の発射速度が速いような気がする。
敵の放ったファイアーボールは俺の背中をかすめ後ろの地面に着弾し爆発する。
背後から強い熱風を感じる。
威力から見てなかなかの使い手のようだが、地面を這う相手にゃ慣れていないと見える。ファイアーボールを放ったふたりの男は足に空雷弾を喰らい身体を硬直させて直角に倒れる。
「嘘だろ?」
会長を担いでいない男がこちらを振り向いて声を出す。
「お前、ただの学生じゃないな?」
男は会長を担いだまま立ち止まりこちらを振り向いた。その手には短刀が握られており会長の喉元にあてられていた。
俺は低空飛行状態から起き上がる。
「そちらさんは怪しい噂の絶えない大商会関係?それとも同じく怪しい噂の絶えない貴族関係かな?いや、あれか?会長を攫うって事は大商会関係かな?」
俺は短刀を握った男の手を見る。微かに震えている。
「・・・面倒な野郎だよ。死人は出すなって依頼だったが、お前は死んでもらった方が良さそうだな」
「死人は出すなか。だったら会長を人質にするのに首に刃物をあてがうのはマズいんじゃないか?死んじゃうかも知れないぞ?」
俺は両手を下げたままゆっくりと言う。
「それは心配ねーよ、こいつはカースの他にヒールも使えるからな」
隣の男に軽く視線をやって言う男。隣の男はどうすれば良いのかわからず、ただ俺を見て固まっている。
「なるほど、ちゅー事はだよ?死なす気はないって事だよな?だったら尚更人質の意味がないな。このままお前らを倒した後で、そっちの男に回復させりゃあ良いのだから」
「そう簡単に行くかよ、こっちだって抵抗するぜ?その間に死ぬかもしれねーぞ?」
男は言うが短刀を持った手が迷うように揺れている。
「死なすなって依頼なんだろ?死なせちまったらマズいんじゃないか?お前さん達の所属してる組織と依頼してきた組織はどっちが強いのかな?」
「・・・・」
男は押し黙る。もう一息だな。
「お前さんの所は暗殺や破壊工作なんかは得意なんだろうけど、真正面から大量の武力で押されたらどうだ?もしくは国が動いたら?いざとなったら国を動かすぐらいの事はしてのける相手なんじゃないのか?」
「ぐうっ、だったら指を落としてやるってのはどうだ!」
男は短刀を持った手を動かす。
俺は下ろした手の親指から空雷弾を連射する。空雷弾は短刀を持った男の下腹部にヒットする。男は身体を硬直させて倒れこむ。
俺はゲイルダッシュで飛びアルロット会長を抱き上げる。
「ひっ」
隣にいた男が短い悲鳴を上げる。
「カースを解除してもらおうか」
俺は男に人差し指を向けて言う。
「ひっ、わかった、わかったから勘弁してくれ」
「お前らの処遇を決めるのは俺じゃないよ」
俺はそう言って人差し指でそいつのおでこをグリグリとしてやる。
「ひぃっ、もう解除しました!すぐに皆さん正気に戻られます!」
必死な様子で男が言うと片手で抱き上げていたアルロット会長が目を覚ます。
「む、ここは?地割れが起きて馬車事飲み込まれたはずだが?」
「地割れですか、見させられたものは一緒じゃないようですね」
「へ、へい。それぞれが抱える漠然とした不安を増幅するカースですんで」
男がすり手をするように説明する。
「カースは解除させましたのでとりあえず大丈夫ですよ」
「そうか感謝するよクルース君。大丈夫ならば下ろしてもらえると助かるのだが」
アルロット会長が言う。
「大丈夫ですか?」
「ああ、多分な」
俺はゆっくりとアルロット会長を地面に立たせる。
「うむ、少し頭が痺れるが大丈夫だ」
アルロット会長は頭を振りながら言った。
「大丈夫でしたか!!」
ケイトがこちらに飛んで来る。
「ああ、そっちはどうだ?」
「知らぬ間に眠らされていたようです。向こうはアルスさんとクランケルさんが警戒にあたっています」
ケイトが答える。
「どうやらこいつのカースだったようだよ」
俺は傍らに立ち身を縮めるようにしてる男を小突いて言う。
「ひい、勘弁して下さい。皆さんを傷つける気はなかったんです。穏便に済ますために眠って貰ったわけでして、はい」
「穏便に誘拐するためか?」
「ま、まあ、そう言う訳でして」
俺が睨むと男は小さな声でそう言った。
「さて、こいつらどうします?」
俺はアルロット会長に尋ねる。
「もうすぐ我が領に着きますから、そこで衛兵に引き渡すのが最善かと思います」
「では、そうしましょう」
ケイトが答えて転がってる男達の手足を土魔法で拘束していく。
「お前らの所ってお前みたいなのが沢山いるのか?」
俺は縮こまっている男に尋ねる。
「私みたいなのと申しますと?」
「カース使いだよ」
「そりゃあ、いますよ。でも私程の使い手となるとどうでしょうか?それ程はいないんじゃないかなあ?」
こいつ、だんだん調子に乗ってきてるな?ちょうど良い、色々と聞かせて貰うとするか。
「そうかそうか、そりゃあスゲーなあ。色々と話を聞かせてくれよ、な?」
俺は男に近付き肩を組んで言う。
「え?」
男はきょとんとした顔をする。
「えじゃねーよ。お話ししましょうっていってんだよ。それとも俺と仲良く話をするのが嫌なのか?それは傷ついちゃうなあ」
俺は男に顔を近づけて言う。
「いや、嫌なんてとんでもない!仲良くさせて下さい!」
男は俺に言う。
「そりゃよかった。それじゃあ、まずは、そこに転がってるお仲間を担いでくれ」
俺はアルロット会長を人質に取った男を担ぎながら、ケイトが手足に枷をハメてる別の奴らを見て言う。
「へ、へい!」
男は調子の良い返事をして転がる男に向かって走って行く。
「ぷっ、そんな所もあるんですねあなたは」
アルロット会長が笑う。
「そんな所ってどんな所です?」
俺は質問する。
「何と言うか、まるで街のゴロツキみたいな話し方でしたよ」
アルロット会長が笑う。
「まあ、相手に合わせてって感じですかね。さあ会長、皆が心配してるでしょうから早く戻りましょう」
「うふふ、照れているんですか?」
「いや、別にそう言う訳では」
笑顔のアルロット会長に俺は答えるがなんだか言い訳をしているような気分になり、この段階から少しばかり照れ臭い気持ちになる。
「やっぱり照れてらっしゃる」
「どうも会長の言葉には力があるようです。言われてから照れ臭くなりましたよ」
俺は会長にそう言って馬車の方向へと歩く。
会長は後ろからクスクスと笑いながらついて来る。
なんだか、とっても照れ臭くなるのであった。




