最後の仕掛けって素敵やん
「何もあらしまへんな。行き止まりって事はないはずでっせ。」
「何か仕掛けがあるのだろうよ。これまでの様子からして慌てずとも何か起きよう。」
キーケちゃんは落ち着いたものだ。
すると、キーケちゃんの言葉に反応したわけでもないだろうが天井からギギギギと歯車の動くような重々しい音がしてきた。
「頼むぞー、魔物来い!魔物来い!歯ごたえのある奴来い!。」
「また、シエンはん、物騒なことを。」
「きひひ、あたしもちょいと運動したいね。」
「キーケはんまで、かなんなあ。」
重々しい音と共に天井がスライドしていく。
天井が完全にスライドし収納されると、いっきに天井が高くなり随分と解放されたような気持ちになる。
今まで隠れていた側面に大きな穴が開いており、その奥から大きくて重い何かを地面に引きずっているような音が聞こえる。
穴の奥から顔を出したのは巨大な蛇の頭、それも5匹。
「おやあ?。」
シエンちゃんが妙な声を出す。
5匹の巨大な蛇が大きな穴からにじり出ると、なんとその胴体はひとつになっていた。
「ああ、ヒュドラだな。どうする?」
「あちゃー、面倒くさい奴が出て来たなあ。」
「きひひ、まあそう言うな。仕方ないから、雑兵はあたしが相手をしてやるよ。」
「そう?悪いねえ、なんか美味しい所だけ貰っちゃって。」
「次はあたしにも花を持たしておくれ。」
「くふ、了解した!。」
こちらの存在を認識し威嚇するように口を開ける5つ首の大蛇へ、シエンちゃんは飛ぶように接近した。
「まず一本っ!。あれ?。」
シエンちゃんが蛇の頭に高速で蹴りを入れたが、ボッキリ折れてブランブランにはなったが切断するには至らなかった。
「おっかしいなあ。固いぞ。」
「シエン油断するなよ。力入れていけよ。」
「おう!今度こそ!。」
真ん中の首が吐く炎をかいくぐり、ブランブランになった首を蹴りとばすシエンちゃん。
今度は切断に成功する。
「ほいさっ!。」
すかさず首の切断面に炎の魔法をあてるキーケちゃん。
「おーっと!アルスちゃん、あれはどういう攻撃なんですか?。」
「はい、あれは切断されたヒュドラの首が再生しないように焼いているんですねえ。それから、こちらにも注目してくださいな。先ほど切断した首から零れ落ちたヒュドラの血液から魔物が発生しますよ。」
「本当だ!地面からでっかいサソリが湧いてきましたよ!アルスちゃん!。」
「はい、先ほどキーケちゃんが雑兵と言ったのはこれの事ですねえ。ジャイアントデスストーカーですねえ。強力なシッポの毒針に注意しなければいけませんねえ。」
俺とアルスちゃんが実況と解説をしていると、キーケちゃんが地面から湧いて出たジャイアントデスストーカーと言う長い名前のデカいサソリに向かって行き、掌底で丁寧に攻撃し、サソリの両ハサミと毒針の尾をへし折った。その間にまた一本、シエンちゃんが首を切り落とすのでキーケちゃんはその切断面を焼きながら、サソリの胴体にゆっくり掌底を当てる。
「おーっと!あれはどういった攻撃でしょう!ゆっくり当てただけなのにサソリが体液を噴出して崩れ落ちましたよーーっ!。」
「はい、今の攻撃は雷魔法の応用に自らの練り上げた魔力を合わせ、それを手のひらから相手の体内に送ることで内部組織を破壊する高等技術ですね。さすがキーケちゃん、技の大商会と呼ばれているだけの事はあります。」
「しかし、シエンちゃんの攻撃ですが、なぜ最初に炎を吐く真ん中の首を狙わないのでしょうか?。」
「そうですね、これは解説しないといけませんね。このヒュドラと言う魔物には幾つかの特性があります。まずはその血液は魔物を生むという事、そして首の切断面は焼かないと再生するという事、そして一番の特徴は、真ん中の首に限っては最後に切断しない限り、切断面を焼いても再生するという事ですね。」
「それは怖い相手ですねえ。これから、シエン、キーケ組はどう戦っていくのでしょうか?アルスちゃん。」
「そうですね、今まで通り地道に確実にやって行くのが一番ですね。」
「地道に確実に、ですか?。」
「はい、人生も戦闘もそれに尽きます。」
「なるほど、ありがとうございました。こちら、実況のクルースと解説は。」
「アルスでお送りしました。」
「ってナンデヤネーーンッ!闘技場ちゃいまんねんでーー!。」
「さすが、サマ爺!良い突っ込みですねえ。どうですか、今の突っ込みはアルスちゃん?。」
「もう、ええっちゅーねん!それより、だいじょぶでっか、キーケはんたち?加勢せんでも?。」
「大丈夫ですよ。ほら、ご覧ください、なんて危なげのない戦いでしょう。」
まだ若干解説口調が抜けていないアルスちゃん。
ちゃんと手順を踏み、二つ残された首のうち右側を手刀で切り落とすシエンちゃんに、切断面をすかさず炎で焼きながら、零れ落ちた血液から発生した魔物、今度は鉛色した二つ首のムカデの頭をこれまた手刀で切り落とすキーケちゃん。
残す首は後一つ。
すると切断面を焼かれ再生できずにいた残りの首がどんどんと縮み、と言うか胴体に吸収され、残った首が上を向き雄たけびを上げるかのように大量の炎を吐き出したかと思うと、頭のサイズが二回り程大きくなり鹿のような角が二本生え、更に尻尾からもトゲトゲが生えてきた。
「さあ、あと一息ですよ。角とトゲから電撃を放ちますからそれを避けながら角とトゲを切り落とし、それから頭と尻尾を切り落とせば出来上がりですね。」
「出来上がりって、料理ちゃいまんねんでえ。」
「いやあ、料理みたいだよ。ほら、キーケちゃんの手を見てよ。」
電撃を避けるキーケちゃんは手から大きな包丁の形をした炎を発生させて、それで尻尾のトゲトゲを落としている。
「包丁でんな。」
諦めたようにポツリと呟く、サマ爺さん。
シエンちゃんは、口から炎、角から電撃と果敢に攻めるヒュドラのラスト頭を移動速度で翻弄している。
「さすがに頭は攻撃の手数が多いでんなあ、シエンはんも攻めあぐねてまっせ!。」
「いやあ、あれは、楽しんでるよね。」
「楽しんでますねえ。」
「そんなあほな。」
サマ爺もそろそろ慣れて欲しいもんだ、みんなが規格外だという事に。
「あら、ヒュドラさんたら、あれは良くないですわあ。」
ありゃ、ヒュドラは業を煮やしたのか炎ではなく咬みつきをやってきた。確かに悪手だよそれは。
シエンちゃんはヒュドラの牙から口、そしてそのまま胴まで手刀で切り裂いてしまった。
胴まで裂けたヒュドラは再生を試みているようで、根元からジワジワとくっついてはいるのだが、いかんせんシエンちゃんを相手にするには遅い、遅すぎる。
「はい、終わりっと。」
シエンちゃんは手刀で角を落とし、口元から裂けた頭をキレイに切り落とす。
同時にキーケちゃんもトゲトゲを落としたシッポを切り落とした。
「よし、終わりだな。」
アルスちゃんが言った手順通りに、しっかり止めを刺されたヒュドラは、骨だけ残してとろけてしまった。
「うわっ、溶けたよ。気味悪い!。」
「きひひひ、ヒュドラはカースがかかっている魔物だからな。」
「カースってなに?。」
「呪いだよ。闇魔法のひとつだ。条件付きの無限再生、そして流す血液は魔物になる。これはカースの力よ。勿論対価は支払わねばならない。生まれつきにその身にカースを宿す生き物の支払う対価は、大抵その身体よ。死した後に闇に持っていかれるのよ。骨以外全て持って行かれるとは、随分な対価よな。」
「重ねがけしてますよ、きっと。」
「ふーむ、元々カースを宿した生き物に更にカースをかけたか。どうりで、やたら大きい、再生は早い、血液から生じる魔物も強いものだったわけだよ。」
「あれを見なはれや!。」
サマ爺が指さしたのはヒュドラが出て来た大穴だった。
土魔法なのか、そこから徐々に階段が作られこちらへ伸びてきている。
伸びて来た階段が地面に到達したので、我々はそれを登って迷宮から脱出するのだった。
しっかし、迷宮踏破して俺の中で一番成長したのは実況のスキルでしたよ。




