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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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記者の個人的事情って素敵やん

 「ちょっと、弁解のしようがなさそうですね」


 副会長が言う。


「シャンドレ記者はそれを知ってどうしようと言うんです?」


 ヴォーン生活部長が聞く。


「そりゃとくダネですからね、いずれは記事にしたいと思っていますよ」


「いずれ?」


 フィン書記がシャンドレ記者の言葉に反応する。


「そう、いずれですよ」


「すぐに記事にする気はない、と?」


「そうですね、あなた方が我々に伏せているという事はそれなりの意味があっての事でしょう?あなた方の目的の障害にならないように、とかね。私は、あなた方に好意を持っているんですよ。記者が公平を欠くのは問題かもしれませんが、人が書くからにはどうしても私情が入ってしまうのは仕方がない事でしょう。少なくとも出資者の意向でやってる誰かさんよりはまともだと自負していますよ。ああ、話が逸れましたね。つまりですね、簡単に言えば私はあなた方の味方であると、そう言う事です」


 シャンドレ記者は真っ直ぐにフィン書記を見て言った。


「ぼろを出した僕が言うのもあれだけど、シャンドレさんが好意を持ってくれるのはありがたいけど、それと、他の記者なら気にしないような事まで調べて回ってるのはどうつながるんです?ただ好意があるだけじゃないように見えますけど」


 ストームが言う。


「そうですね、先に私自身の事をお話ししないとフェアではありませんね。私が今回の件に興味を持ったのは、実はシャルドウ遺跡からなんですよ」


「シャルドウ遺跡ですか?アルロット領の?」


 ストームが聞く。


「ええ、そうです。私のラストネーム、シャンドレは起源を辿るとシャルドウ教祭司の一族であったらしいんです。現在はシャルドウ教を信仰する人も減っておりうちも信者ではないのですが。私は幼少時にそれを祖父から聞き、なにか神秘的な血筋なのかと心ときめかしたものです。勿論、そんな事はないんですけどね、ただ単に遠いご先祖様がそうであったと言うだけの話しですから。それでも、私にとっては大きな事でした。それ以来、何度も遺跡を訪ね、資料を調べるなどして関心を持ち続けてきました。そして、シャルドウ遺跡の取り壊しの声が上がっている事を知り、私はショックを受けたのです。なにか、自分の存在の一部が消されようとしている様に感じました。それで、仕事に絡めて騒動の周辺を探り始めた所、アルロット領主の娘、つまりそちらの生徒会長さんが今回の慰問を通じて遺跡保護のアピールもされるようだという情報を掴みました。更に、遺跡取り壊し推進派の筆頭に名を連ねているのがミーナカ商会である事もわかりました」


「ミーナカ商会?あの大手商会ですか?」


 シャンドレ記者の言葉にヴォーン生活部長が反応する。


「ええ、大陸のみならず多くの国と取引をしている大きな商会がなぜ?と思いますよね。私はミーナカ商会について色々と調べました。すると出るわ出るわ、怪しい話がザックザクでしたよ。ジャーグルやハルスマニに兵器流用可能品を売っているとか、その一方で各国内の反国家活動団体に資金援助している、とか。レクーリュ硬貨に関わってなんて話もありましたよ」


「ちょっとその噂、後で詳しく教えて下さいよ」


 シャンドレ記者に前のめりで言うストーム。


「まあまあストーム、そのへんで。先を教えて下さい」


 ストームを制し話の先を促すフィン書記。


「何かときな臭いミーナカ商会が、なぜシャルドウ遺跡の取り壊しを進めようとするのか?これはシャルドウ遺跡の宝と関係があるのではないかと私は考えています」


「シャルドウトーラスですか?しかしあれは特別な力を持つ品ではないと聞いていますが?」


 フィン書記が答える。


「確かにそうです、実際に年に一度の祭事で貸し出されていますからね。しかし、シャルドウ教の正典に含まれない偽典の一部にこんな記述があるんですよ、トーラスは世界の呼吸であり無限の力である、その力を成すのは内も外もない器と循環の中央に位置するらせんである、と。ここから読み取れるのは、現在アルロット領で保管されている物が器であり、らせんと呼ばれる物と組み合わせる事で真の力を発揮するものであるという事です。更に別の偽典にはこう書かれています、らせんは常に中央にある、雀と杉と鱒と鹿が見守るその中に、と」


「なんですそれは?」


 ヴォーン生活部長が尋ねる。


「私はそれがシャルドウ遺跡の四方に作られた守りの像を意味するものだと考えています」


「という事は?」


 ストームが唾を飲んで尋ねる。


「つまり、らせんは遺跡の下に埋められているのではないかと思うのです。それで、ミーナカ商会は遺跡を壊したいのではと私は考えます」


「なるほどなるほど!ミーナカ商会はそうして手に入れたシャルドウトーラスの真の力を使って、良からぬ事に持ちいようとしているってわけですね!」


「声が大きいぞストーム」


「失礼」


 フィン書記にたしなめられるストーム。


「まあ、そう言う訳です。ミーナカ商会の不穏な動きは彼ら商会の仕事の一部であり、依頼者が別にいるのではないかとも言われていますので、真の黒幕まで辿り着くのは容易ではないと思いますが、とにかく言える事はあなた方は容易ではない事件の渦中にいるという事です」


「僕たちは自分の意思でやっている事ですし、別口である程度の覚悟や備えはしているので良いのですけど、そこまでわかっていてシャンドレさんはなぜ首を突っ込むんです?あなたにも危険が及ぶかも知れませんよ?」


 ストームが真剣な表情で言う。


「実は先ほどの疑典には続きがありましてね、全ての人が欲を捨て去るその時まで、らせんは眠りにつかせよ。と。そしてその偽典のタイトルですが、シャルドレの託宣と言うのですよ。もしかしたら、これを書いたのは私のご先祖様かも知れない。だとしたら私はご先祖様の意志を守りたいと思うのですよ」


 シャンドレ記者は落ち着いた口調で言った。


「・・・なるほど、わかりました。そこまでの思いがあるのならばこちらも話さねばならないでしょう。いいよね、みんな?」


 ストームが言い、現場のみんなも見張りの俺と副会長も了承の意を伝えた。ストームはシャンドレ記者に話しの経緯を伝える。今回の慰問を面白くなく思っている権力者、ヨグスタイン伯爵と彼の関わる闇の商売について。そして、それに関わった者は必ず不慮の事故にあっている事。生徒会のメンバーはそれを覚悟、備えている事。

 そして、今回、俺と副会長とオライリーさんが巻き込まれた誘拐事件の事を。


「・・・・、なるほど。ファルブリングのジャーグルタウンでその手の団体が摘発された話は聞いていましたが、ジャーグル難民の孤児も対象にしていたとは、許せませんね」


「その時の子供たちは解放されて今はカティスで仕事をしてます。一応念のために言っておきますけど、子供達に危険が及ばないように、あまり公にはしていないのでそこの所はよろしくお願いしますね」


 噛み締めるように言うシャンドレ記者にストームが言う。


「わかりました。しかし、いつかその組織の闇が全て明らかにされ子供たちの安全が確保された暁には、是非とも取材させて下さい」


 シャンドレ記者が言い、ストームは頷いていた。

 しかし、ミーナカ商会か。ヨグスタインに続きまた面倒くさそうなのが出て来たな。


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