罠をかいくぐるって素敵やん
トラップの魔物を倒した広間は人が出ることでリセットされるのだそうで、中に居続ける分には作動しないとの事。
今日も順調に肉を頬張りながら、どんどん出続ければ面白いのにな、と言うのは勿論シエンちゃんだった。
さてと、迷宮に入ってから半日ほど経過しただろうか、どれほどの進み具合なのかまったくわからない。
誰かわかるヒトー、と尋ねてみるとアルスちゃんがこのフロアに関して言えば半ば程だろう、と言う。
何でわかるのか聞くと、迷宮はフロア内部を余さず通過する事になるために実は秩序だっており、通路の幅やフロア全体の大きさから大まかな道筋の距離はざっくりとだが算出できると言うのだ。
恐るべしはアルスちゃんよ。なんせ、歩数をずっと数えてたってんだからね。
途中で幾度かの戦闘や、罠から逃れるためのジャンプなんかもあったってのに、そんなのもざっくり計算してっちゅうんだから驚かされるよ。
アルスちゃんが言うには迷宮の最終地点はフロアの中心部だとの事。
サマ爺も恐らくはそこに階段か何かがあって市街地へ行けるようになっているのだろう、と言う。
このペースだと、ゴールするのにあと半日かかるのかいな。しかも、今までのように順調に行っての話だからね。市街地に着く頃には夜になってるか。
ちゅうか、市街が地下なら昼夜どうしてんのかね?
そこんとこどう思うか聞くと、遺跡街がどうなっているかはわからないが、普通は地下都市でも光源の出力調整で昼夜を設けるもんだと言う。
そんなもんなのかね。
なんとなく、迷宮通過が検問所通過と同意義だから安心だと言われても、やっぱり歓迎されぬ土地に侵入するって気持ちがあるからか、夜の闇に紛れて入りたいな、なんて考えてしまうよ。
そうしてピクニック気分の昼食を済ませ、再出発する事になる。
その後も、先ほどのようにサマ爺が魔力センサーは潰し、圧力センサー的地面の膨らみは見つければ避け、それでもひっかっかってしまうトラップもあったが、ゲイルで飛んで回避したり、時には腕力で破壊したり受け止めたりで順調に迷宮内部を進行した。
シエンちゃんは魔物バトルトラップを心待ちにしていたが、待っていると中々現れないもので焦れ始めていた。
「むあーー!地味な罠ばかりでつまらぬな。もっとパーーッとしたやつ来ぬかのう。」
「あら、シエンさんがそんなことを言うから、怪しい広間に出ましたよ。」
「待ってました!何が出るかな!何が出るかな!。」
ってシエンちゃん!モンスターの話しー略してモンバナーってか!
我々が広間に入ると案の定、出口と入り口が閉じました。
「よーし、よーし!歯ごたえのあるやつよ来い!。」
ところがどっこい、魔物は出ない。
「あれ?なんだ?。」
シエンちゃんが首を傾げていると、天井の隅に穴が開いてズサーーーッと音を立てて何かが大量に落ちて来た。
「なんだ、なんだ?。」
よく見てみると、手のひら程の大きさの蟹の群れだ。茹でてもいないのに血のように赤い、楕円形でギザギザした見た目の蟹。それが大量に天井から落ちてきて、カサカサギチギチと音を立てている様はどうにも気味が悪い。
「スカベンジクラブか。また厄介な罠に当たったな。」
キーケちゃんが言う。
「なにそれ?ヤバイ奴なの?。」
「はい、食欲旺盛な雑食の蟹なんです。なんでも食べちゃう掃除屋さんなのですよ。あんなものが部屋に満たされたら、たいていの生き物は骨も残りませんよ。」
「まったく恐ろしいけど良く出来た罠だねえ。部屋はいつもキレイに保たれるし外敵は排除できるし一石二鳥ってわけか。」
「いや、クルースはん!感心してる暇おまへんで!早いとこ脱出せんと!。」
「まあまあ、慌てないで。この間、アルスちゃんから習った魔法、試してみて良いかい?。」
「あら、もう制御できるようになったのですか?素晴らしい!。」
アルスちゃんが優雅に拍手しながら言う。
「うん、一応ね。じゃ、やってみるよー。」
俺は部屋の隅に小山のようになり、更に天井から降り注ぐ蟹の群れに両手のひらを向ける。
精神を集中し呼吸を整える。
同時に土魔法と風魔法を発動させ、尚且つ複数発生させる。
そう、シエンちゃんが強鳥車での移動中にやって見せたやつ、複数の竜巻を自由に操って見せたあれ、あれに俺は土魔法で細かい鉱物の破片を混ぜる。
このやり方は以前にアルスちゃんが鉱山で、アーミアントの群れを真っ二つにして見せた技の模倣なのだ。
あの時、アルスちゃんは水魔法に、同じように土魔法で鉱物の細かい破片を混ぜてジェット噴射してみせたのだ。
それは、まるで前世界のウォータージェットの更に凄いやつだった。
ウォータージェットってのは物凄く加圧された水流で切断加工をやる道具なのだ。
加工するのに熱が発生しないのが最大の特徴で、熱に弱い物質の加工や引火性ガスの充満している場所での救助活動などに使用されるのだが、そのウォータージェットの中でも、より高硬度の物質を加工するために水に研磨材を混ぜるやり方があるのだ。
アブレシブジェット加工と呼ばれていたその加工法は、昔、前世界で俺が工場勤めをしていた時に、そうした加工切削機械の展示会にて、今後の加工技術の革新になると宣伝されていたものだった。
そのやり方をこの世界でまた見ることになろうとは、さすがに思わなかったけどね。
さて、前置きが長くなったけど、俺がこれからやろうとしているのは、研磨材混じりのトルネードを複数発生させて、あの蟹どもを粉微塵にしてやる事だ。
シエンちゃんとアルスちゃんの前例を直に見ているから、イメージはしやすい。
俺の発生させた研磨材混じりの小規模トルネードは、小山のように積もり周囲へ広がっている蟹の群れを順調に磨り潰していた。
「おう、なかなかどうして、良く調整されておるぞ。シエンとアルスの教えの成果よな。」
「そうか?くふふ。」
「あら、そんな照れますわ。」
キーケちゃんに褒められて、シエンちゃんとアルスちゃんが照れておりますな。
よーし、俺に魔法を教えてくれた2人に恥をかかせないためにも、ビシッと決めたろうやないかい!
俺は細く長く、呼吸を取り込み細かい竜巻を更に増やし、蟹が落ちてくる天井の穴にも侵入させる。
すでに部屋の内部の蟹は殲滅と言うか消滅しているが、部屋のトビラが開く条件はまだ満たせていないようだ。天井内部にトルネードを侵入させてしばし、天井の開口部が閉じて部屋を封鎖していたトビラも開いた。
「ふひー、一時はどうなる事かと思いましたで!早うでまひょ!。」
「はい、出ましょうね。トモトモ、よくできました。」
「へへへー!なんとか出来ました。アルスちゃんとシエンちゃんのおかげです!。」
俺は2人に礼を言いお辞儀をした。
「なんだ!照れるではないか!。」
「うふふふ、はい。」
2人とも、嬉しそうにしている
。
「この迷宮は、どうやらトモを成長させるための糧になりそうだの。良きかな良きかな。」
キーケちゃんも喜んでおられるようで、何よりですよ。
さあ、引き続き俺の成長の糧となって頂きますかね、迷宮さんよ。




