冒険者って素敵やん
翌日、俺はみんなに作ってもらった自分の部屋で起床した。
俺はグリフォンを倒した賞金の残り大部分をこの部屋に置いておくことにした。
タンスの中に、俺に何かあったときは事務所の資金にしなさいと書いた手紙と共にしまっておくことにした。
バンミドルの懸賞金は昨日みんなと話し合ってみんなで山分けすることにした。
みんな怖い思いをしたのだから迷惑料だと言ったらみんな受け取ってくれはしたのだが。
どうしてもその配分内に俺もいないと嫌だというので俺も合わせた17人で等分に、と言うことになったのだが、50万を17等分じゃ割り切れないことがわかり、さあどうするかとみんなで頭を悩ませたのだがなかなか決着がつかない。
なので俺がここはバシッと決めちゃる!という事でみんなに3万レイン俺が2万レインと言うことにした。
最初みんなは均等じゃないと嫌だと言っていたが、じゃあこれは部屋代と思ってくれと言ったら納得してくれたのだった。
ちなみにそれは個人資産なので仕事に使う道具などを買う時は売上金から賄って帳簿に記載するようにもちゃんと説明したのだった。
そしてちゃんと休日を作ること、休みの日には街で買い物や食事をしてなるべく街の商店にもお金を落とし、お金を循環させるのも大切な事だとも説明した。あいつら、自分のためにお金を使えといっても使わなさそうだからな。
それからみんなと一緒に朝食を取った俺は意気揚々と冒険者ギルドに向かうのだった。
冒険者ギルドは商業ギルドのすぐ近くにあり、その辺りはギルドハウスと呼ばれいろいろなギルドが固まっているのだった。
冒険者ギルドの中は商業ギルドの中とあまり変わらなかったが、壁に沢山の依頼書らしき紙が掲示されているのが大きな違いだった。
俺はカウンターに行き受付嬢に冒険者登録をしたい旨を伝えると、お呼びするのでこちらに名前を書いてくださいと言われたので、その通りにしてしばし待つことにした。
暇つぶしがてらに壁に掲示された依頼書を眺める。
見てみると壁は縦に区分けされており一番右がF、一番左がAと6段階になっていた。
真ん中のC、Dの所が一番多く貼られている。その辺りが一番冒険者も多いのかもね。
その辺だと何それの討伐だとかが多いな、コレコレ、これなんですよね。討伐ミッション。
まあ、そうは言ってもおっかねーしコツコツとやるのが面白いんだしね。Fから行きましょうよFから。
Fは、と。これはあれだ、何かの採集だな。丁寧に目的の植物の絵と特徴が記載されている。
樹皮と葉をこれだけ、採集場所に何それの目撃情報アリ注意。みたいに本当に丁寧に書かれている。
これだけ見てても面白いな。前世界でもよく旅先でコンビニなんかに置いてある求人誌を見るのが好きだったけどそれに似てる感じがするな。その土地でその仕事をやるってどんな感じなのか想像するのが楽しかったものだった。その地域の特色みたいのもあるしね。地方なんかだと農作物の収穫のバイトがあったり、リゾート地だと宿泊施設やお土産物屋さんのバイトがあったり、スキー場や山小屋なんてのもあったりして。見てるだけで面白かったものだ。なんて事考えながら依頼書を眺めていると名前を呼ばれた。
「クルースさーん、トモ・クルースさーん」
「はーい、はいはい」
俺はさっきの窓口へ小走りで行く。
「お待たせいたしました。トモ・クルースさんですね。では突き当りに応接室がございますのでそちらへいらして下さい」
「はあ」
登録するのに面接でもするのかね?なんか緊張してきたな。俺は指示された応接室のトビラをノックする。
「失礼します」
中には応接セットが置かれておりその脇には短髪で長身、がっしりした体躯のいぶし銀おじさんが立っていた。
「ようこそおいでくださいました!私はギルド長のブライアン・ニーソンと申します。まずはお座りください」
声もバカ渋い!けれども、ギルド長自ら面接するのかね?腕前を見るために立ち合いますとか言わんでくれよ頼むから。
「失礼します。トモ・クルースです。よろしくお願いします」
自己紹介をしてから言われたようにソファーに座らせていただく。
「いやあ、本当によく来てくださった!てっきり商人としてやっていかれるのかと思いましたよ!いやー!よかったよかった!」
「えっ?何がですか?」
「いや、ですからね、商会を立ち上げられたでしょ。しかもデンバー商会が取引先だと言うことで。こちらもね、それじゃあ仕方ないかと、副ギルド長と残念がっていたのですよ」
「いや、あれは私の商会と言うわけではないのですが」
「まあまあまあ、あなたの名前も入っているではないですか。それに子供らを短期間でまとめ上げ教育を施し今じゃ立派な専門職集団であると、昨日商業ギルドのギルド長から言われましてね。これは、あれかと、そちらでやってかれるのだなあと、あれほどの腕の持ち主が勿体ないなと、嘱託冒険者としてでも登録願えないかと思っていたところに、まさにいらして下さって!」
あちゃ~。これはあれか。ヘンドリー隊長と同じパターンかぁ。参ったなあ。立ち合いとか勘弁してくださいよ。頼むから。
「いやいや、そんな。過分なご期待を。ご容赦ください。普通に登録させて頂ければ十分ですから」
「いやあ、そういうわけにも行きますまい。はぐれグリフォンを無傷で討伐し、あのバンミドル組を壊滅させた腕前聞き及んでおりますよ。それをFランクからと言うわけには行きません。こちらをどうぞ」
ギルド長が俺にカード状の板を渡してくる。見てみるとCランク冒険者登録書と書いてある。
「ささ、こちらにご署名捺印を。ささ!」
「いやいやいやいや、待って下さい。そんなのは勘弁して下さい。ちゃんと規定通りにやらせてください」
「いやいや、規定通りですとも!実績によるギルド長の評価での免除ですから!なにもやましいことはありませんよ!それだけの結果を出した人物に誰も文句は申しますまい!」
「いやあー、せめてEランクで!Eランクからと言うことで何とかまかりませんか?」
俺は何の交渉をしてんだ。しかしあれだ、そんな飛び級じゃせっかくの冒険者ライフが十全に楽しめないじゃないか!最初コツコツ地道にやって軌道に乗ってきたな位の所が一番面白かったりするんだから!
そんなやり取りをした挙句、ではDランクでと言うことでやっと話しがついた。
基本的には自分のランクの依頼しか受けることが出来ないのだが例外もあるようで、例えば高ランク者と組むことで自分のひとつ上のランクの仕事を受けることができたり、ランク上がりたての救済措置として初回限定でひとつ下のランクの仕事を受けられたりする、まあ元居たランクってことだけど、俺の場合もそれが適用できるのでEランクの仕事も一回だけ受けられるのだ。
そんなわけで初めての依頼はEランクからにしーようっと!
掲示板のEランクを見る。
この辺りのランクは冒険者の層が薄いのか、もしくは早くランクを上げたいものが多くて依頼の取り合いになるのかわからないけど依頼書の数が少ない。
読んでみると、どこそこまで行くからついてきて欲しいといった護衛というのか、そうしたミッションが幾つかある。と読んでるうちに人がやってきて1枚持って行った。
やはり依頼の取り合いなのかな。まあ、俺はそんなにガツガツしなくてもゆっくりと味わうようにやりたいからね。よく見ると1枚だけ他に比べて紙質がヨレている依頼書がある。
どうも、人気がない依頼のようだ。読んでみるとふたり連れを王都まで送って欲しい、馬車あり。往路のみ。宿代飲食代支給、報酬千レインとある。
確か王都まではノダハからマキタヤまでの約十倍程の距離があるとのことだった。
馬車で3日程だと言う。幾ら飯代宿代支給でも1日日割りで300レインちょいでおまけに帰りは実費じゃあ、そりゃ引き受け手もいないだろう。そんなわけでこいつだけ残されてたんだな。なんだか少し不憫になってきた。残り物には福があると言うし、旅好きな俺には持って来いのミッションじゃないか。
よし、こいつに決めた!
と言うことで俺はその依頼を受けることにした。
ちなみになのだが、はぐれグリフォンの出没によって出ていた山間部や往来の危険警報は解除されたとの事だった。
原因はマキタヤからも近いネイコウハ山にてネズミが大量発生、クラッシュ現象を起こし山頂の湖に飛び込んだことによる水質汚染との事。現在は衛兵隊とギルド依頼で集められた冒険者たちの手により大量のネズミの死骸は取り除かれ水質は改善されたため魔物の生息域も元に戻ったことが確認されたとの事。
よかったよかった。
と言うことで受付に依頼書を持っていくと名前を書いてしばし待たれよと言うことになり、俺はギルド内で待つことにした。ベンチに腰掛けて出入口を眺めていると老人と小さな女の子が入ってきた。冒険者ギルドには不似合いな組み合わせだなと思って目で追ってしまう。彼らはそのまま受付に行き何かを話し始めた。
「クルースさん。トモ・クルースさん」
名前が呼ばれる。もしかして依頼者だったかな。
受付に行き話しを聞くとまさにその通りであった。
「では、クルースさん、こちらの方が依頼者になります。依頼を受けることが決まりましたらこちらの書類にサインして受付までお持ちになられて下さい」
受付嬢からそう言われた俺たちは、対面式のイスに座り詳しい依頼内容について話し合うことになった。
「どうも、初めまして。私はDランク冒険者のクルースと申します」
「ご丁寧なあいさつ痛み入ります。私はオウンジ、この子は孫のハティです」
オウンジ氏は背筋も伸びており、白髪で髭をはやした老人的風貌に反してしっかりとした話し方をされる方だった。
「ハティです」
たどたどしい喋り方でペコリと可愛らしくお辞儀する女の子はシン達よりも年下に見える。前世界の小学1年生前後だろうか。
「早速なのですが報酬については依頼書に記載している通りになります」
「ええ、結構ですよ」
「王都までの道は現在、魔物や盗賊などの出現はほぼなく安全であるときいております。ですので基本的な仕事は馬車の運転の交代要員となります。なるべく早く到着をしたいので引き受けて頂けるならすぐにでも出発したいと思います」
ふむ。オウンジ氏の目を見ると何か固い意志が感じられるように思える。何かありそうだが、ハティを見るにこの子のためのなにかだろうと察しは付く。ならば、かまわないだろう。俺はオウンジ氏とハティを交互に見てから言った。
「結構です。お引き受けします」
「ありがとうございます。では早速」
俺とオウンジ氏は握手をし書類にお互いのサインと捺印をし受付嬢に渡しギルドから出た。
「クルースさん、何か用意はありますか?」
ウーム、今身に付けてるのはウェストバッグだけ。中身は巾着にお金幾らかと冒険者カード、アウロさんから貰った切り出しナイフ、後は五寸釘。それだけだ。他に何か必要なものねぇ?うーん。あっ!いっけね!あれ忘れてたよ。
「ちょっと買い物をしても良いですか?」
「ええ、いいですとも」
と言うことで俺はまず防具屋に行って兼ねてより冒険者になったら買おうと思っていたバックラーを購入した。直径30センチ程の円形の奴を左の手首辺りに装着し腕を降ってみる。いいねー。カッコよろしいやないの!
「いやあ、すいません。お時間お取らせしました」
「いえいえ、では行きますか」
そうしてオウンジ氏の馬車を取りに行った我々一行は王都へと出発したのだった。
王都へはノダハからマキタヤ方面に行くのだった。アウロさん元気かな。マキタヤに寄れたらいいんだけどね。
俺が馬車の手綱を握り後ろの荷台にオウンジ氏とハティが座る。
まあ、馬車の運転といっても馬は街道の道筋通りにほっといても歩みを進めるので、ストップしたい時と速度を変えたい時に手綱を動かすくらいで後は基本暇なのだった。
俺にとっては2度目の道だ。
「爺ちゃん、一緒に行ってくれる人が居て良かったね」
「ああ、本当になあ」
「王都に行けばハティは爺ちゃんと一緒に暮らせるの?」
「ああ、そうだとも」
「良かったね!爺ちゃん!」
「ああ、良かったよう。ハティ」
後ろからふたりの会話が聞こえてくる。
なんでこんなにかわいいのかねえ。孫と言う名のトレジャーですわなぁ。
聞いていてほっこりさせられるよ。
しかし、ハティちゃんの両親は王都にいるのかね?なんだか依頼を受ける時のオウンジ氏の目や後ろの会話なんかからちょっと色々想像しちまうよな。
両親が亡くなり親戚中をたらい回しにされるハティちゃん、人間嫌いで隠遁生活を送るオウンジ氏のもとに連れてこられるハティちゃん。最初は無愛想だったオウンジ氏もハティちゃんの天真爛漫さに心を溶かされて、っておいっ!それじゃ王都のお金持ちの家に奉公に行くことになっちゃうだろ!爺ちゃんが連れてってどーすんだっつーの!どこに連れてくのか教えておじいさんって言ってる場合か!
「この先に川がありますから少し馬を休ませますね」
俺は後ろのふたりに言った。
少し行くと例の川がある。アウロさんと魚を食べてグリフォンと戦ったあの川だ。懐かしく感じられるがよく考えれば幾日も経ってないんだよな。
川に到着したので馬に水を飲ませる。
「川に落ちないように気を付けるんだよハティ」
オウンジ氏が言う。
「うん!」
ハティちゃんは元気よく返事をする。元気が一番だよな。
馬に水を飲ませながらハティちゃんを見ていると、こちらにトテトテトテーと走ってやってきた。
「お兄ちゃんは冒険者さんなの?」
「そうだよ」
「いつからやってるの?」
「今日からだよ」
「えっ!」
ハティちゃんはビックリしてより目になった。かわいいなあ、おい!
「じゃあ、初めての冒険?」
「そうだよ」
「ハティも冒険者になれる?」
「大きくなれば何にだってなれるよ」
「でも、ママはモミトスの発見者以外は意味ないって言ってた」
「ハティ!こっちに来なさい!」
オウンジ氏がいつになく強い口調でハティを呼ぶ。ムムム。これは。なーんか嫌な臭いがしてきたぞ。嗅ぎ覚えのある臭い。俺が前世界で悩まされた、家族に縁がなかった原因。それとダブる。モミトスの発見者ね。調べる必要があるな。
馬も水を飲めて満足したようだし出発だ。
「この先にマキタヤの街があるのですが寄りますか?」
俺はオウンジ氏に聞いた。
「ええ、少し寄らせて下さい」
「わかりました」
それからマキタヤに着くまでオウンジ氏はしゃべらなかった。
マキタヤに到着する。
おおっ!鍛冶町!雰囲気あるなあ!街に入ってすぐに見えるのは大きな屋根の平屋だ。屋根がでかいうえに窓がついてやんの。そして鉄工所のような金属の焼けた臭いがする。
そうして街を進んで行くと今度は四角い繋がったレンガ造りの建屋になってくる。これらの建物は商店や住居なのだろう。
「私たちはこの先の教会に用があります。噴水前広場で待ち合せましょう」
通りの先にはやはりノダハのように噴水を中心にしたロータリーが見える。
「わかりました」
俺は馬車を進めて教会の脇に停める。
「では、いってらっしゃい」
俺は馬を繋いでふたりが教会に入っていくのを見送った。ハティちゃんが何度も振り返って手を振ってくれるので俺も笑顔で手を振り返す。
さてと、アウロさんに会いに行こう。
噴水公園にいる人に鍛冶屋ジョーサンの場所を聞く。今来た通りの脇にあると教えてもらいそこへ向かう。
来る時通ったレンガ造りの商店の連なりの中でも一際大きな鉄の看板にジョーサン、と書かれていたのでその下のトビラに入る。
「いらっしゃいませ」
中に入ると大きく取られた空間、重厚なテーブルにカーペット、まるで銀座あたりの高級ブランドショップみたいで気後れしてしまう。
「何かお探しでしたら伺いますけど」
きれいなお姉さんが話しかけてくる。うわー、苦手な空間っすわ。
「いや、えーと、はい」
はいじゃねーよ俺は。へどもどしてても仕方ない。
「あのですね、アウロさんに会いに来ましたクルースと言います」
「あの、アウロと申しますと先代でございましょうか?」
「ええ、アウロ・ジョーサン氏です」
「失礼いたしました。クルース様、ですね。こちらにお座り頂きまして少々お待ちください」
俺は店内にある重厚な造りのイスに座って待った。
しかしスゲーな。前世界でなら通りから見るだけで中に入ろうなんて思わないようなゴージャスな造りの店内だわ。なんかいいのかなドレスコードとかないのかな。なんて肩身が狭くなり小さくなっていると。
「いやあ、お待たせした!」
おおっ!アウロさん!助けて!
「お久しぶりです」
「いや本当についこの間の事なのに、お久しぶりという感じですな!さあ、ここでは何ですから奥へどうぞ」
そう言って俺は奥へ通された。奥にはがっしりとしたテーブルがありその上には金床、沢山のたがねが入った木箱、溝のついた木の台などがあり、壁には沢山の金槌、木槌、やすりなどが専用のラックでもって立てかけてある。
「ここは作業部屋でしてね、あんな余所行きな店先じゃあ落ち着かないでしょう。まあ、お座りください」
俺は勧められたイスに腰を掛ける。
「確かにこっちの方が落ち着きます」
「でしょう?いや、まずは再会を祝しますか。まあ、紅茶ですけどね」
相変わらずのいい笑顔でカップをよこすアウロさん。
「ありがとうございます」
いい香りだ。すこーしだけ柑橘類のような香りがする。この世界に来てから前世界みたいな調味料ドバドバ味濃厚アブラ多めな食事をしてないからかね、鼻も舌も鋭敏になってきたように思う。
「美味しいです」
「それは良かった」
それから俺たちはお互いの近況について語り合った。
アウロさんはテンカラ釣りの竿、ライン、毛バリをセットでデンバー商会に卸しているのだと言う。
そして、俺が子供らを率いて会社を設立しデンバー商会と取り引きしだした事、バンミドル組を壊滅させた事もご存知だった。
俺が冒険者として働きだした事、そして今日がその仕事初めだと言うと、それはおめでとうございますと言ってくれたのだった。
それから俺は気になっていた事を聞いた。
「つかぬ事を聞きますけど、モミトスの発見者ってご存知ですか?」
「ええ、知ってますよ。それがどうかされましたか?」
ほんの一瞬だがアウロさんの眉が動いた。ウーム、やはりあまり健全なものではないようだな。
俺はアウロさんに今請け負っている依頼を個人名などを伏せてざっくり説明し依頼者の子供が口にした旨を伝えた。
「フーム。なるほど。モミトスの発見者、と言うのはこの国の国教であり世界的にも大きな勢力を持つモミバトス教の分派ですな」
「分派ですか。しかしよく許されてますね、あのなんでしたっけ物騒な集団に」
「フフフ、神弟の剣協力団ですか?彼らも別にならず者集団ではないですからね。教団の指示なしでは何もしませんよ」
「では、教団は?」
「私もそこまで詳しくはないですが肯定派もいるし否定派もいる、教団公式見解としては静観だというのが一般的には知られておりますな」
「フーム。で、モミトスの発見者と言うのはどういった教団なのですか?」
「モミバトス教では神の弟であるモミバトス様を崇めていますが、彼らはその兄上である神こそが唯一絶対の神であるとしていますな。自分たちこそが真の神モミトス様の発見者である、と」
「発見者ですか」
「ええ、モミトス様に見つけて頂いた者、モミトス様の信者を見つける者、だから発見者なのだと自称しておりますな」
お、やっぱりだ。アウロさんの言葉にいかがわしいものを語るような空気が感じられる。
「自称ですか」
「ええ、モミバトス教では兄である神の名は神聖なものであり口にしてはいけないという古い教えもありましてね。まあ、古い教えですので色々と解釈はあるのですが、まあそれにしても私なんかはあまり感心しないですな。別に私自身は熱心なモミバトス教信者ではないのですがお客様や仲間には熱心な信者の方もおられますからね。彼らがその教えや経典をいかに神聖なものとしているかは良く知っています」
「ええ」
「モミトスの発見者では独自解釈の経典を用いておりましてね」
ああ、嫌な臭いが強くなって来ましたよ。
「おや?クルースさん。顔色が変わりましたが、なにか思うところがありましたか?」
「ええ、前世界で似たような団体に家族が属しておりましてね。悩まされましたよ」
「そうですか、それはご苦労をされましたな」
アウロさんは噛みしめるようにゆっくりと言って続ける。
「私が感心しない所もまさにそうした所でしてね。家族を分断させる原因になりやすいのですよ。その独自解釈故に」
きたよ。メッチャわかるんですけど。
「禁止事項が特殊で多いのですね」
「そうです。その内容は本当に感心しないものが多くてですね。子供の将来や尊厳を踏みにじるように思えるものも少なくないのです」
「わかりますよ。本当に」
「私はね、この仕事を長くしておりますからね、多くの若者が成長していく姿を見てきました。クルースさんも今、事業を立ち上げられてそうした姿を見ている最中ではないですか?」
「まさにそうです。あれはいいものですな」
「本当にそう思いますよ。昔、私の工房、ここではなくて専門の工房ですけどね、そこに毎日のようにやって来る子供がおりましてな」
「はい」
「人懐こい子でしてね、すぐに工房の連中とも顔見知りになりましてね。連中も面白がって空いた時間に真似事をさせたりしましてね」
「ええ」
「その子も工房での作業やみんなの事が気に入ったのでしょう。まだ小さいのに弟子にして下さいなんて言いましてな。勿論まだ小さな子でしたからね。大きくなったら絶対来いよなんて、みんなも言ったりしましてね」
俺はアウロさんの目を見て話しを聞く。
「それがある日ぱったりと姿を見せなくなりましてな。まあ、移り気な子供の事ですから興味の対象が他に移ったのかな、なんて思いましたけどね。それまで毎日のように来ておりましたからな、みんなも寂しがりましてな。むさくるしい職場ですからな、なんだかあの子がいるだけで場が和やかになるようにみんな感じたのでしょうな、仲間のひとりがその子を探すなんて言いましてな」
俺もその仲間の気持ちになって話しを聞いていた。
「ある日その子の事が分かったってそいつが言いましてね。暗い顔をしてましたからね、嫌な結末なのかなと思いましたよ。そいつが言うにはですね、その子の母親がモミトスの発見者に入信してから夫婦仲が悪くなり近所でも怒鳴り声が絶えない家だと評判になるほどだったようでしてね。その子も家に居づらかったのでしょうね。それで工房によく来ていたのでしょう。そうして遂に両親が別れる事になりまして、その子は母親に連れていかれてよその町へ行ったそうです。父親の方も酒浸りで無気力になり借金が重なって逃げるように町を出ました。今でもその子の弟子にしてくださいと言った時の顔を思い出すことがありますよ」
それは、その子のSOS信号だったのだろう。胸が痛くなる。
「すいませんね、クルースさんにも嫌なことを思い出させてしまったようですな」
「いや、とんでもない!私のほうこそですよ」
「まあ、こうしたものは本当に難儀ですな」
「まったくです」
お互い深くため息をつくのだった。
「ありがとうございますアウロさん。お時間を取らせてしまいました」
「なにをおっしゃる。再会出来て嬉しかったですぞ。ちょっとまってくだされ」
そう言ってアウロさんはさらに奥の部屋へ行った。
「これを持って行ってください」
そう言ってアウロさんが俺に渡したのは長さ20センチほどの革ケースだった。ケースにはベルトループが付いており腰などに装着できるようだが、この重み、中に入っているのは金属だな。なんだろう?
「さあ、中を見て下さい」
俺は革ケースを開けて中の物を取り出す。長さ20センチ程の円筒形の金属。手になじむように革紐ががっちり巻かれている。これは。俺はアウロさんを見た。
「おや?その目は。さてはあれですな、こうしたものは前の場所でもありましたかな?。クルースさんから教わった伸縮する釣竿の技術を応用してみたのですが」
俺はアウロさんに貰った円筒形の金属を握り腕を降り下ろした。
「ジャキンッ!」
子気味良い音を立てて筒が伸びる。これは、あれですな特殊警棒ですな。
「フフフ、様になっとりますな。金属の強度を出すのに難儀しましたよ」
俺は何回か振ってみる。握りと言い長さと言いしっくりと手になじむ。
「最高ですよ」
「そう言って頂けると嬉しいですよ。今回は警護の任務ですよね、携帯性に優れた武具があるとよいかと思いましてな」
「ありがとうございます。頂いてしまってよろしいのですか?」
「よろしいも何も、クルースさんから教えて頂いた技術の応用ですからな。しかも、既に幾つかの街の衛兵所から注文も入ってますからな。いやはやクルースさんには本当に良い商機を頂いた」
「フフフフこちらこそですよ。今度ノダハに来られた時は是非、ケイン&トモ事務所にお越しください。一同で歓迎しますから」
「それは楽しみですな」
俺とアウロさんはそう言って握手をし別れたのだった。




