毅然とした対応って素敵やん
雑貨店のトイレを借りて用を済ませた俺達は、食堂へと戻った。
「まったく、酷い目に遭ったよ」
「今回の難民慰問に強く反対する人がいるようですが、先ほどの事故はそうした者達の仕業と考えますか?」
「それはさすがにどうだろうか?店員も木の老朽化じゃないかと言っていたしね」
新聞記者の質問にヴォーン生活部長が答えている。
生徒会では基本的に今回の件について敵方を煽るような過激な発言は控えようという事で話はついている。複数ある新聞社の中には、慰問に反対する者が資金提供している所もある。そうした新聞社の中には相手の言動について一部だけを切り取り、誤解を与えるようなやり方で報道するのを得意とする所もあるのだという。
とにかく言動には気を付けて、と言う訳だ。
「ある店員は倒れるほどの老朽化はなかった、不自然だ、と語っていますが、その事について何かご意見はありますか?」
おかっぱ頭に眼鏡をかけた記者が更に質問をする。
「そうだね、トイレに行くなら早めに行く事をオススメするよ」
ヴォーン生活部長は肩をすくめてそう答えた。
「あ、あなたも被害に遭われたそうですね、やはり、あれは事故ではないと思いますか?」
おかっぱ頭が今度は俺に質問をしてくる。
「やはりってどういう意味です?あなたは事故ではないと考えている、という事ですか?」
俺は逆に質問する。
「私は記者ですので真実を書くだけです」
「良く言うよ」
おかっぱ頭の答えに俺の後ろにいたストームが小さな声でぼやいた。
「何か言いましたか?」
おかっぱ記者がストームに言う。
「いいえ、何も言ってませんよ、デイリーホザダのミカナキさん」
ストームはおかっぱ記者の首から下げてる取材許可証を見て言う。
「あなたは先ほどの事件について、なにか思う所はありますか?」
おかっぱ記者ミカナキは目を細めてストームに質問する。
「事件と言われるという事は、ミカナキさんはあれを故意であると捉えているのですか?」
「何度も言いますが私は記者ですので真実を書くだけです。それに今言った事件と言うのは、文字通りの意味ですよ。すなわち、事柄、事項という意味で使っています。それを直ぐに故意であると捉えるのは、やはりあなたがそう考えているからですか?」
ミカナキはしてやったりという顔をしてそう言った。なるほど、偏向報道する気満々といった感じだなこれは。
「へえ、デイリーホザダさんでは紙面で使う事件という単語はそういう意味で使っているんですね?ではデイリーホザダさんでは事故とはどう区別して使っているんですか?」
ストームが返す。
「それは、つまり、通常とは違う悪い出来事という意味です」
「ほう、ではデイリーホザダさんで事件と事故の両面で調査されているという表現がされる時は、事柄と通常と違う悪い出来事の両面で調査をされている、という意味で書かれていると解釈してよろしいのですね?」
「うっ、そ、それは、記事にする場合と言葉にする場合の違いで」
「デイリーホザダさんでは言葉と記事で意味が違うような扱い方をするのですか?それがデイリーホザダさんの言う真実ですか?」
「き、君達ねえ、それでも伝統あるファルブリングの生徒かね?礼儀がなっていないのではないかね?これも記事として扱わせて貰うからね、伝統校も生徒の質が下がっているとね」
「他の新聞と論調がかなりズレてしまうでしょうけど、それでも良ければどうぞ」
「皆さん!聞きましたか!我々は論調がズレていると彼は言いました!彼らは我らの仕事を侮辱したんですよ!いいんですか!」
ミカナキは唾を飛ばして大声で周囲に叫んだ。
「ああ、ホザダさんまたやってるよ」
「全部聞こえてるってのになあ」
「困ったもんだよ」
「いつもあの調子で相手怒らせちまうんだから」
「取材の邪魔をしないで欲しいよなあ」
他の記者がうんざりといった顔をしている。
「デイリーホザダは決して権力には屈しないですからね!」
ミカナキ記者は俺達ではなく周囲に向かって大きな声で言うと食堂から出て行った。
「なんだ、あいつ?」
俺はストームに聞いた。
「デイリーホザダは偏向報道で有名なんだよ。大出資者に媚びへつらう記事ばかり書くのさ。ちなみにだけどヨグスタイン伯爵もその大出資者のひとりだよ」
「マジか」
「権力に屈しないが聞いて呆れるよ」
ストームは腹立たしげに言った。
「いやー、すいませんね。あそこはいっつもあんな感じで」
「うちらはあそことは違うんで、ひとつお願いしますよ」
「ホザダさんとこも、もうちょっと大人しくできないかねえ」
「まあ、問題起こしてなんぼだからなホザダさんは」
「でかい出資者がついてるトコは違うねえ」
「ごめんなさいね気分を害されたでしょう」
ミカナキが出て行った後、他の記者たちが口々にそう言った。
俺とストームは、いえいえどうもどうもと彼らに愛想を振りまくのだった。




