迷宮って素敵やん
さて、朝が来て軽く飯を食い、いよいよ迷宮に突入となりました。
「しっかし、昨日の夜は、あの砂を巻き上げる音がおっかなくて参ったよー。」
「なんだトモちゃん!怖かったなら言ってくれれば添い寝してやったものを!今度からはちゃんと言えよ!。」
「あら、シエンさんたら、わたしだって言ってくださればいつでも添い寝して差し上げますわよ。」
「きっひっひっひ、ならばあたしも添い寝してやるとするか。」
「モテモテでんなあ、クルースはん。」
「ちょお!勘弁してよ、もう!みんなしてからかってからにー。しかし、何だったんだろあの音は。」
「あれはサンドワームの求愛行動ですよ。オスのサンドワームがメスを呼び寄せる時にやるんですよ。空中に大量の砂を吹き上げて、それが地面を叩く音でメスを呼び寄せるのですよ。」
「しかし、あのぬしも可哀想なやつだなあ。嫁が欲しいのだろうに、ひとりぼっちとはな。いくら砂を巻き上げても、その音は仲間のサンドワームには届かない。一人になりたくて一人なら良い、だが、ヤツはメスを求めとる。哀れよの。」
シエンちゃんが随分と感傷的なことを言う。
俺は前世界のクジラの話しを思い出していた。
仲間と同じ周波数で鳴けなかった、世界でもっとも孤独なクジラと言われた動物の事を。
広い海に居ながらそのクジラの言葉を理解するものは誰もいない、と言うので多くの人の琴線に触れたのだが、あの話は当のクジラを見たものはなく声のみ確認されたもので、実際にどんな生態なのかはまったくわかっていなかったはずだ。
そう考えると、このサンドワームはあの場所から出られずに、誰もいない場所で延々と求愛行動をしているわけで、大分哀れだなそれは。
「へえ、哀れっちゃあ哀れに思えますなあ。しかし、他所で生きるより安全でっしゃろ。飼育されとるようなもんでっせ。外の世界なら弱肉強食でんがな。ここなら、メスはおらんがあいつを脅かすような魔獣もおりゃしまへん。」
「ふむ、生き物にとってどちらが良いのかのう。本人に聞いてみたらどうだ?。」
「また、キーケはん、勘弁しとくんなはれや。出発の用意ができたら静かに行きまっせ。」
俺たちは準備をして各々ゲイルを使って飛んで移動した。
静かに静かに、音もなく移動する。
サマ爺の後に続いてゆっくりと降下し黒死門をくぐる。
「ふいー、もう声を出しても大丈夫でっせ。」
額の汗をぬぐいながらサマ爺が言う。
「砂かけられなくて良かったね。」
「うふふ、求愛行動は夜にしかやりませんから大丈夫ですよ。」
「そっかー、要らぬ心配をしてしまったな。」
「ほな、早速進みまっか。」
「ちょっと待て、よく見ろなんだこの隙間は?。」
シエンちゃんに言われてよく見ると今から進もうとする通路の床、壁、天井部に線を引いたように隙間が空いている。
「ここを見てみろ、地面が不自然に膨らんどるぞ。」
キーケちゃんの言った場所を見ると、確かに地面の一部が薄っすらと盛り上がっている。
これは、サンドワームに追っかけられて這々の体で入ってきてたらまず気づかないぞ。
「少し下がっとれよ。」
そう言ってキーケちゃんが慎重に膨らみを手で押した。
ザッシャン!
金属的な音がして隙間天井部から、ギロチンみたいな刃物が落ちて来た。
「入って直ぐにこれでっか。えげつないでんなー。」
ギロチンはギリギリと何かが巻き取っている音を立てて天井の中へ戻って行った。
俺たちは膨らみを跨いで、ゆっくりと進んで行く。
迷宮内部は以前に行った鉱山内部のようにところどころにランタンが置かれ、光はある程度確保されていたが、さっきのような細かなトラップがある事を顧慮して魔法を使って更に明るくして進むことにした。
その先も、壁の左右から弓矢が発射されたり、定番の床が開いて下に槍が沢山ってヤツがあったり、ちょっと部屋っぽくなった開けた場所に出ると出入口が塞がれて地面から大量のスケルトン兵が湧き出てきて、全部倒すまで出られまへん、だったりと、噂にたがわぬトラップの連続だった。
「ふひー、こりゃ本当に罠だらけだよ。引き続き気を付けて進みましょうー。」
「おっ!トモちゃん!こんな所に野菜が植わってるぞ!食材にしよう!。」
シエンちゃんが唐突に生えていた怪しい葉っぱを引っこ抜く。
「わーー!あきまへんでーー!みなさん!耳を塞ぎなはれえーー!。」
サマ爺が大声で言って耳を塞いだ瞬間、不愉快な、不安な気持ちにさせる音程の悲鳴が大音響で鳴り響いた。
「うわーー、なにこの声、めっちゃ気分が悪くなる声なんですけど!。」
「ゴメンゴメン、トモちゃん。これ、マンドラゴラ!滋養強壮に良い草!抜く時ちょっとうるさいのを言い忘れてた!ゴメンゴメン!でも、身体に良いから昼飯に食べよう!。」
「ああ、大丈夫大丈夫、なんか気持ち悪い声だったけど、別にそれだけだから。でも、それ本当に食べて大丈夫なの?幻覚見たりしない?。」
シエンちゃんが見せて来た野菜は、葉っぱの下に茶色いデッサン人形みたいな形の実がついていた。
「いや、みなさん大丈夫でっか?マンドラゴラでっせ、あの声を聴いたら、普通の人なら精神に異常をきたしてエライ事になりまっせ!。」
「わたしは大丈夫ですよ。ちょっと嫌な気持ちにはなりましたけど。」
「あたしは、精神攻撃には耐性があるから問題ない。サマ爺こそ大丈夫なのか?。」
「へえ、わては聴覚遮断を使いましたさかい。しかし、ホンマにみなさん、普通じゃあありまへんなあ。」
「しかし、今更だけど、ここって分かれ道とかは無いのね。クネクネしてるけど一本道なのね。」
「へえ、迷宮だっさかいに。」
当然のようにサマ爺が言う。
「え?どゆこと?。」
「ああ、そうだんな、一般的には皆さん迷路も迷宮も同じ思ってますもんなー。迷宮言うんは、基本、一本道でんねん。迷路のように選択肢による迷いはあらしまへん、そのかわり、内部の空間すべてが道になってまっせ。当然の事でっけど、その道すべてを通らんと出れまへんのや。罠を仕掛けるならこっちのほうが断然厄介やで。」
サマ爺が言うように、罠を仕掛けるならそっちのほうが断然厄介だわ。なんせ回避していけないんだもの、一本道だから。
「ちなみになんですけどね、迷宮と言うのは元々は古代に宗教的意味合いがあったのではないか、と言われているんですよ。」
「アルスお嬢、それはどういう事でっか?。」
「あら?さすがのサマ爺さんもご存じありませんでしたか?世界各地にある古代の宗教施設の遺跡から、迷宮の図が数多く確認されているんですよ。建物の床や壁であったり、飾られていた装飾品などに迷宮が描かれているものが多く発見されています。どんな理由で描かれたのか諸説ありますが、正確な所は現在も不明なんですよ。」
「それは、なんだか、わての追っかけている謎を解く手掛かりになりそうでんなあ。諸説ある言うてはりましたな!どんな説があるんでっか?。」
サマ爺さんは前のめりでアルスちゃんに尋ねる。
「ひとつは、何かしらの啓示を受けるためのものではないか、と言う説ですね。勿論、宗教施設ですから、その宗教で崇めている神からの啓示でしょう。今一つは、何らかの修行だったのではないか、と言う説です。どちらかと言うとわたしはこの説がしっくりとくるのです。多くの宗教に伝わる聖人や英雄のお話しでは、必ず彼ら彼女らの上に艱難辛苦が降り、それを乗り越えて真の聖人英雄へと成長するのです。そうした苦難の象徴ではないか、と言うのです。確かに、実際の伝説としても英雄が迷宮の怪物を倒す話は少なくないのです。そして、たいていの場合、迷宮を踏破した英雄はそれによって知恵を得ることで力と知恵を兼ね備える事になります。ですから、古代の宗教家達が精神の鍛練のために、もしくは何かに到達するための修行の象徴として残したのではないかと言うのは、わたしには一番納得できる事でした。いかがですか?。」
「フーム、興味深くはありまっけど、噴火と迷宮の関係を解くための鍵としては少し遠く感じますなあ。いや、大変面白くはありまっせ!。」
「ならば、我らもここを抜けることで聖者英雄になれるやも知れぬなあ。」
「きひひ、シエンは聖者や英雄になりたいのか?。」
「まったくなりたくないっ!。」
元気に言い切ったよ。
「きーっひっひっひっひ、であろうと思ったわい。」
「うふふ、まあ、キーケちゃんは本物の英雄ですけどね。」
「それを言うなアルスよ、照れくさいわ。」
「あら、申し訳なかったですわ。」
「え?キーケはん?レインザーから来た?あれ?まさか?もしかして?あの、人族の究極兵器、歩く軍事大国と言われたあの、キーケ・タモクト殿でっしゃろか?。」
「まあ、の。」
「うひゃーー!こりゃまた失礼いたしました。」
「よせよせ!そうゆうのが嫌で隠遁したのよ。」
「そうだぞ、お爺!仲良くしてやってくれ!お爺とお婆でちょうどいいから、あきゃきゃ!いてててーー!。」
土魔法か、細かい石つぶてを連続でぶつけられてのけぞるシエンちゃん。
「まったくシエンは一言多いのう。」
「どうりで、強ぉおまっせ。しかし、他の皆さんも負けず劣らずでっしゃろ?まったく、教会もおっそろしいパーティー遣わしまんなあー。」
「まあまあ、サマ爺さんも大概だよ。」
「いやあ、わてなんてホンマ、大した事おまへんがな。」
なんて言いながらも、ちょくちょく懐から丸薬みたいなもの出してはポイポイと投げてる。
そりゃなんぞ?と聞くと、魔力に反応して動くトラップのセンサー部分を潰してるそうな。
やっぱ、大概やる爺さんよな。
また広間に入ると扉が閉じて魔物が出てくるトラップに会う。
複数出てきた金属質のゴーレムを退治した時に、サマ爺がここいらでちょいと昼飯にしまひょ、という事になりお昼休憩を取ることにする。
どうにもピクニック気分ですな。よろしおますな。




