キッズ魂を忘れずにって素敵やん
控室を出て闘技場内部に入ると、そこは砂漠の真っただ中であった。見渡す限り黄土色の砂、そして目の前には岩を削り取ったような遺跡がある。
「さあ、ファルブリングカレッジ生徒会対抗戦、選手の入場となりました!実況はお馴染み放送クラブのチェルスと」
「新聞クラブ部長のフィールドでお届けさせて頂きたい」
頭上から声が聞える。ギライス祭りを思い出すなあ。
「今日は我々の他に特別解説者としてこの方をお招きしています」
「え~、こんにちは、馬術クラブのストームです」
おいおい、ストームの奴、なにしてんだよ。当事者だろうが。
「ストーム君は生徒会の特別協力者となっていると聞くが、こんな所で解説をしていて構わないのかね?」
フィールドが聞く。
「はい、僕は戦力になりませんので今回の模擬戦は見学と言う事で了承いただきました」
ストームが答える。
「その辺りの事情はおいおい聴くとして、先ずは両陣営選手が揃いましたら各拠点を確認して下さい。各拠点には両陣営の旗が用意してありますので自陣営の旗を所定の場所に差して下さい。確認が終わりましたら、現在いる拠点に戻って下さい。現在皆さんのいる拠点はリスポーン拠点となります。拠点内のリスポーンエリアを起動すると準備完了と見なされます。両陣営の準備が完了した時点で開戦の花火が上がります。この合図の前に敵エリアに潜入する事はできませんのでご注意ください。また試合が開始されましたらこちらの実況はカースフィールド内部には流れませんので、ご観覧の皆さまはご安心下さい」
放送クラブのチェルスが言う。ん?ゲーム中に実況が内部に流れないのはわかる。それで相手の行動がわかってしまうからな。しかし、それで観客に安心しろとアナウンスするってのは。
「もしかしてだけど、この試合って賭けの対象になってたりするのか?」
俺は疑問を口にする。
「当然、なっているでしょうね」
クランケルが言う。
「いいのかよ?学園主催だろ?」
「賭けまで主催してる訳じゃないですからね、ギライス祭りと一緒ですよ」
「大丈夫かね?ギライス祭りの時みたいにならなきゃいいけど」
あの時はうちの生徒が胴元と揉めて大変だったからな。
「大丈夫ですよ、あの時の事は噂になってますよ。ちょっとした賭博と思ってねじ込んだら、相手は思わぬ大物だったってね」
「ならいいんだけどな」
拠点の確認作業をしながら俺達は話す。自陣営を飛んでみて岩山や丘など結構高低差があり、思っていたほど砂漠はフラットじゃない事に気付く。とは言え、無防備に飛んでいたらいい的にはなってしまうだろうな。
「開始の合図がないと敵陣営には入れないが、自陣営内は移動できる訳だよな?」
後は本拠点でのリスポーンエリア起動を残すのみとなり俺は質問した。
「そうですよ。ですから普通、攻撃部隊は敵陣営に近い場所に陣取りますね」
クランケルが答える。
「だよな、じゃあ俺達もそれに習うか」
「そうしますか。では私は左エリアで行きますよ」
クランケルはそう言って去って行く。こうと決めたら早い奴だよ。
「俺は右エリアで待つけど、ふたりはどうする?」
俺はケイトとアルスちゃんに尋ねる。
「そうですね。リスポーンエリアの起動は私がやりましょう。それからは、やはり私達もエリアを左右に分けて守りましょうか」
「ではわたしは左エリアを守りましょう」
ケイトの言葉にアルスちゃんがにこやかに答える。
「では、ここでいったん解散ですね。ご武運を」
ケイトはそう言って本拠点に飛んで行く。
「ではトモトモも楽しんでくださいね」
「アルスちゃんもね」
俺は手を振り敵エリアに近い砂丘の影に腹ばいになり開始の合図を待つ。
いいねえ、この感じ、ワクワクしちまうね。やっぱ年をとっても男の子なんだよな。




