経験からくる説得力って素敵やん
「てなわけでさ、お前の力が借りたいんだよ」
「大勢の観客の前でですか?お断りします」
翌日、昨日の生徒会会議にいなかったクランケルに事情を話すと即答で断りやがった。
「おいおい頼むよ」
「クルース君は知っていますよね?私が目立つ事が嫌いなのを、私の技は見世物ではありませんから」
取り付く島もないクランケル。参ったなあ。
「およしなさいジミー君」
ケイトが俺に声をかける。
「いや、でも男子組が俺一人ってのもちょっときついし」
「嫌がっているものを無理やりやらせるわけにはいかないでしょう。それに、今回のミッションは申し訳ないですがクランケル君には不向きだと思います」
「なぜです?」
ケイトの言葉にクランケルが反応する。
「まず、模擬戦ですが、これはクランケル君が言ったように見世物です。見世物であるからには観客を楽しませなければならないのです。ただ相手を倒せば良いと言う訳ではありません。これは高等な技術と技を受けきるタフネス、そしてサービス精神がなければできません。サービス精神とはすなわち相手を思いやる事、それには相手を察する心が必要です。これは戦士としてもっとも重要な資質にも関わってきます。瞬時に相手を察する事、敵のされたくない事を察し、味方がして欲しい事を察する、これが出来ないと一流の戦士にはなれません。クランケル君が求めているのはそうした戦場の強さではなく武術家としての強さでしょう?ですから不向きと言ったのです」
「私の力は戦場では通用しないと?」
「そうは言ってません。何事も特化すれば不向きな事が出ます。ペティナイフは野菜の皮むきなど細かい作業に向いてますが骨付き肉を叩き切るような作業には向いてない、そう言う事です」
「私はペティナイフであると?」
クランケルが少しばかり怖い目をする。ペティナイフってな小さくてかわいい包丁だからなあ、自分が小さくてかわいいと揶揄されたように感じたのか。
「うふふ、単なる例え話ですよ。それにペティナイフも無ければ不便ですよ」
ケイトは優雅に笑う。こいつのイイ女ムーブはなんか腹立つなあ。
「それに、もうひとつ言いますと生徒会の方々、特に副会長さんと学芸部長さんはかなりの腕と見ました」
「え?会長さんじゃなくて?会長さんは学園対抗戦だかで個人優勝してるんでしょ?」
俺はケイトに聞く。
「きれいな試合は彼女が強いでしょうが、副会長と学芸部長は戦場の強さを持っていますね。あのふたり相手にショーを演じる事が出来る力があるなら、その後に迫る危険にも十分対処はできるでしょう。逆に言えば、模擬戦で観客を魅了する戦いが演じられないようでは、護衛の任務など出来ないと言う事です」
「・・・ふふ、安い挑発ですが敢えてお聞きします。護衛の任務とショーでの力とどう関係するのです?」
クランケルがケイトに言う。おやや?取り付く島が見えてきたぞ?
「察する力が必要という事です、特に護衛対象の事を察し慮る力が重要なんですよ。一番の敵は護衛対象と言っても良いくらいにね。護衛の対象は物ではなく人格を持った人です、それも今回の場合、家柄も良い貴族の子供で尚且つ生徒会のメンバーと言うエリートです。そう簡単にこちらの指示には従わないでしょう、なにしろ護衛をつける事すら渋るくらいですからね。つまるところ、護衛する方が気を張り対象の行動を予見し、それでも尚、予見し得ぬ行動を起こすものと考え護衛するくらいでないと対象を守り切る事など不可能という事です」
「それには深い洞察力と強い忍耐力が必要と言う訳ですか」
「そう言う事です」
ケイトはそう短く言ってクランケルを見た。まるで、どうですか?それでも受けますか?と挑発しているような視線だった。
「わかりましたよ、受けましょう。確かにケイトさんのおっしゃる通り、今の私には足りていない資質と思われます。しかしケイトさん、随分と実感がこもってましたね」
「国で王族護衛の任に着く事がありましたからね。こちらの事など考えず勝手な行動ばかりして、本当に今思い出しても腹が立ちます、あのバカ王子には」
おっと、キャリアンの事だったかー。あいつはマジで天真爛漫な奴だったからなー、憎めない奴なんだけどねえ。
「まあ、とにかく感謝するよクランケル」
「いえ、私こそ少し意地になりました」
クランケルが微笑を浮かべて言う。
「失礼するぞ」
意志の強そうな毅然とした声がして教室に入って来たのはマディー学芸部長だった。
「クルース君、場所と日取りが決まったから伝えに来たぞ」
「こりゃまた早いですねえ」
嬉しそうに言うマディー学芸部長に俺は答えた。
「場所はファルブリングアリーナ、時刻は二日後の正午だ。試合の形式は団体戦、こちらの人数はそちらに合わせる」
マディー学芸部長が言う。
「クルース君、こちらのメンバーは、後はアルスさんですね?」
ケイトが俺に聞く。
「ああ、そうだよ」
「でしたらマディー学芸部長さん、そちらは全員参加で結構です」
「ほう?そちらは君達とアルス君の四人か。アルス君がかなり使えるのはギライス祭で見せて貰ったが、本当に四人で良いのか?こちらは見学のストーム君を抜いても七人いるぞ」
「それくらいでないと護衛の任は果たせないでしょう」
「面白いなあケイト君は。これは楽しいチャリティーイベントになりそうだな。わかった、会長に伝えておくよ」
マディー学芸部長は嬉しそうに言って教室の出口に向かう。
「ああ、それからクランケル君。君も生徒会の一員なんだからたまには生徒会に参加してくれよ」
教室を出る直前で振り返って言うマディー学芸部長。
「はい、わかりました」
穏やかに返事をするクランケル。
「つーかクランケル、お前なんで昨日生徒会に出なかったんだよ?」
「クルース君も居ないし忘れていました」
「は?おいおい。ケイトも声かけてやってくれよ」
「基本的に私たちはエグゼクティブアドバイザーですから、特別な事がない限り定例会の出席は自由ですから」
「じゃあ、なんでケイトは出席してたんだよ」
「私は女子会がありますから」
「女子会?」
「ええ、生徒会女子による女子力向上会です」
なんじゃそりゃ?頭が痛くなってくるな。俺はクランケルを見る。
「女性は強い、ですよね?」
「ああ、そうだな」
クランケルの言葉に俺は頭をさすりながら答えるのだった。




