サバサバ系女子って素敵やん
「おーい、連れて来たよー」
ストームはのんきな声を出してひとりの女生徒を連れてくる。白に近いブロンド、勝気そうな目をしたその女生徒がブランシェットの言っていたミルバなんだろう。
「やあミルバ、クッキーご馳走様。お見舞いにお供させて頂こうと思ってね」
フィールドが軽く手を上げて言った。お?なによ?普通な感じじゃん。
「失敗作を捨てちゃうのももったいないからさ。チャールズなら喜んで食べると思って、好き嫌いないでしょ?」
ミルバはやや挑発的とも取れるような口調で言う。むむ?これはツンツンキャラか?それとも雑な扱いが親しみの証拠って感じなのか?
「もうっ!またそんな事言って!一生懸命作ってた癖にー」
ブランシェットがミルバに言う。
「それは言わないの!それよりそっちの彼は?噂の彼?」
「うん、クルース君。一緒にお見舞いに行きたいって」
「へー?ふーん、君が噂のクル君か。君、なんでニカと正式に付き合わないの?友達の私が言うのもあれだけど、ニカってかわいいでしょ?モテるのよー。うかうかしてると、他の男にとられちゃうよ?」
ツカツカと俺に近寄りまじまじと俺の顔を見て言うミルバ。むう、初対面でこの詰め方か。
「やめてよミルバちゃん!言ったでしょ!私が一方的に好きなだけなんだから!」
ブランシェットがミルバに詰め寄る。
「よーしよしよし、ニカはかわいいねー。でもねいつまでもかわいいだけじゃダメよ、決める時はビシッと決めなきゃ!ほら!クルース君!今日、ここでハッキリしちゃいなさいよ!」
「おいミルバ君、あまり人の恋路に首を突っ込む者じゃないぞ」
「あんたは女心がまったくわかってないんだから黙ってて」
「スマンなクルース君、気にせんで良いぞ」
「ああ、気を使わせて悪いな。えーと、ミルバさんね、もう、これは何度もブランシェットさんには言っている事なんだが、今の自分は色々あって異性と男女の仲になる事を止めてるんだ。ブランシェットさんは人の気持ちがわかる良い子だと思ってる、けれど、やはり、今は誰に対してもそういう関係にはなれない。ブランシェットさん、改めてすまない」
俺はそう言って頭を下げる。
「ううん、いいの。こっちが一方的に好きになってるだけだもん。それにクル君はいつも正直に言ってくれるから」
「ニカ、あんた本当の本当にそれでいいの?」
ミルバがブランシェットに言う。
「うん。何度も言ってるでしょ?これは私が好きでやってる事なんだって」
即答するブランシェット。
「でも苦しいでしょ?」
「うん。でもそれ以上に嬉しいから」
「・・・、負けたわ。ごめんなさいねクルース君。私、こんな性格だから黙ってられなくってさ」
「いや、ブランシェットさんの事を思ってるからこそだってわかるから、気にしないで」
「でもねクルース君。その気もないのにニカの好意を利用したりしたら、許さないからね」
「わかってる。そんな事は、絶対にしない」
強い目で言うミルバに俺は真っ直ぐ答える。そんな事はしないよ、そうした事がどれだけ人の心を切り裂くか、俺は良く知っているからな。そして、人は欲望に弱いという事も。
「ならいいわ。今日は帰っていいわよ」
軽く言うミルバ。おいおい。
「ちょっとちょっとミルバちゃん!シーモアさんのお見舞いに行くんでしょ!」
「ああ、そうだったそうだった。でもなんでこんな大所帯で行くの?みんなシーモアと仲良かったっけ?」
ミルバが俺とフィールドを見て言う。
「いや、面識もないのだがクルース君が是非にと言ってね」
「どういう事なの?」
フィールドの言葉を聞いてミルバは怪訝そうな顔をする。俺は最近生徒会に招かれ学園内の問題事に対処する係を仰せつかった事、その一環として最近急増している休学している生徒たちの事を詳しく知りたい旨をミルバに話して聞かせた。
「生徒会にねえ」
「生活部長のヴォーンさんがクルース君の事、気に入ったって言ってたよ」
ストームがミルバに言う。
「へえ、あの神経質な男がねえ」
「ヴォーンさんは神経質ってわけじゃないよ、細かい所まで気が回るだけで」
「細かすぎるんだよあいつは」
「それは生活部長だもん校内の美化に関しては仕方ないでしょ?ミルバさんが雑なだけだよ」
ストームが言う。
「誰が雑だ、誰が」
「雑だよー、厩舎の掃除だってミルバさんに任せられないもんね」
「なんだと!」
ミルバがストームに食って掛かる。
「まあまあ、止めたまえ。馬が怯える。それより日が暮れる前に、お見舞いに行こうじゃないか。シーモア君は領に居るのかね?」
「いや彼女は街のタウンハウスでひとり暮らししている」
タウンハウスってのは集合住宅の事だな。同じ形の戸建てが並んでて、前世界でもたまに見かけたな。
「ならば早く行こう。あまり遅くなっても彼女に悪かろう」
「それもそうだな。チャールズにしては気が利くじゃないか」
「私はいつでも気の利く男だよ」
「どうだか」
ミルバがそっぽをむいて言う。このふたり、お互いに好意を持ちながらも一線は越えずに微妙な距離感で居る感じだな。ミルバよ、人の心配してる場合か?
そんなこんなでわちゃわちゃしながらも俺達は街へ向かうのだった。




