同じ集団同じ目的って素敵やん
「ありがとうクルース君。みなさん、こうした問題はもう他人事ではない、既に大陸でも起きているのだと考えるのは性急な事だと思いますか?この資料に書かれている事のうち、幾らかは皆さん自身も相談を受ける、問題解決に協力するなどしているかもしれません。しかしその全てを把握していた人はいますか?」
アルロット生徒会長が室内を見渡すが手を上げる者はいない。
「では、クルース君の話を聞いて尚、これらの問題は個別の事象に過ぎず関連付けて考える意味はないと思われる人は?」
今一度アルロット生徒会長が質問するが結果は同じだった。
「結構です。私達生徒会は現在、非常に大きな問題にさらされています。今まで以上に連絡を密にし些細な事でも常と異なる事があれば情報共有して頂きたいと思います」
「しかし会長、なぜうちが?」
短く質問するのはマックイーン書記だ。
「ファルブリングだけではなく、他の学園でも似たような事は起きているのではないかと思います。マディー学芸部長」
「はい。我々は他校の現状を知り注意喚起と情報共有の必要があると考えます。そこで次の学芸会議の議題として取り上げようと思っています」
生徒会長の言葉を受けて学芸部長が言う。さすがはバッグゼッド帝国でも有数のエリート校の生徒さん、政治的な動きが早いわ。なんつってもみんな貴族のお子さんだもんなあ、近い将来、領民などの統治でいろいろな問題の解決や利害関係の調整をするような人達なんだもんなあ。俺は改めてこの子達の立場や環境を考えてその重さ大きさに感服してしまうのだった。
「そしてその会議にはエグゼクティブアドバイザーの皆さんもご出席願いたいと考えています」
ほうほう、さすがは政治的な事に慣れてらっしゃるよ、エグゼクティブアドバイザーね。ってエグゼクティブアドバイザー?あん?俺達のことか?
「なるほど、そう言う事。さすがは会長と言った所ね」
コバーン体育部長が何かに納得したような事を言う。何に納得してるんだ?
「何がさすがなんだ?」
会計のオライリーさんが尋ねる。そうそう、気になるよな。
「シャーロットは数字ばかり見てるから気が付かないのよ。いつも言ってるでしょ人も見なさいって」
「私だって人は見ているさ」
「だったら気付くはずよ。まずは彼」
コバーン体育部長は艶めかしい笑みを浮かべてクランケルを指差す。
「彼は学園では目立たないようにしていますがトーカ領の出でアンダーグラウンドに顔が利く、と言えばピンとくる方もおられるのでは?」
会計のオライリーさんがほう、とつぶやきクランケルはやや困った様に肩をすくめる。
「そしてケイト氏。彼女はあのモスマン族長国の近衛兵団長のご息女。対外政策、外交交渉などタフな場面を実際に肌で味わって来たような方でしょう」
ケイトは、まあそうですけど、ってな調子でしゃなりとしてる。
「そしてクルース君。彼は新聞クラブのフィールド君や図書クラブのパニッツ君などと懇意にし英雄譚について独自に調査をしていた。実に鼻が利く男です。そしてこの間の校外授業ではクランケル君らとなにやら忙しく動いていたご様子」
いたずらっぽい表情で俺を見るコバーン体育部長。
「カティスで大きな騒ぎがあったと聞くがそれに関わっていた、と?」
ヴォーン生活部長が渋い顔をして聞く。
「さてどうでしょうねえ。そしてその直後にケイト氏が転入されたのは何か関係があるのかしら?と、話が逸れてしまったけど、これだけのメンツを生徒会に組み入れた会長の手腕には舌を巻くとは思わない?」
「なるほどな、今度ばかりはコバーン体育部長の言う通りだ。そうかそうか」
嬉しそうに言いながらクランケルを見る会計のオライリーさん。クランケルは参りましたねって顔で俺を見るが、ブランシェットに懐かれてる俺をいつも興味深そうに見てたからな、今度はお前さんの番だぞ。俺は笑ってクランケルを見返した。
「皆さん、先ほどのクルース君の話を聞いてわかるようにこうした問題に対処しようとすると危険が伴います。念のためこれからは皆さん単独行動はなるべく控えて下さい。特に街に出る時は複数での行動を願います」
「そこまでする必要があるのかい?」
副会長さんの言葉にオライリーさんが不敵な笑みを浮かべて言う。会計のオライリーさんはどうも腕に自信があるのか、厄介事が好きなのか、こういう言動が目立つね。こういう人が一番危ないんだよ。
「念には念です。オライリー君は誰かを守るという意味でもお願いしますよ」
「ああ、そう言う事ならわかった」
満足そうな顔で言うオライリーさんに頷く副会長。ブリーニェル副会長、なかなかのやり手と見た。
そうして学園の抱える問題に対する情報共有を済ませた後、生徒会は通常通り、各部長の活動報告、会計発表などを済ませお開きとなるのだが。
「皆さん、今日は新たなメンバーも加わりましたので懇親会を行いたいと思います。場所はいつも通りランドラナスで19時からですのでよろしくお願いします」
アルロット生徒会長は最後ににこやかにそう言う。
「懇親会だって。ランドラナスって店、知ってるか?」
俺はクランケルに尋ねる。
「いえ、知りません」
「心配するな私が案内してやる」
オライリーさんがクランケルに近付いて来て笑顔で言う。なんでそんな楽しそうなの?まさか、その前に手合わせ願うとか言わないよね?もう、その手の事は勘弁して貰いたいんだけど、クランケルは好きだからなあ心配だよ。
「ありがとうございます」
俺は感謝の言葉を述べる。
「時間にはまだ早いからな、ちょっとその前に付き合って貰いたい所があるんだが構わないよな?」
ほらきなすった。俺はうんざりしながら満面の笑みのオライリーさんを見るのだった。




