愉快な爺さんって素敵やん
「あんまり、無茶せんといてなあ、ホンマに。こんな街でもそれなりに均衡保ってまんのや。ま、新たな王になろうってんなら構わないでっけどな。」
こちらの自己紹介の後にサマカウイさんは言う。
「なんか、すいません。気を付けます。」
「いやいや、クルースはん、そんな畏まられるとかなわんわ。もっと、軽ーくいきまひょ、軽ーく。」
「軽ーくっすか?わかり申した。サマカウイさん、よけりゃどこかで軽く何かつまみながら今後の作戦を練るのはどうっすか?勿論、お代は持ちますから。」
「ありゃま!クルースはん、話の分かるお方やわー。行きまひょ行きまひょ!ちょっといい店ありまんのや。」
サマカウイさんはヒョコヒョコと歩いて案内してくれる。
「わてのことは、気軽にサマと呼んでつかあさい。みんなサマ爺なんて呼びよりますけえ。」
「じゃあ、サマ爺、ちょいと尋ねても構わんかい?。」
キーケちゃんがサマ爺に何やら聞きたいことがあるようだ。
「へえ、何でも聞いておくんなまし。」
「サマ爺よ、お前、センフウガの出だろ。」
「へ?なんのことでっしゃろ?。」
「きひひひ、隠したければ別に構わん。」
「かないまへんなあ。そうだす。」
「センフウガって?。」
俺は聞いた。
「きひひ、こやつは隠密衆よ。」
「情報収集活動の専門集団ですね。センフウガは隠密衆の里ですよ。」
キーケちゃんとアルスちゃんが言う。
「わても焼きが回りましたやろか。しかし、なんでわかりましたんや?。」
「きひひ、そりゃシエンの間合いに入り裏拳を避けた動きと、あとは喋り方よ。出自を隠すための訛りが露骨すぎるぞ。」
「あちゃー、そないな事言われたんは初めてやがな。気ぃーつけなあきまへんなあ。」
「ああ、気を付けい。」
そうした会話をしながらも、サマ爺は特に堪えた風もなくヒョコヒョコと歩いて食堂らしい建物に我々を案内してくれた。
建物というよりバラック小屋といった方が近いな、外に戸なんてありゃしない、マジで戦後の闇市みたいだよ。出される食い物に吸い殻とか入ってないよね?
「カウンターだけやさかい、みんな適当に座ってんか。」
サマ爺に言われて各人イスに座った。
「らっしゃーい。何だサマ爺か。真昼間から酒飲めるたあ、いいご身分だなあ。」
カウンターの向こうに座っていたのは、イノシシ顔をしたゴツイおっさんだった。
「ちゃうちゃう、お仕事中やがな。商談、商談。そんなわけでオヤジ人数分頼んまっさ!」
「何があるんだ?。」
シエンちゃんがイノシシおっさんに尋ねる。
「家は酒以外はアント汁と串焼き、飯、それだけだ。」
「そうか、わかった。じゃあ我は串焼き10本追加だ。頼んだぞ!。」
「シエンはん、ここの串焼きはえろう量がありまっせ。頼んだのはアント汁に串焼き2本やさかいにな。大丈夫だっか?。」
「大丈夫、大丈夫!デカいと言ってもこの店の中に入っておるのだろ?なら大丈夫だ!。」
「えらい事言われまんなー。ホンマにおっとろしい姐さんやで。じゃ、オヤジ頼んます。」
「あいよ。」
店のオヤジは奥のかまどにかかってる大きな鍋からどんぶりサイズの器に汁物をよそい、こちらに持ってきた。
「あいよ、アント汁お待ち。」
「これこれ、マドアントの味がよく出て絶品やで。」
サマ爺がホクホク顔で言う。
俺も自分のアント汁をまずは一口。
「おっ!コクがあって美味いぞ。」
蟹汁みたいなコクがあって、マジで美味い。アントって蟻なんだろうけど、いい味出てるなあ。
ふとカウンターの中を見ると、オヤジが焼き台の上で串焼きを焼いてたのだが。
「うわっ!でかっ!。」
思わず声に出てしまった。焼かれていた肉串は前世界の2リットルペットボトルを縦に割った位のサイズだった。スゲーな、おい!。
「な?量ある言いましたやろ?どや?シエンはん?注文取消しまっか?。」
「阿呆ぬかせ!減らしてどうする!メチャメチャ美味そうな匂いがしてきたじゃないか!こりゃ、更に追加した方がよさそうだぞ!。」
「そんなムチャな!シエンはんはいつもこんななんでっか?何かと無茶苦茶やで。」
「うふふふ、シエンさんは沢山食べられますよー。特にお肉は。」
「あ、でもさっきのチンピラの件、いつもあんなにけんかっ早い訳じゃないよ。ここに来て周りの雰囲気にちょいと流されたと言うのか、まあ、そんな感じで。」
「ここの雰囲気に流されたら普通もっと慎重になりまっせ。壁からこっちへ来てすぐに荒くれてましたやろ?どういう姉さんやねんな。」
「きひひひ、まあ、荒事と肉の好きな奴だからな。」
「荒事と肉が好きって、こっち出身かいな?。」
「はい、肉串上がったよ。」
みんなの前に皿に乗った肉串が提供される。
「残りは食べた頃合いで出すからよ。」
そう店主が言う。熱々を召し上がれってか、プロじゃないっすか。
「いただきまーす!。」
大きなブロック肉がいくつも刺さった肉串は、まるでステーキ串だ。
齧りつくと適度な歯ごたえでブツっと肉が切れていい食感だ。
肉の味もしっかりしている上に脂身の甘さもして、非常にグッドだ!
「うむ!モグモグ!いい肉だ!モグモグ!美味い!。」
「ありがとよ。ほい!次の串!。」
「もう食べたの!。」
思わず声に出てしまった。
「くふふ。美味い肉と退屈しない仕事、最高じゃないか!モグモグ。」
俺は味わって食べよっと。
「さてと、じゃあサマ爺さん仕事の話を聞かせてもらおうかね。」
「ニョホホホ、じゃあ、ご報告いたしますか。」
妙な笑い方をしてサマ爺が言う。
俺たちがキズメと呼んでいる耳長族の男は、昨日の昼にこの街に現れたそうだ。
狼族の女と合流し馬を借りて東へ向かったそうだ。
「ちょっとばかり、面倒なのはどうも奴らが目指す場所が遺跡街らしいんですわ。」
「遺跡街って?。」
俺はサマ爺に聞く。
「ここから東へ馬で1日程の距離にある街なんでっけどな、古代の遺跡をまるまる街にしたしろもんでね。その遺跡は昔々に邪神か何かヤバイ奴を封印した迷宮だったって話なんやけどな、今じゃ半壊して余計ややこしいもんになっとりますわ。そこを仕切ってるのが狼族の女でメルヘンベルって呼ばれてましてな、えらいええ女やっちゅう話でっけどな、怪しげな術を使って迷宮内に数多くのトラップを仕掛けとるもんで、内部を知っとる者の案内抜きで市街にたどり着くのは至難の業やでー。市街にたどり着く前にこっちが死骸になっとるわー、なんて。」
「なんでやねん。」
かわいい声でアルスちゃんが突っ込んだ。
「ありゃ、アルスお嬢は笑いをわかっとりまんな!ええノリしてまっせ!。」
サマ爺がアルスちゃんを褒めとる。
「おおーっ!あのアルスが突っ込むとは!なんという事だ。今まではアルスがボケて我が突っ込むのが役割であったが、さすがのアルスも見るに見かねたか。」
「見るに見かねたってどないやねんな!シエンはん!ホンマ、手厳しいわ。」
「きひひひひ、話を戻すがサマ爺よ、ここでキズメと合流した狼族の女というのは、メルヘンベルの手下なのか?。」
「間違いないっでしゃろな。」
「向こうは案内つきでご入場か。ツテはないのか、サマ爺?。」
「それはキーケはん、申し訳ない。あらへんのや。自力で行くしかあらへんのや。迷宮のトラップは定期的に変化させている上に、その情報は限られた者にしか教えぬと言う徹底ぶりだんねん。用心深いやっちゃで。」
「そうか、まあこのメンツなら大丈夫だろ。お爺も、はしこいしな。それにな、こすからそうだからな、そう簡単にくたばらないだろ。」
「またまた、シエンはんはキッツーおまんなあ。まあ、当たってまっけどなあ。」
「さあ、腹八分目だ、今日はこの辺で勘弁してやろう。ほれ、お爺、馬を借りに行こう!食後の運動だ!。」
「ふひゃー、もう平らげてまいましたんか?なんちゅう胃袋や。シエンはんの胃袋が迷宮都市やで。」
「ごっさんでしたー。美味かったです。」
俺はイノシシオッサンに金を払ってから店を出た。
「ほな、馬借りに行きまひょか。ついて来てんか。」
俺たちはサマ爺について行くのだった。




