新しいお友達って素敵やん
「じゃあ、なんで一緒に帰って来なかったのよ?」
授業が始まると言ってブランシェットが自分のクラスに戻って行った後もアルヌーヴの質問攻めは終らなかった。
「帝都で騒ぎがあったので、クルース君の叔父さんに頼まれたのですよ」
クランケルが涼しい顔で言う。
「叔父さんって、商会やってるってあのおじさん?」
アルヌーヴがクランケルに聞く。
「そうですよ。騒ぎに乗じて良からぬ事を起こす輩も出るかも知れないという事で、まあ用心棒ですね」
「そうそう、クランケルは腕が立つからな」
俺はクランケルの話しに同意する。この辺の事は事前に打ち合わせしておいたんだ、絶対クラスの奴らに聞かれるからな。
「用心棒ねえ。だったらアルスちゃんが行くのおかしくない?」
アルヌーヴが言う。
「何を言ってるんです?アルスさんは私よりも腕が立ちますよ」
クランケルが軽い口調で返す。
「うっそ?それ本当?」
アルヌーヴが俺を見る。
「本当も本当、俺の師匠でもあるからねアルスちゃんは」
「ああ、それはマジだよ。腕に自信がある連中、軒並み挑んで軽くひねられてるもんね。俺はクルっさんから言われてたからさ、知り合いには伝えてたけどね、アルスちゃんはかなりの使い手だからケンカ売るような真似はくれぐれもしなさんなってね」
メイエスが横から口を挟む。
「そ、そう言えば、ギライス祭りでもクルース君を追い詰めてた」
ルブランもそれを裏付けるように言う。って、いつの間にか俺とクランケルの周りに人が集まっとるんだが。
「おい!席に着け!授業が始まるぞ!」
切れの良い声がしてカルデイナ先生が教室に入って来た。
俺の周りに居た連中もそそくさと自分の席に戻って行く。
やれやれと、これで静かな日常に戻れるな。
「さて、今日は新しく留学生がクラスの仲間に加わる事になった。入りたまえ」
カルデイナ先生が言うと教室にスタスタと入って来たのは案の定ケイトだった。しかも、学園の制服を着てやがる。昨日の今日で良くサイズが合うのあつらえたな。キャリアンよりは小柄とはいとえ、背丈は二メートル弱はあるぞ。まあ、この世界、基本的にみんな背も高いし体格が良いからなあ。建物の作りなんかも前世界より大きいしな。
それは良いとして、なんでうちのクラスなんだよ。
俺はクランケルの顔を見る。クランケルは軽く微笑んで肩をすくめる、参りましたねってなもんか。
クラスの連中は少しざわついている。魔族が珍しくてざわついてる生徒多数、一部モスマン族の噂を知っていてビビっている生徒もいるようだな。
「モスマン族長国から来たケイト君だ。親御さんは族長国近衛兵団長だそうだ。機会があったら武術や外の国の事を教わると良いだろう。ケイト君自己紹介を」
カルデイナ先生が言う。
「ご紹介に預かりましたケイトです。皆さんの中にはモスマン族について色々と怖い噂を耳にされている方もおられるかもしれません。しかし、現在のモスマン族は諸外国との国交も進み非常に近代化されており、噂されるようなものではございません。ですから私はこの国で多くの見聞を広めるとともに、そうした偏見も無くすことが出来ればと考えております。どうか、皆さんよろしくお願い致します」
ケイトはそう言ってスッとキレイなお辞儀をした。
「パチパチパチパチ」
俺は拍手をする。周囲の生徒達もそれに続き、仲良くしましょう、モスマン族について教えてくれよ、と声が飛ぶ。
「よし、それじゃあケイト君の席は、と。クランケルの隣りが空いてるからそこに座ってくれたまえ」
カルデイナ先生が空いている席を指差す。
「わかりました」
ケイトはそう言うと優雅に席と席の間を歩く。キラキラしたものがケイトの周囲を薄っすらと覆い、クラスの女子達が思わず吐息を漏らす。
「すっごい綺麗・・・」
隣りのアルヌーヴがうっとりしたように言う。
「ありがとう」
横を通ったケイトがアルヌーヴに微笑みかける。
完璧なイイ女ムーブだ。見た目はモスマンなのに。カラフルで羽の生えたコケシなのに。なんで?なぜみんなポーっとなっちゃってるの?
教えて?鱗粉の薬理的効果?




