ひとまずの決着と日常復帰って素敵やん
「まあまあクルース君、そんな目をしないで。学園の生徒達が魔族の方と触れ合う良い機会ですし。クルース君も言っていたではないですか、これからは世界で活躍できる人材が必要になると。それに、ケイトさんが居れば何かと助けになると思いませんか?彼女の戦闘力はかなりのものと思われますし、男性であるクルース君では動きづらい場所できっと頼りになる事でしょう。それに、見て下さい。気品に溢れているとは思いませんか?ファルブリングの生徒達にもきっと良い刺激になると思いますよ」
副長さんが俺に言う。これは端からそのつもりだったなさては。確かに、本当に大事なのは今のいざこざなんかよりも、国の礎である若者たちの方だ。
俺の好きな漫画で主人公の恩師も言ってたっけ。向上心、学ぼうと言う気持ちを挫くのが敵の思惑だ、今こそ学ぶ時だ、と。そう、空襲直後に言ってのけたんだよな。
「まあ、確かにあれですね、しょうもない大人たちのゴタゴタなんかで若い子達の未来を停滞させるのは業腹ですね。ピンチの後にチャンスありと言いますし、敵が混乱を誘うならそれを逆手にとってこっちは世界に目を向けお互いに理解を深めてやるとしますか」
それは俺達共通の敵が望まぬものであり、奴らにとって困る事なのだ。前世界で俺の家族がハマっていたカルト団体は、この世界に価値はない、この世界は善と悪の二種類しか存在しない、教団以外は悪である、と繰り返し教えた。そして、教団の提供する情報以外に触れないように、教団の人間以外とは深く関わらないようにとも繰り返し繰り返し教えた。教団上層部にとって信者たちが見識を高める事は望ましくない事であったのだ。
彼らは表向きは平和を標榜するが、実際には組織員にさせるのはその逆であり、団体にとって都合の悪いものの排除、忌避である。俺の家族もそうだった、団体を離れた俺に対して連絡を取る事もなかった。家族が俺を悪魔の手先と嫌悪し、俺も家族を嫌悪していると言うのならまだ折り合いも着くと言うものだったんだが、お互いに憎んではおらず、家族として思う所もあるにも関わらず連絡も取らないと言うのが質が悪かった。
団体を抜けた者が家族と接触すると、その団体内で家族が不利益を被るという事を俺は良く知っていた。村八分にあったり、それまで組織内で任されていた仕事を外されたりするのを何度も見た。その団体に属する者にとって、それは大きな苦痛である。
そうやって人間として当然抱く情愛みたいなものすら壊すのだ。
人は世界を知る事で、自分の常識を再度見直し異なる視点で物事を見る事が出来るようになる。それは、世界を知るだけではなく自分を知る事にもつながるのだ。自分を知り世界を知る事が出来れば、自分と異なる他者への対応も変わって来る。
彼らのような者達は、そうなるとコントロールが出来なくなるので困るのだ。自分達の良いように物事を動かすためには、多くの人々に眠っていてもらったほうが都合が良い。自分達の得になるように彼らが不正を働いても、人々が他の事に目を向け気づかないようにしたいのだ。
「そうです、まさにそう言う事ですよ。相手のたくらみを逆に利用してやろうじゃありませんか」
副長さんが言う。
「なるほど、あの人が言っていた事が少し理解できましたよ」
クランケルが俺を見て言う。珍しく語気が強い。
「なんだ?おとっつぁんが何を言ったんだ?」
「武は全てに通じる、とあの人は常々言ってました。私は生きる事とは戦いだろうと、そのくらいの意味に捉えていました。ですが、浅かった。戦った相手も仲間にし、敵が打った手をも自分の力にする、まさに格闘の技術です。対峙する相手の死角に身を入れるため相手と調和する。相手の力をも自分の力とするために、相手の動きを知り、理を知る。そう言う事なんですね、腑に落ちましたよ。なるほど、そうか理合い、和合、円、なにかが、なにかがつかめそうですよ」
クランケルがいつにない熱で言う。若干震えてもいるようだ。怖いよ、もう、大丈夫?実家、死の商人とかじゃないよね?くれぐれも猫の飛び出しには気を付けて貰いたい。
「副長さん、ディアナなんだけどね。本人が望むようなら学ぶ機会を与えてやって欲しいんだ。あいつ、色々と大人の都合に振り回されっぱなしだったからさ、できればこれからは、自分の力で選択できるようにさ」
俺は副長さんに小さい声で言う。
「ええ、お任せください。ディアナさんは聡明な子です、その素質を磨かないのは大人の怠慢ですからね」
副長さんは笑って言う。良かったよ、ディアナにゃあなんつーか、らしく生きて欲しいってのかね、ずっと、
あの調子でやって欲しいんだよね。社会にすりつぶされたり歪まされたりしないでさ。
俺は少しホッとするのだった。
そうして宰相との話し合いとカティスでの事件は一応の決着をし、俺たちは学園へと戻る事になった。
学園に戻れば戻ったで、案の定騒がしい事になった。
「クルース君、帝都のクーデターを治めたって本当?私は嘘だと思ってんだけどみんなが言うからさ、どうなのよ?」
教室に入るなり早速うるさ型のアルヌーヴがやって来る。
「んなわけあるか!あれはクーデターなんて物騒なもんじゃなかったらしいぞ。ちょっとばかり強引な直訴だったっぽいぞ」
「そうなのー?でもクルース君とアルスちゃんとふたりで消えて怪しいーなー。ニーカも何か言ってやんなよ!」
ニーカ?
「アルスちゃんとトモ君は親戚でしょ?それにクランケル君もいたでしょ?」
ブランシェットが俺の席の後ろのクランケルを見て言う。クランケルの奴ってば普段は目立たないようにしてるもんだから全然気づかなかったけど、俺の後ろの席だったんよね
「はい」
「ほらね。トモ君は大丈夫だもんね」
「なにが大丈夫なんだよ、なにが」
嬉しそうに言うブランシェット。敵わないなあもう。ダークバエルの船より騒がしいぞ、こりゃ。




