ただなめられてばかりじゃないって素敵やん
大口を開けた気味の悪い物体。そいつは凶悪な口をパクパクと開けたり閉じたりしながらこちらににじり寄って来る。
「なんだなんだ?急に飛びついてきたりすんのか?その手は食わないっつーの!!」
俺はその妙な物体の口に向かって鉄鋼弾を連続してぶち込む。
「ブフオッフ!」
物体は妙な声を上げる。まるで盛大なゲップみたいだ。そいつはなんら堪えた風でもなくモグモグと咀嚼するかのように口を動かす。
「マジか、鉄鋼弾を食ったのかよ」
俺はチョイとばかり焦る。
「そんじゃあ、こいつはどうだ!」
俺は火球と氷の槍を口の中にぶち込む。
「あばっしゃぁぁぁぁぁーー」
そいつは大きな口からまるで煙草を吹かすかのように煙を吐く。
「クソったれが!そんじゃあこいつはどうだ!」
俺はインチキメテオを連続してそいつにぶつける。そいつはブニョブニョになり平ったくなった。
「やったか?」
「おぶしゅおぶっしゅ!おぶっしゅ!おぶっしゅ!」
「うわっ!キモっ!」
そいつは妙な鼻息みたいな音を出して膨らみ元の姿に戻った。
「おっぶしゅんっ!!!」
そいつはくしゃみみたいな音を立てると、身体が一際膨らみ体毛が針の様に一斉にこちらに飛んできた。
俺はフォーカス剣の二刀流で飛んできた体毛針を切り裂き撃ち落とす。そして、その勢いで突っ込みそいつの身体をフォーカス剣でやたら滅多切り刻み即座に後方へ飛ぶ。
「あびぐっしゅんっ!!」
そいつは水っぽい音を立てて破裂する。周囲にそいつの体液が飛び散るので俺は咄嗟に木箱の後ろに隠れる。
そいつの体液を浴びた木箱は発火する。見る見る間に他の木箱に燃え広がるので俺は慌てて水魔法で放水し消火する。
「こんなもんを船に積み込むなんてここの連中は頭悪いのか?」
「随分な言われようだな」
俺の独り言に答える奴がいるので俺は驚いて飛び退る。
「私の気配に気付いて言ったのではないのか?それしきの使い手に私のケ・シェシェが壊されたのか。いや、今、光魔法を使ったな?だからだな、ケ・シェシェは闇の裂け目、光には弱いか。再考が必要だな」
延焼を免れた木箱の上にアゴの角ばったがっちり体形の男が立っており、右手に持った乗馬用ムチを左手の平にペチペチとしながらつぶやいた。男は今までの連中のようなロープ姿ではなく、軍服のような出で立ちをしている。
「オジサン、ここの責任者?だったらさっさと降参して投降してくんない?無駄な犠牲は出したくないでしょ」
「再考が必要だな」
男はそう言って鞭をこちらに向け軽い様子で振った。凄まじい殺気がまるで熱風のように顔に吹き付けられる。俺は少し目を細め、呼吸を丹田に回し気を練り耐える。少し驚いたがおとっつぁんの訓練でこれくらいの殺気は軽く流せる。
「再考の必要はないと思うけどね」
「ふーん、ほう?ケ・シェシェを破壊したのは光魔法の力だけではないという事か?新たなサンプルにする価値くらいはあるか」
男は俺を見て言う。嫌な目だ、品物を見る目、人を見る目ではない。
「オジサン、まさか今の奴、元々人だったのかい?」
「今の奴だけじゃない。ここに来るまでにあったろう?それらも人をサンプルにして作り上げたものだ。中でもケ・シェシェはカース魔法技術の粋を注いで作った疑似邪神だったのだ。これからの成長が楽しみだったのだが、まあ、代わりも見つかったし良しとしようか。光魔法と気の使い手にカース魔法技術を用いるとどうなるのか?うむ、これは非常に興味深い。上手くいけば成長を待たずして高レベルな疑似邪神が出来上がるかもしれない」
軍人風のオッサンはひとりで何やら納得している様子。
「人をあそこまで変化させるなんて、野放しに出来るわけねーだろ!」
俺は軍人風オッサンに鉄鋼弾をぶちこむ。オッサンは手に持った鞭で鉄鋼弾を払う。
「むう?」
鉄鋼弾は鞭を砕きオッサンに届いたはずだがオッサンは無傷で首をひねっている。
「面白い技を使う。ただの土魔法にしては練られ過ぎている。できれば無傷で捕まえたいがどうだろうなあ?」
オッサンはそう言って木箱の上から軽くバックステップして木箱の影に消える。
「おいおい!逃がすかよ!」
俺はゲイルジャンプで木箱を飛び越える。
オッサンは悠々と隣の部屋へ消えて行く。
「ちぇっ、どうせなんか罠でもあるんだろ?」
俺はまだ焦げ臭い部屋を後に、隣の部屋の扉を開ける。なめられないように余裕ブッコいてたけど、あのオッサンかなりやりそうだな。俺は気を引き締めるのだった。




