ヤバそげな事になってくるって素敵やん
「なんなの?どういうことなの?説明してくれって」
真剣な顔のモンコック氏と笑顔のバッツメ爺さんに俺は頼み込む。
「その銅貨はねクルース君、恐らくレクーリュ硬貨ですよ」
「ほっほ、さすが一発で見抜かれましたな」
モンコック氏が言うとバッツメ爺さんが自分の頭を叩いて笑った。
「なんですレクーリュ硬貨って?」
「精巧な偽造硬貨ですよ。国乱れる所にレクーリュありなんて言われていますよ。最近だとワイズサン王国で大量に発見されましてね大きな問題になりましたよ。ワイズサンは神聖エルミランド帝国の仕業だと発表し賠償を求めていましたが、エルミランド側は言いがかりであるとして相手にしていません。実際、ワイズサンが発表した証拠は証拠と言うにはお粗末な物ばかりで周辺国家ではワイズサンの自作自演じゃないか、実はワイズサンこそがレクーリュ硬貨の製造元なのではないか、などと言われる始末でした」
ふへぇー、マジか?国乱れる所にレクーリュあり?なによ、ロマンがあるじゃないのー。製造元に行って幽閉されたお姫様でも助けてやろーか?面白くなってきやがった。
「実際そうなんですか?」
「いやあ、ワイズサンにそこまでの力があるとは思えませんね」
いや、ちょっと待てよ?ワイズサン王国?どこかで聞いたことがあるような・・・あ!エルスフィアで聞いたんだ!
「そう言えばワイズサン王国ってワスキーメンチ商会の先代副会長が主要都市の執政官をやってるとか。それで、執政官補佐にストーンキッズ商会の関係者を据えているって聞いたことがありますよ」
「ワスキーの後ろ盾はストーンキッズですからね。そう言えばクルース君はストーンキッズと揉めてるのでしたか」
「いや、揉めてるって程でもないけどさ、良くない団体を使って良くないやり方で一般の方々からお金や労働力を回収したりするから、ちょくちょくそうしたモノとは揉めてるけどね」
「ふふ、命知らずな方ですよクルース君は。実際、その辺りに首を突っ込んで姿を消した者の話はよく耳にしますよ。ストーンキッズ、ジョサイエフ、大きな金の動きの影には必ずと言ってよいほどチラつく名前です。このレクーリュ硬貨の製造元もそのどちらかではないかと言われてますね」
「実際、どうなの?」
「それはさすがにわかりませんよ」
「モンコックさんでもわからないか」
「はい」
モンコック氏は微妙な表情で俺と目を合わせると、気を取り直したようにバッツメ爺さんの方を向く。
「それでバッツメさんはこの硬貨をどこで手に入れたのです?」
「普通にその辺でじゃよ」
「なんですって?」
爺さんの答えにモンコック氏が驚く。
「ワシが持っているのもこれ一枚ではない。すでにかなりの量が流通していると見て良いじゃろう」
「・・・・・、それでバッツメさんはなぜ私の所に?」
「一番金になりそうだからじゃよ。お上に言っても良くやったの一言で終わりじゃろ?もしくは相手にされないか。万象会の上の方ならこの情報の価値を良く心得ておられるだろうと思いましてな。如何です?」
「ふっふ、はーっはっはっはっは!これは愉快だ。クルース君が連れてくる人はいつも私の予想の範囲外ですよ。いいでしょう、商談成立です」
モンコック氏はイスを立ち上がりバッツメ爺さんと固く握手を交わした。
「ちょっといいかい?モンコックさんはこの情報をどうする気だい?話によっちゃ俺も黙っている訳にはいかないかも知れないからさ」
「ふふふ、勿論、お上に言いますとも。この間のデオドラダイヤの件と同じようにね」
「へ?そうなの?それじゃあ爺さんが言ってたように良くやったありがとさんで終わるんじゃないの?モンコックさんになんのメリットが?」
「私共は個人ではなく団体ですのでその辺りは色々とありますからね。あっと、クルース君が心配するような事はありませんからご心配なく」
モンコック氏は肩をすくめて小洒落た調子で言う。
「俺が心配するような事?」
「はい、我々もお上を完全に敵に回すような事はしませんよ。閣下とも局の副長氏とも良好な関係を続けたいと思っていますからね。これまでもうちのような組織はお上とは持ちつ持たれつでやってきていますからね、多くの民が混乱せずに、それでいてこうした物を持ち込んできた相手にも何らかのペナルティを与えるやり方をお互い模索して行きましょうと、そう言う事ですよ」
なるほどね、確かにこれはただ公表すれば済む問題じゃない。下手なやり方で話を広めれば市場は混乱しお金の価値が揺らぐ事にもなりかねない。お金なんてのは突き詰めていけばただの金属や紙に過ぎず、それが価値を生むのはひとえにそれの持つ信用からなのだ。前世界の話だが俺が住んでいた国の貨幣、一万円札の原価は約二十円と言うのを聞いたことがある。二十円で作ったものが一万円とは!と驚いたものだったが要はそれが信用と言うものなのだ。元々は金や銀なんかを預けた時に受け取る預け証が紙幣の起源だとかいう話しで、その紙がどれだけの価値を持つのか預け証なら預け先の信用がモノを言うわけで、それと同じく紙幣ならば国の信用がモノを言うって訳だ。ここら辺の話はまあ、結構ややこしくて俺が暮らしていた前世界では紙幣の発行権ってのは国ではなく中央銀行が握っている場合が多く、それってのは国に任せとくと戦力増強やら公共事業やらに使うために紙幣をバンバン刷ってしまうと当然紙幣の価値は下がり、インフレって奴が起きるつまり紙幣の信用が一気に失われる事になりやすい。だもんで、そうならないように中央銀行が管理してやたらと刷らないように常に国と駆け引きをするようになりました、ってのがまあ経緯らしいのだが。
話を戻そう、つまりお金ってのは結局発行元の信用なので、現在皆が手にしているお金が偽物の可能性が高いなんて話が広まれば当然信用は下落する、金の価値が下がると言う訳で国としてはそれは避けたいに決まっているのだ。
まあ、言っちまえば俺なんてただチョイとばかり腕っぷしの強いガキに過ぎない。中身はおっさんだが、そんな国家レベルの経済犯罪なんざ上手くさばけるスキルも何もあるわけがない。
てなわけで、俺はこの件はモンコック氏にお任せしようと思う。
ああ、そうそう、疑問だった爺さんがやって見せた事なんだが、あのコップふたつに水を入れてそれぞれに銅貨を入れた奴ね。
あれはレクーリュ硬貨の見分け方だと言う話し。レクーリュ硬貨はかなり精巧な偽硬貨で外見だけじゃまず見分けがつかない上に重さも同じであると言う。本物を越えるクオリティとまで言われているらしいが、見分け方がない訳じゃない。それが爺さんのやって見せた方法だ。これ不思議な話なのだが本物と偽物は大きさも重さも同じなのに水に入れた時にあふれる水の量に違いがあるのだと言う。
見分ける方法はあるのかよ、と俺は思ったが実際の所、偽硬貨の流通が確定した状態ならまだしも、そうでない通常時にわざわざこんな方法で硬貨の真偽を確かめる者などいるはずもないのだ。
しかも、50ゼット銅貨なんてのは小銭も小銭、偉い数が毎日動いているのだ。こんなもんを発見するなんて毎日小銭を磨いてる爺さんならではだよ。
ま、ここまで話が来れば俺の役目も終わり。そろそろお暇するかと思っていたのだが。
「申し訳ありません、本日は貸し切りですので。あっ!困ります」
給仕さんの声と何かが転がる音。またまた、嫌なかんじがするぞ。




