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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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異国での旅って素敵やん

「まずは、壁内部への出入口となる検問所のある街、ツヤヨセへ行きツラーセン司祭を訪ねて下さい。ツヤヨセまでは恐鳥車で2日の道のりとなります。」


 パンチャコ司祭から説明を受ける。


「きょうちょうしゃってなんですか?。」


「馬の代わりに、走ることの得意な大きな鳥が引っ張る馬車ですよ。種類によっては馬よりも早く持久力もありますし、なにより力が強いので護衛にもなると言う鳥なんですよ。ただし飛べないのですけどね。」


 アルスちゃんが説明をしてくれる。なるほど、前世界のモアみたいのか。


「では、すぐに行きましょう。追いつけぬまでも、余り差が開くと探索が困難になる。」


「わかりました、ではすぐに強鳥車を用意させます。」


 キーケちゃんの言葉を受けてパンチャコ司祭が答えた。


「あんちゃん達、ありがとうな、本当に勉強になったよ、これからは見かけで判断しないようにするぜ。」


「おお、そうか!それは良かった!ムグリは大した男だ!何かあったら、いつでもノダハを訪ねて来い!歓迎するぞ!。」


「本当に機会があったら来てくれな!俺たちも機会があったらまた来るからさ。」


 シエンちゃんに続いて俺もムグリに言った。


「復興頑張ってくださいね、ムグリさんなら、きっと良い復興ができると思いますよ。」


「うむ、ムグリよ。後の事は任せたぞ。」


 アルスちゃんとキーケちゃんも続ける。


「おう!任されたぜ!じゃあな!みんなも仕事頑張ってくれな!あばよっ!。」


 ムグリは教会の前で、颯爽と手を上げて去って行った。

 まったく、かっこいい奴だぜ!。

 俺たちは用意された強鳥車が到着すると、それに乗り込みパンチャコ司祭に別れを告げた。

 強鳥車の鳥は俺が想像していたようなすらっと背の高いモアのようなヤツではなく、まるで冬のスズメみたいにずんぐりむっくり丸々していて可愛らしかった。

 鳥顔の御者さんが、出発しますと声をかけてからキューとひと声出すと強鳥は力強く走り出して我々が乗っている客車もスルスルと進みだした。

 かなりのスピードが出るなこれは。

 時折、何の指示なのか御者さんがケーンとかヒョロロローとか声を上げている。


「強鳥の操縦って声なんだね。専門家じゃないと難しそうだねえ。」


「馬のように手綱での操縦が可能な種類もありますよ。乗り手の趣味みたいな所もありますからね。操縦している感じがする方が良いと言う人は、やはり手綱にしますしね。この御者さんはそうではないようですね。」


 アルスちゃんが教えてくれた。基本的に強鳥は賢いので調教しやすいのだそうだ。


「いやー強鳥ってかわいいね。」


「気を付けないとトモトモ、かじられますよ。下手な魔獣より強いですからね。」


 アルスちゃんが言う。


「そうなんだ、触りたかったなー。」


「到着までに触らせてもらえるかなあ?あれは馬より気難しいぞー。」


「賢いので調教しやすいんでしょ?。」


「ああ、そうだ。だが賢い分、気に入らない相手にはとことん懐かないんだよ。」


 シエンちゃんがそう言う。


「へー、またあれ?ほら、なんだっけ大海樹の訓練所にいたメチャメチャ速く飛ぶ鳥、あれみたいに独特の価値観があるのかいな?。」


「グリンカムビか?美を重視するってやつな。強鳥類はそういうんでもないな、本当に相性ってのかねそんな感じよ。だから、この強鳥と仲良くなれたからと言って他のともそうなれるとは限らぬ。グリンカムビの美感は種族内でほぼ共通しているからな、扱いの名人はそれに沿った恰好をするから面白いぞ。顔を白く塗って紅や緑の線を入れてな、ちゃんと法則があるらしいのだが傍から見ているとデタラメにしか見えぬでな。トモちゃんにも見せたいな、あれは面白いぞ。」


「へー、機会があったら見てみたいねー。」


 窓の外の風景は市街地を抜けて街道へとなり、速度はどんどん増していく。


「うひゃー、やっぱ速いねー。これは、楽しいかも!。」


「お馬さんと違って足が2本ですからテンポが速くて面白いんですよね。」


「レインザーにも輸入したら良いのにね。」


「それが、頻繁に広い場所で運動させてあげないと弱ってしまうものですからね、陸送なら良いんですけど海を船で渡るのは難しいのですよ。」


 アルスちゃんが教えてくれる。


「それは残念だ。ケインたちにも見せてやりたかったのになあ。」


「お子達ならそのうちに国外にも行くことになろうよ。」


「え?どういう事?。」


「トモちゃんは知らないのか?事務所で作っている物がどんどん国外にも売られているんだよ。それで、製造や使用法についての助言や実演が欲しいとあちらこちらから希望が来ているのだって。」


「へー、サラブランドが人気出て来たってのは聞いたけど、他の製品や演技も注目されてきてるのかー。良かったなー。本当に、良かったよ。」


「きっひっひ、なんだトモよ。気づいておらなんだか?今やお子達はレインザーでも有名よ。バトマデルーイで空中ゴマが売られているのを見かけたぞ。」


「うっそ!マジで?スゲーじゃん!。」


「その様子じゃケイトモ事務所の支店計画についても知らぬな?。」


「マジ?支店出すの?。」


「きひひひひ、やはり知らなんだか。」


「あら、トモトモったら事務所で男の子たちと一緒にいる時に聞かなかったのですか?。」


「いやー、聞いてないなあ。」


「うふふふふ、まあ仕方ないですね。男の子たちはトモトモが帰ってくると一緒に遊ぶのに夢中になってしまいますからねえ。」


「面目ない。それで、支店ってのは?。」


「オッドウェイに製造のための工房を作ろうって事で、オフヨイさんとケインさんが主導で動いてますよ。ゴゼファード公の積極的な支援もあるようで、ご領主様からデンバー商会への依頼みたいな形になっているようですね。従業員はケインたちのように身寄りをなくしてしまった子供たちの中から希望者を募る予定だそうですよ。」


「ゴゼファードの奴はどうもトモのやり方が気に入ったようでな。身寄り無きお子達が働くために必要な技術を身に着けることができるような場を、作ろうとしておるよ。トモがやったように受け皿を新たに作る事も考えているようでな、そのうちトモにも声がかかるかも知れぬな。」


「はへー、そういうことなら幾らでも協力しますよ。」


 実際、それは良い事だと俺は思う。そうした子供たちがドンドン社会に参加する事で世の中も活気づくってなもんだよ。立場の弱い人につけ込んで過剰に搾取すれば、消費は減り世の中の活気もどんどん無くなるからな。おまけに治安の悪化にもつながりかねないからな。こうした動きが王国全体に広がると良いね。


「お客さんたち、トライジャッカルの群れが出ました。速度を上げますので注意してください。」


 御者さんが淡々と言う。


「では、しつこい奴を追っ払いますか。」


 アルスちゃんが後ろの窓を開ける。

 俺は進行方向を見ると、街道脇の森から背中が灰色で大きな耳をした三つ目の犬の群れがこちらに向かって走ってきていた。

 一匹一匹がポニーくらいの大きさがある。


「うわ、結構デカいけど、強鳥は大丈夫なのかね?。」


「大丈夫だぞ、蹴散らして抜けるからアルスと一緒にしつこく追ってくる奴を追っ払うぞ!。」


 シエンちゃんはそういって進行方向右側の窓を開けて身を乗り出した。


「数が多そうだからあたしは屋根からやろう。トモは反対の窓からやってくれ。」


 そう言うとキーケちゃんは窓から屋根へ上がって行ってしまった。


「出来れば殺さずに追っ払って下さいね。」


「あいよ、心得た!。」


 俺はアルスちゃんに返事をする。

 窓から前方を見ると強鳥がトライジャッカルの群れに突っ込んで蹴散らしていた。

 強鳥の太い足に蹴られて宙に舞うトライジャッカル。

 凄いなこりゃ、まるでボーリングのピンだよ。

 飛ばされた仲間にビビったのか、他の群れの連中は強鳥車にターゲットを変更し始めた。


「来るぞ!トモちゃん!。」


「あいよっ!。」


 トライジャッカルは走る強鳥車を囲むように追撃してくる。

 俺はシエンちゃんに習った風魔法、圧縮した空気のかたまりをぶつける魔法エアボールで追っ払う。

 この魔法は威力の調整がしやすいので、使い勝手が良くて好きだな、俺は。

 今回は相手が結構デカいので、バレーボール位の大きさで速度はそれこそバレーのスパイクを意識してエアボールをぶつけていく。ぶつけられたトライジャッカルはもんどりうって倒れ散って行く。


「そーっれっ!そーっれっ!。」


 バシバシ当たって気持ち良いなこりゃ。


「よーし、もう大丈夫だろ。降りるぞ。」


 屋根の上からキーケちゃんの声がする。


「あいよー!。」


 俺は返事をして窓を開けたまま車内に戻る。


「お客さん、ご協力ありがとうございます。速度を戻します。」


 御者さんはそう言ってから、ピューイと口笛のような音を出すと強鳥車の速度は元に戻った。


「よっと、お疲れさん。」


 軽く言いながらキーケちゃんが車内に戻ってきた。


「はい、お疲れ様でした。」


 アルスちゃんが答える。


「街道で魔獣に襲われる事ってよくあるの?。」


 俺は誰に言うでもなく声に出した。


「ええ、よくある事ですよ。でも、強鳥移動が普通の帝国ではそこまで心配することではないですからね。勿論、強力な魔獣の出現に関しては気を使っていますよ。先ほどのトライジャッカルの群れにしても強鳥にとっては脅威になりませんが他の強力な魔獣に対しては抑止力になったりはするんですよ。ですから、むやみに数を減らさないようにしているんですよ。」


「だから、殺さずに追っ払ってくれって言ってたのか。」


「まあ、それだけじゃなくて、死骸に他の魔獣が寄ってくる事がありますからそれの防止のためもありますけどね。」


「なるほどねえ。国が違うと色々違うものだねえ。」


「そうですね、レインザーではもっと管理されてますからね。魔族の方々は一般の人たちも戦闘力が高い、という事も勿論関係していますしね。どちらが優れているって事でもないんですよ。」


「そりゃそうだ。郷に入れば郷に従えって言うからな。」


「それは、トモトモの居た場所の言葉ですか?。」


「ああ、そうだよ。その土地に入ったらその土地のやり方に従うのが賢いやり方だ、って意味でさ、やっぱり、土地が変わると価値観や慣習が変わるものだからね、自分のやり方に固執せずまずは受け入れる姿勢が大事ってね。」


「郷とは里の事だな。そう呼ぶ地方を知っておる。」


「ああ、聞いたことがあるな。それじゃあ、トモちゃんは郷に従うのが上手いな。」


「郷に従うのが上手いなんて始めて言われたなあ。でも、なんか良い誉め言葉だな。気に入ったよ。」


「くふふ、気に入ったか?それは良かった!くふふふふ。」


「お客さーん、ちょっといいですかー?。」


 御者さんが声をかけてきた。


「はい、なんでしょうか?。」


「いや、お客さんお強いようなので、良かったら近道通ってもいいですか?山道なもんで強鳥も魔獣を引き離せない事が多くて、追っ払うの手伝ってもらえるならそっちを通れば半日早く着きますよ。どうですか?。」


「どうするみんな?。」


 俺はみんなに聞くとみな早く到着できるならばそれに越したことはない、と言う。

 シエンちゃんなどは、そっちの方が退屈しなくていい、なんて喜んでるよ。

 そんなわけで、我々は御者さんにお願いして近道を進んでもらう事にしたのだった。

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