結局話になんないのねって素敵やん
「ホルナさんの話を聞いて下さい」
「お前に言われなくてもそのためにわざわざ残ってやってんだよ。わかり切った事を言うなアホ」
ディアナがカンカにバシッと言う。実際は待つ必要なんてなかったんだけど、ついこの連中をそのままにして行くのに引っ掛かりを覚えちまった。と言うのもこのふたり組前世界でいたイカれた上司とその側近によく似ているんだよ。耳長族の海域に侵入してきた奴らを仲間割れさせて情報を引き出すために俺が真似をしようとして失敗した典型的なマニピュレータの上司だ。その上司と側近には色々と不愉快な目にあわされたもんだ。
まあ、わかりやすく行っちゃえばその時の八つ当たりだよ、江戸の敵を長崎で討つって奴だ。
「お前らのルールってな、なんだ?言ってみな?」
俺はホルナとカンカを見て言う。
「だから、それをこれからホルナさんが説明しようとしていたんですけど、そちらのお嬢さんが話を横切るから言うはずの事が言えなかったんですけど?話を聞きたいのは僕も一緒だし、元々はホルナさんが話をする順番だったわけですからねえ。ルールを守ってないのはそちら側ですから」
「お前は余計な話が多すぎるよ。と言うか余計な事しか話してないな、だいたい話を横切るってなんだよ?そんな言葉の使い方聞いたことないぞ?それともここのルールでは存在するのか?どうなんだ?カンカ君よ?答えてみろよ?え?」
俺は余計な事ばかり喋るカンカを詰める。前世界のヤバ上司の側近も似た感じだったんだよな。余計な事しか言わないし余計な事しかしない。人にマウントを取るのが大好きだから、すぐに調子に乗って上から目線で教えようとするけど、基本的にポンコツなので教える内容も自分自身で出来て無かったり、間違った情報だったりで教えられた方は後々混乱する事になるんだよ。後になって上司からそのやり方は誰に教わったんだと問い詰められて、側近からだと答えた新人が上司から、人のせいにするなと叱られているのを幾度も見かけたもんだ。
その上司と側近は遠いながらも血縁関係にあり付き合いも長いようで、上司はポンコツ側近をかばい、ポンコツ側近は上司に服従する図式が出来上がっていたのだが、こいつらはどうかな?
「あんたカンカを責めるのは筋違いだよ。カンカは確かに間違いを犯す事もあるけど、今回の件についてはカンカが正しいからね、常識的に考えても。あんたはさっきの坊ちゃん達の仲間なのかい?だとしたら世間知らずにも程があるよ。こういう所に来るときはまずそこのルールってもんを理解して来るもんだ、そして理解したらそれに従う。それが常識だろ?だいたいあんたは賭けに参加してないだろ?それはまず一つ目のルール違反だよ」
ホルナがまくしたてる。やはりこいつらも同じ系統か。前世界のマニピュレータ上司とポンコツ側近は、その性質からやはり職場では多くの人達から厄介者扱いされていた。俺の様に彼らから離れる者も少なくなかったし、直接かかわりのない他部署の人間などにも知れ渡るような厄介者具合だったので、あまり親しくする人はいなかった。恐らくはずっとそんなだったのだろう、根っこの所で結局信じられるのは血のつながりのあるお互いだけ、と考えているような所があった。まあ、そうなるに至ったのは自分達の考え方や行動に問題があるからだとは考えないのが彼らのような人間の凄いとこなんだけどな。
「ならば聞くがそこの爺さんはどうなんだ?賭けに参加しちゃいなかったぞ?カモを連れて来た者はそのルールに従わなくても良いってルールでもあるのか?」
「爺さんはいつも参加してるから、今日くらいはいいんですよ。それに、これから参加するつもりかもしれないからね。それは、誰にもわからないでしょう?それともあなたは先のことが見えるんですか?だとしたらギャンブル勝ち放題ですよねえ?怖い怖い」
カンカが得意げに言いホルナが少しだけ嫌な顔をする。ホルナは気付いたんだな、カンカが言わんで良い事を言ったのに。
「ほう、という事は俺が来る前にも参加はしていなかった訳だな?すくなくとも今日は賭けに参加していなかったのは確かだと。それから、いつも参加してりゃあ、一日くらいは参加しなくて良いってルールは外に貼ってあるのか?どうなんだ?」
「それは貼ってないですけど、ホルナさんが言いと言えば良いんですよ」
「とカンカ君は言っているが、そうなのか?」
俺はホルナに話を振る。
「さっきも言っただろ?カンカは間違いを犯す事もあると。普通に考えてみなよ、いつも参加してれば今日は参加しなくても良いなんてルール作る訳ないだろ?普通に考えてみておくれな?普通がわからないのなら出直してきな」
「爺さんが今日は賭けに参加してないってのは認めるんだな?なんだか話をそっちに持っていきたくないみたいだけど。そっちの持っていかれると弱いんだろ?不利になりそうなことはあやふやのままにして通り過ぎようってかい?」
「誰がそんな事を言った?別に不利になんてならないし、勝手な事言わないで欲しいね。私は物事をあやふやにしておくのが一番嫌いなんだよ。はっきりさせてあげようじゃないか。え?爺さんが今日、賭けに参加してないって話だったね?」
ホルナは俺に問う。こいつ、段々とまくしたてるような話し方をしなくなったな。と言うか出来なくなったのか。俺がおかしな所を突くってのがわかったのだろうな。そうだぞホルナ、感情の赴くままに垂れ流すような話し方してたらどんどん足をすくって行くし、そうでなくても怪しい事は怪しいと言っていくぞ。
「爺さんが賭けに参加しなくても咎められないのは、上等なカモを連れてきたからだよな?爺さんには幾らマージンを渡してんだ?上カモの負け分の何パーセントが爺さんの懐に入る事になってんだ?」
「はっはっはっは!何を言うかと思えばトンチンカンな事を!」
ホルナが笑う。
「そうですよホルナさんが言う通り見当違いも甚だしいですね。良く知りもしないで知ったかぶりは止めて貰いたいですよ。みなさーん!聞いていましたかー?今までの事もぜんーんぶ彼の知ったかぶりのいい加減ですからねー。実際、その爺さんはうちに借金がありますからね!爺さんの懐になんて入りませんから!借金から棒引きするだけですから!」
ホルナが顔をしかめる。まったくこのおばさんの一番の失敗はカンカなんてボンクラを側近にしてる事だな。
「カンカよ、問題はそこじゃねーんだわ。棒引きだろうがなんだろうが爺さんにマージンが行ってるって事が問題なんだわ」
「えっ?いやあ、そこは問題じゃないですよ、ねえ?ホルナさん?問題は懐に入っているのかいないのかですから普通。ねえ?ホルナさん?」
「そ、そうだよカンカの言う通りだよ。普通はそっちが問題だろ?普通は」
うわー、無茶な強弁を始めましたよこのおばさん。
「ほらホルナさんが言ってんだから間違いないですよ。ホルナさんは昔から間違いなかったから。爺さんにマージン渡して何が悪いってんだ」
また調子に乗ってポンコツカンカが口を出してきた。
「連れてくるだけでマージン渡すなんておかしいだろ?」
「はい、出ましたー知ったかぶりです。皆さん、聞きましたか?彼は知ったかぶりばっかりですからね。爺さんに聞いてみればわかる事ですけど、連れてくるだけで渡してる訳ではありませーん!連れて来た客の負け分の5パーセントですから!はい!知ったかぶり!無知をさらけ出しましたー!」
得意げになって言うカンカ。やはりボンクラである。
「へー、そうなのか?爺さん?」
「うんうん、そうそう。そうですそうです」
爺さんは必死になって答える。
「じゃあ、あれだな負けなきゃマージンは貰えないって訳か。そんな事じゃいつまでたっても借金なんてかえせないだろ」
「はい!またまた出ました知ったかぶり!そんな事はありませんー!連れて来た上客はキチンと負けるようになってるんでしたー!あ!ちなみに皆さんにはその手は使ってませんからね、ご心配なく!だから爺さんは必ずマージンは貰える仕組みになってるんでしたー!ちなみにだけど、どっちにしても爺さんはその分、またここで負けるから結局一緒なんですけどね、ふははははは」
カンカが芝居じみた笑い声を上げる。賭場にいる客はお互いを見合わせて顔をしかめ、ひとり、またひとりと席を立っていく。
「え?あれ?皆さん?なんで帰っちゃうんですか?なんで?」
「お前がイカサマしてるってのをデカイ声で言ったからだよ。ホントにボンクラだなお前は」
俺はガチでわかってない様子のカンカに言ってやる。
「は?何を言ってるんですか?そんな事、言ってないんですけど?ねえホルナさん?僕、そんな事、言ってませんよね?」
「ああ、カンカはそんな事、言ってないさ。確かに言ってないね。だいたいイカサマなんてやってたら客なんか誰も来なくなるだろ普通。うちは毎日、お客さんで溢れてるからね。それがイカサマなんかやってないってなによりの証拠だろ?そんなしっかりした証拠があるんだからこっちの言い分が正しいに決まってるんだよ。こっちがどれだけ客が入って儲かってるかなんて話し、本来はしたくないんだよ。そんな話し自慢になってしまうだろ?自慢話は好きじゃないんだよ。それに、うちは万象会さんにたっぷり渡してるからね。あんまり汚い濡れ衣被せて来るようなら話付けるけどいいのかい?そんな根性があんたにあんのかい?だいたいうちは・・」
ホルナの話を聞いて残っていた客も席を立ち始める。なんだかんだでカンカなんてボンクラを右腕にしてるくらいだから、ホルナってのも大概ボンクラなんだよな。結局、ここの賭場のバックに万象会がいるってのと儲かっちゃってるってのを大声でアピールしちゃってんだもん。賭場が儲かるってのはイコール客の負けが込んでるって事だからな、そりゃ客だってギャンブルは最終的に胴元が儲かるなんてのは良くよくわかってる。わかっちゃいるが、自分だけは勝ち抜けると思ってやってんだよ。それを胴元がでかい声で儲かってるだのバックにヤバイ団体がいるだの、そこにたっぷり上納してるだのと言えば客も目が覚めるってなもんだよ。
しかし、ヒートアップしてまくしたてているホルナの目には入っていないようだ。カンカはホルナのイエスマンで進言できるような根性もなさそうだし、そもそもこの状況がマズいとも思ってなさそうだ。
「お話の途中だが客もみんな帰っちまったみたいだし、どうする?バックを呼んで来るかい?それとも今いるメンツで俺に襲いかかるとか?結局あんたらが当初言ってた責任がどうこうってのもよくわかんないし。全般的にあんたらの言ってる事ってあんたらにしか通じない独自の理論なんで、これ以上あんたたちの非常識には付き合ってられないんだ悪いけど」
俺はガラス玉みたいな目をしてまくしたてるホルナに言う。
「結局これだよ。あんたたちみたいなのは話が通じないから嫌なんだよ、こっちは穏便に済ませたかったんだけどな。ここまでくるとうちの信用問題だからね。ただじゃ済まさないよ」
「ただじゃすまないってお金でもくれるのか?」
「ふん、余裕ぶってられるのも今の内さ、私が意味もなく話を続けてたとでも思うのかい?こっちは常に考えて行動してんのさ。そろそろ万象会の方が来る頃さ、残念だったね坊や。あんたの親の所にでも乗り込んで搾れるだけ搾り取ってやるからね」
「ふふふふふ、ホルナさんはやるといったらやる人ですからね。残念でしたね、ふっふっふっふっふ」
なんかまともに付き合うのがアホらしくなってきたよ。前世界の上司と側近もまともに言い合いしたらこんな感じだったのかね?だとしたら真剣に腰を据えて話し合わなくて正解だったな。




