迅速な処置って素敵やん
「おーい!ムグリ!キーケちゃん!こっちだよー!。」
俺は大きな声で呼びかけた。
「お!あんちゃん!大丈夫だったかい!姉ちゃんも無事かい?。」
駆け付けたムグリが開口一番心配してくれる。
「おう、ふたり共無事だよ。アルスちゃんは周囲の消火をしてるよ。しかし、何があったんだ?。」
「住民の避難と消火は済んだ。今はシエンが取り残されたものがいないか確認しておる。」
キーケちゃんが言う。
「そうか、しかし一体何が起きたの?。」
「フム、恐らくは邪法であろう。トモは一度見ておろうよ。」
「うん、発見者の時にね。でもあれは人を操る類の術だと聞いたけど?。」
「邪法とは負の感情を大量に蓄積する方法の事よ。それをどういう形で発露させるのかは、術者次第だ。まあ、元が負の力故に結果も破壊や苦しみを招くものになりがちだがな。一番近くで見たのはアルスだから、戻ってきたら聞いてみよ。」
「キーケちゃんは直接見てないの?。」
「ああ、あたしは後衛だったからな。」
「しっかし、おっそろしかったよ。肝が縮んだぜ。」
「きひひひ。ムグリよ、お前はなかなか勇猛であったぞ。まだ鎮火しておらぬ建屋に入って随分多くの人を助けたろう。」
「そりゃ、おばちゃんや姐さんが魔獣をぶっ倒したり、家がぶっ壊れるのを支えたりしてくれたからだよ。マジで強いんだもんな、みんな。姐さんが魔獣倒すときに、誰がおばちゃんじゃーって叫びながらやってたのは勘弁してほしかったけどよ。」
「あちゃー、シエンちゃんは、また。それで、ケガ人は出なかったかい?。」
「ああ、大きなケガをした人はいなかったよ。転んですりむいたり、足をくじいた人が出た位だな。マジで、あんちゃん達のおかげだよ。ありがとうな。」
「ムグリがいてくれたからからさ。」
「えへへへ。」
しかし、よく見るとムグリのふわふわだった毛はいたるところで焦げてカールしてしまっている。
「実際、よくやったよムグリは。」
「ああ、そのようだな。」
キーケちゃんの言葉に俺は答えた。
「おーい!アルスと合流したぞー!。」
シエンちゃんがアルスちゃんと一緒に飛んでやって来た。
「皆さん、ご苦労様でした、お怪我はありませんでしたか?あら?ムグリさん、随分頑張ったようですね。火傷はしていませんか?。」
「おう!ちょっと毛が焦げただけさ!姉ちゃんは大丈夫か?。」
「ええ、おかげさまで。」
「アルスちゃん、何が起きたんだい?。」
「はい、説明しますね。あら、ちょうど衛兵さんが来られたようですよ。詰め所で、説明しましょうか。」
アルスちゃんが視線を向けたほうから、衛兵さん達がやって来るのが見えた。
「すいません、あなた方が住民の避難と消火をして下さった方々ですね?感謝致します。お疲れのところ申し訳ないのですが、事情をお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?。」
「はい、よろしいですが、我々は教会の依頼で動いておりますので、パンチャコ司祭もお呼び願いたいのですがよろしいでしょうか?。」
「はい、わかりました。お呼びしますので、改めてご同行お願いします。」
「はい。」
という事で、俺たちは衛兵さんに続いて詰め所へと向かった。
発見者の時もこうやって、あちこちの詰め所で事情聴取されたもんだ。
どうも、この手の団体と関わると事情聴取される事になるらしいよ。
詰め所に到着し部屋に案内されるとすでにパンチャコ司祭はイスに座って待っていた。
俺たちもイスに座り、衛兵隊長さんもやって来て事情聴取が開始された。
まずは、パンチャコ司祭から今回の依頼について説明がされる。
そして、いよいよアルスちゃんから今回の事件の詳細が語られた。
居酒屋から出て来たキズメを、キーケちゃんとふたりで十分な距離を置き尾行し宿に入る所を確認したアルスちゃんは、キーケちゃんに宿の入口を見張ってもらって自分は宿の中に潜入した。
フロントにお金を渡しキズメの部屋を聞き出し、部屋へと向かうと中で窓を開ける音がする。
ドアノブに手を触れると鍵がかかっていなかったので、静かに中に入るとキズメが窓から外へ飛び出す所が目に入った。
どうやらキズメは逃走したようだった。
まったく、キーケちゃんの言う通り、撤退の見切りが異常に早いな。恐らくは確信に至らないレベルの違和感でも行動に移すのだろう。
アルスちゃんはそのままキズメを追った。
すると奴は懐から何か壺のような物を取り出し地面に叩きつけた。
壺のような物は割れて煙が大量に出たのでアルスちゃんは咄嗟に風魔法で散らした所、あの黒い渦が発生し渦の中から四方八方に魔獣が出て来たのだと言う。
それに対処している所に俺が来た、と言うわけだった。
そして、その渦を強引に魔力で圧縮し消滅させた後、消火救援活動をしてからキズメの居た宿の部屋へアルスちゃんは行ったそうだ。
運良く延焼を免れたその部屋の内部を探すと窓際にこれが落ちていたのだ、と言ってアルスちゃんが出したのは服のボタンのような物だった。
親指の爪より少し大きなサイズで、黒く滑らかな表面には光沢があり昔、どこかの博物館で見た古代の矢じりみたいな質感だが形状はラグビーボールのような楕円形で、よく見ると何か紋章のような物が刻まれている。
「これは、オプシウス硬貨ですね。」
衛兵さんが言う。
「どこかの国の硬貨ですか?。」
俺は聞いてみた。
「はい、これは壁の向こうで使われている硬貨です。」
「壁の向こうとは?。」
衛兵さんの説明はこうだった。
50年程前にエルミランド帝国の北西部を大きな地震と火山の噴火が襲った。
帝国北西部は壊滅的なダメージを受けたのだが、少数の生き残りに加え逃亡犯や暴力組織、非合法団体などがその地に巣くい始め、無法地帯になっているのだと言う。
帝国は治安維持のために衛兵隊を幾度か派遣するも、いずれもうまくいかず介入をあきらめ壁を立てることで通行を制限し現在に至るとの事。
「さてと、どうしたものですかねパンチャコ司祭?。」
「ええ、できれば継続して追って頂きたいのですが・・・さすがに壁の向こうは危険すぎますし。」
「構わんぞ、なあ、みんな。いいよな?な?。」
シエンちゃんが嬉々として言う。
「俺は構わないけどさ。」
「あたしも構わん。」
「ですが、壁の向こうとやらに行っても雲をつかむような話ではないですか?。」
アルスちゃんが最もな事を言う。
「壁の向こうにも協力者はいますから、まったくの行き当たりばったりと言うわけではないですが、本当に大丈夫ですか?。」
「あんちゃん達なら大丈夫さ!本当に強いんだから!さっきの魔獣たちもあんちゃん達4人でほとんど退治しちまったんだぜ!。」
「それは本当ですか、ムグリ?。」
「ああ、そうだよ!。」
「私たちも確認しておりますが、どうも、ムグリ君の言う通りのようです。」
衛兵さんもムグリの言う事を肯定してくれる。
「そうでしたか、街を救って頂き感謝します。こちらは報酬に乗せるよう上に伝えておきます。」
パンチャコ司祭が頭を下げる。
「いやいや、いいってことよ。な?みんな。その分、頑張ったムグリの報酬に上乗せしてやってくれよ。後はさ、焼き出された人たちに回してやってくれよ。な?みんなもそれでいいだろ?。」
シエンちゃんが良い事を言う。
「きっひっひっひ、どうしたシエン。まともな事を言って。」
「いや、家は大事だろ。みんな一生懸命に働いて住んでたのに、こんな訳の分からないことに巻き込まれて失ったんじゃたまったもんじゃないだろうよ。救助してて思ったんだよ。」
「それならば、こうしたらいかがですか?倒した魔獣の引き取り代金も復興費に充ててもらいましょうよ。」
「おお!さすがアルス!名案だ!。」
「あたしも良いと思うがトモはどうだ?。」
「俺もそれが良いと思う。どうですか、パンチャコ司祭?。」
「そうして頂けるのならば、復興も十分出来ます。あれだけの数の魔獣です、お釣りが出ますよ。」
衛兵さんが言う。
「お釣りが出るなら、そのお金で収入源を失った人へのお見舞いなんかにも充ててもらえればいいよ。なんにしても、我々は本来の報酬で十分ですよ。」
「俺も、上乗せなんて要らないよ。街のみんなに回してやって欲しい。」
「ムグリ。大きくなりましたね。わかりました。皆さん、ご厚意感謝致します。教会も出来る限りの事はさせて頂きます。ムグリにも復興の手伝いをしてもらいたいのですが、良いですか?勿論、別に報酬は出しますよ。」
「ああ!いくらでも手伝うぜ!。」
うむ、この様子なら大丈夫だろうよ。ケガ人も出ていないようだしな。
「では、改めまして皆さんには、次の依頼の話をさせて頂きたいと思います。」
パンチャコ司祭が居住まいを正して言うので、我々も引き続き話を聞くことにしたのだった。




