テンプレ悪党って素敵やん
「さて、では早速だがどう対処するのか聞かせて貰っても良いかな?」
満足そうな族長さんはそう話を切り出した。
「まずは実際に侵入者と顔を合せてみたいと思います。彼らが何らかの確信をもってこの海域に来ているのか意図を知れたらと」
「うむ、お任せしよう」
「後は連中が来てくれるかなんですが」
「それなら心配ない。奴らは飽きもせずにやって来る、すぐに警戒任務にあたっている者から報告が入るだろう。しかし、意図が知れたとしてどうするのだ?」
「そうですね、もしも耳長族の集落と知っての事でしたら問題は大きくなりますね、彼らの動きを止めるために帝国の力を借りようと思っているので、この島の事も一部説明する必要があるかも知れません」
「まあ、軍の人間など一部の者は知っているので必要最低限で信頼に足る者ならば、それも仕方がない」
「え?この島の事を知っている者がいるのですか?」
俺は驚いて族長さんに尋ねた。
「それはそうだろう。普通に考えて大国の傍に位置しているのだ、まったく存在を隠すなどは無理だろう。帝国軍の上層部とはお互いに不可侵という事で話はついている。なので話すならば国防軍の上層部に願いたい」
「あのー、その上層部の方のお名前とか伺えますか?」
「ああ、構わない。国防軍上級大将リヒャルト・フォン・ゼークシュタイン殿だ」
「あは、あははははは、いや、そうですか。うん、わかりました。それならば大丈夫です、まったく問題ありませんです」
俺は乾いた笑いをしながら言う。
「うん?なんだ?知り合いなのかね?」
族長さんが問う。
「ええ、まあ、はい。そうです」
隣でクランケルが呆れたような顔をしている。クランケルには勿論ゼークシュタイン閣下との経緯や関係は説明してあるから、俺の人間関係の引きの強さに呆れたのだろう。
アルスちゃんは満足そうな顔をして頷いているがなんのこっちゃ?
その後、アルスちゃんやクランケルが族長さんに質問を受けたり、こちらから話を聞いたりしていると。
「族長、現れました」
耳長族の人が応接部屋に入って来た。
「やれやれ、毎度毎度律儀な事だ」
族長さんが我々を見て肩をすくめる。
「では早速我々が行ってみます」
「お願いしよう。シャクリー、ワンカー、案内を頼む」
族長さんに言われてシャクリーとワンカーは頷き席を立つ。我々は族長さんに一礼して同じく後に続く。樹の中とはとても思えない空間を抜け外に出る。
シャクリーとワンカーは報告に来た耳長族の人となにやらいろいろ話している。どうやら我々の事を説明してくれているようだが、時折、地味な顔の人、とか目立たない人が、という言葉が出てくるのでそこは俺の事を言っているのだなとわかる。ちょっと悲しい。
耳長族の人は特に急ぎ足の様にも見えないのだが移動速度は速い。なにか独特の歩行法でもあるのだろうか?
「現場まで一緒の舟で行きましょう」
シャクリーとワンカーが乗っていた小さなボートと違い大型のカヌーだった。船首に報告に来た耳長族の人とシャクリー、船尾にワンカー、その間に我々が座りカヌーは出発する。
報告に来た耳長族の人、ジェブシーさんが案内をし、シャクリーとワンカーがパドル操作をしてカヌーは進む。シャクリーとワンカーのパドル使いが上手なのか、カヌーは波を切ってスルスルと軽快に海上を進む。ふと島を振り向くと世界樹の姿は見えなくなっており島全体も薄く靄がかかり始めていた、恐らく認識疎外が発動しているのだろう。
しかし、シャクリーとワンカーの息が合ってる事と言ったらない。まるで名人芸を見ている様に一糸乱れぬパドル捌き。見事としか言いようがないね、見てて惚れ惚れするよ。てか、この進みっぷり、出ている速度、ちょっと並じゃないよ。これは耳長族の身体能力の高さを物語ってるね。
「む、霧が立ち込めてきましたね」
クランケルが唸る。
「この辺りには侵入者を感知して認識疎外をかけるブイが設置してあるからな」
案内の耳長族さんが言う。
「という事はもうそばに侵入者は居るって事だね?」
「そうだ。もう水音が聞こえてくる。やつら、また妙な物をばらまいてるな、腹立たしい」
「まずは我々で交渉させて貰っていいですか?」
俺は案内役の耳長族さんに問う。
「それは構わないが、奴らと顔を合せるのか?我らは姿を現したくないのだが」
「ああ、でしたら我々は飛べるので方向を教えて貰えればちょっと行ってきますよ」
「そうか?気を付けろよ、奴ら最近なにやら飛び道具らしき物を積んでいることがあるからな」
「この霧には術式具疎外の効果もあるのだが、それに頼らぬ武器のようだからくれぐれも気を付けてくれ」
案内役さんに続いてワンカーが心配してくれる。
「ありがとう。気を付けて行ってくるよ」
俺は感謝の言葉を述べてから耳長族が指し示す方向へ飛ぶ。アルスちゃんとクランケルも後から続く。
「しっかし、深い霧だねえ」
「先から気配を感じますね」
クランケルが俺に答えて言う。
「マジ?もう?」
「ええ、遮蔽物も何も無い海上ですからね、天候が荒れてなければそこそこ先まで感知できますね。だんだんと近付いてます」
「マジか、ちょっと先導してくれよ」
クランケルに先行させて俺も意識を集中させて続く。塩気をはらんだ風と一緒に前方から動いている人の気配を感じる。
「もうすぐ先にいますよ。どうします?」
クランケルが空中で停止し俺に尋ねる。
「ではまずはトモトモに交渉して頂きましょうか」
「おう!任せとけ!」
アルスちゃんに言われて俺は胸を叩く。クランケルに俺の交渉力を見せてやるとするか。
「あのー、ちょっとすいませーん」
「うおっ!!何者だ!」
脅かさないようにとゆっくりと姿を現しながら声をかけたのだが、向こうさんはやましい所があるのかたいそう驚いている。
前世界の釣り船くらいの大きさの船に乗組員は6~7人といったところ。
「この辺りって禁漁区なんですよ。わかってます?」
「魚なんて獲ってねーだろ!」
男が怒鳴る。
「立ち入り禁止海域でもあるんですよ。それに海に変な物を捨てないで下さい」
俺は波間に浮かぶ例の魔導ビーコンを指差し言う。
「俺たちが捨てたって証拠でもあるのかよっ?」
ガラの悪い男が大きな声で言う。
「あなた方の物ではないのですか?」
「へへへへ、さあな」
男は不敵な表情でとぼけた事を言う。
「じゃあ、すべて回収しても構いませんね?」
「好きにすればいいじゃないか」
男達はそう言ってヘラヘラと笑う。
「じゃあ、そうさせて貰いますよ」
俺はそう言って奴らの船に乗り込み、置いてある木箱の蓋を開ける。
「じゃあ、回収していきますね」
俺が木箱を持ち上げようとすると男達は一斉に足元から槍のような物を取り出し俺に向ける。まさかスピアガンか?俺は木箱を持ったままゲイルで高く飛びあがる。飛びあがる際にわざと船底に衝撃を与えてやるのを忘れない。
「ぬわっ!」
「この野郎!」
「気を付けろ!」
男達が声を上げ、俺が今までいた場所やその近辺に槍が突き刺さる。
「いい加減にしないと船を沈めちゃうぞ?いいのか?」
「やれるものならやってみろ!」
船の男達は息巻いてこちらに向けてスピアガンを撃って来る。
「よーし、懺悔しろ!」
俺は大きな声で言うと水魔法を発動、男達に向かってバケツをひっくり返したような勢いで水を放射する。
「ぶはっ!バカ!やめろ!」
「クソが!なんで術式使えんだ!」
「どうなってやがんだ!」
「いいから撃て撃て!」
「撃てったってこれじゃなんも見えねー」
「おい、武器を捨てて手を上げろ。じゃないとすぐに船は沈むぞ?」
俺は船の男達に向かって声をかける。
「ふざけんな!死ね!」
「早く撃ち殺せ!」
「言ってるテメーが早くやれ!」
男達は内輪もめをしながらもやたら滅多スピアガンを撃ちまくる。
「はい!ダメー!」
俺は更に威力を強め消防の放水のようにして上から男達に浴びせかける。
「ぶわっ!ぺっぺっぺっぺっぺ!」
「お前のせいだぞ!何とかしろ!」
「俺の後ろに隠れんなってんだ!」
「ざけんな、水をかきだせ!早くしろ!」
「お前がやれ!マジで沈むぞ!」
男達は焦りまくって互いに責任転嫁をしあっている。
「わははは、馬鹿ども発見。このままじゃ海の藻屑だぞ?仲間割れしてる場合じゃねーぞ?こういう時こそ力を合せろ!人のせいにしてないで責任を果たせ!」
俺は木箱をクランケルに渡しながら言う。クランケルは苦笑して受け取り耳長族さん達の待つカヌーへそれを運んで行く。
俺は風魔法で強風を発生させ、船の中の水が溜まりきって沈没しないように調整してやる。男達はそんな事とも知らず、大水に続いて暴風まで吹き始めた事でいよいよ混乱し始める。
「ざけんな!誰か何とかしろ!」
「だから嫌だって言ったんだよ!いつかこうなると思ってたんだよ!」
「だったらなんで止めなかったんだよ!」
「テメーさっきから人のせいにばかりしてんじゃねーぞ!」
「なんでもいいからなんとかしろ!」
「お前らには学習能力ってもんがねーのか?責任を果たせといってるだろーが!」
ごちゃごちゃと言い合うばかりで何もしようとしないボンクラどもを見て段々と腹が立ってきた俺は暴風雨に雷を混ぜてやる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「いてぇ!バチバチしやがるぅぅぅぅ」
「し、し、し痺れ、るるるぅぅぅ」
「ががががががが」
男どもが硬直して手足を突っ張らせるので俺は雷を止める。
「さあ、もう一度言うぞ?さっさと責任を果たせ」
「ず、ず、ずみばせんでした。勘弁してぐださい」
ひとりの男がそう言うと、他の連中も口々にスイマセンと言い船底に頭をこすりつけ始めた。人間、必死で謝罪しようとすると自然に土下座スタイルになるのか。俺は妙な事に関心する。
「トモトモ、そろそろ勘弁して差し上げたら良いのでは?」
隣でアルスちゃんが涼しい顔をして言う。
「そうだね。それじゃあ交渉の続きと行こうかね」
俺は魔法の発動をストップして言う。
「今のは交渉と言うのですか?」
戻って来たクランケルが俺に言う。
「立派な交渉でしょ?」
「いやあ、恫喝とか脅迫といったものに近いのでは?」
「やだなあクランケルちゃん。そんな物騒な事言わないでよー。ほら、この連中も俺の言葉に感銘を受けて納得も得心もして頂いたと、そういうわけですので。なあ?」
俺は男達の船に降り立ち近くにいた男に言う。
「ふひぃ、ひゅぅひゅぅ、げひょっげっひょっ」
男は妙な声を上げて息を吸いそして咳き込んで口から水を吐いた。
「確かに生殺与奪の権利をクルース君が握る事には納得も得心もいっているようですね」
「またまた生殺与奪なんて怖い言葉つかっちゃいやよ」
俺は笑顔でクランケルに言う。
「たまにクルース君のノリについて行けないことがありますよ」
「うふふ、トモトモは悪ノリが好きですからねえ」
肩をすくめるクランケルにアルスちゃんが言う。
「うんうん、悪ノリ大好き。ひとまず、一人ずつ縛り上げて血に飢えたサメかなんかが居る場所に連れてって、順番にダイビングしてもらおうかな。どう?海賊みたいで良くない?」
俺は転がってる男達の顔を覗き込んで言う。
「海賊とはそんな事をするんですか?」
「わかんないけどしそうじゃない?しかしさ、こういう連中ってどうしてこっちが下手に出てる時に素直に謝らないかね?丁寧に対応すると必ず舐めた態度とってくるっしょ?優しくしてるとつけあがるのはバカの特徴だと思わないか?」
「まあ、分かりやすくていいじゃないですか」
「もしかしてクランケルの喋り方ってバカを炙り出すために丁寧にしてるのか?」
俺はもしやと思って聞いてみる。
「別にそう言う訳ではないですね。昔からこうだっただけですよ」
「そうなのか?」
「ええ。ですが、クルース君が言うようにバカが舐めてくるというのは本当に良くある事ですね。笑ってしまうのはそう言う連中は痛い目見てもすぐに忘れてしまうんですよね。ですから、忘れられないようにしっかりと丁寧に身体に刻み込まないといけませんよ」
クランケルはしゃがみ込んでひとりの男の手からスピアガンを奪い取る。
「まあ、今はこれくらいで許してあげましょうか。レディの前ですからね」
クランケルはそう言って男の額に指を弾いた。いわゆるデコピンってやつだ。
「オゴッ」
男は呻いて白目をむいた。デコピンってレベルじゃねーぞ!ひょっとして爪にジスマークとかついてないだろうな?
「うふふ、やですようクランケルさんたら。レディですって、もう照れてしまいますよ」
アルスちゃんが場にそぐわないにこやかさで言う。そして照れ方が親戚のおばさん!




