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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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質疑応答って素敵やん

 「話しづらい事でしたらそれは答えられないとおっしゃられて下さいね」


 俺は改めて念を押す。


「それは、勿論そうさせて貰うが」


「では、早速ですが耳長族は他種族と婚姻関係になる事もありますよね?」


「ああ、あるな」


「そうした際に何か決まり事とかはあるのですか?」


 俺は族長の目を見て質問する。


「里の場所を外に漏らさない事、これは絶対的な掟だ。勿論、君達にもそれは守ってもらう事になるが」


「はい、それは勿論です。そうは言っても例えばなんですが、外部と交易をする集落なんかもありますよね?」


「ああ、そうした集落もあると聞く。それはすべての集落に世界樹があるわけではないからであり、世界樹のある集落ではその場所は外部から秘匿されなければならない」


「世界樹を悪用せんと企む者達が世界にいる限り、世界樹の存在は秘匿されるべきでしょうね。しかし、耳長族は認識疎外がお得意ですよね?ならば、集落の場所ではなく世界樹の存在を秘匿すればよいのではないですか?集落の場所を秘匿する特別な理由があるのですか?」


 俺は族長さんに尋ねる。


「・・・・。少し長い話になるが良いかな?」


 族長さんは少し間を置いてから俺たち三人に尋ねた。


「いいよね?」


「はい。わたしもお聞きしたいです」


「ええ、お願いします」


 アルスちゃんとクランケルも同意してくれる。


「シャクリーとワンカーから聞いていると思うが、相手の感情を嗅覚で感じることが出来るという力を持つ者が一定数この集落にはいるのだ」


「ええ、聞いています」


「その力を持つ者は人族の血を受け継ぐものでな」


「え?という事はこの集落内にも人族が暮らしていると?」


 俺は驚いて聞く。


「いや、いない。血を受け継ぐと言っても過去の話しだ。この島に住む耳長族は島と言う立地条件から外部と距離を取りやすかった。なので、長い間、耳長族だけで生きてきたのだ。つまり、長い間、耳長族の純血種を守ってきたとも言える」


「他の耳長族はそうした事はないのですか?」


「内陸に住む耳長族は人族や魔族と交流を持つ場合もあるから、他種族と交わる事もあるだろう。それに忌まわしい話だが、我々耳長族の特徴としてのこの外見が災いを呼び、そうした目的で奴隷にされる事も過去あったのだ。それも、我らが自衛のための力をまだ持たぬ遠い昔の話ではあるが、そうした諸々の事情により他の集落では他種族の血を引く者はおり、逆に純血種の方が貴重なくらいなのだ。そうして長い間純血種を守り血が濃くなったところに人族の血が入ることで発生した力、それこそが他者の感情を嗅覚で感じる力だったと我々は考えている」


「・・・」


 急に重い話になり俺たちは押し黙ってしまう。


「別に君達を責めるつもりもないし人族や魔族を憎んでいる訳でもない。遠い昔の話しだからそんな顔をしなくて良い」


 俺たちの様子を見た族長が言う。


「お気遣いに感謝します」


 俺は言葉を絞り出すように言う。


「ふふ、ふたりが言うように皆さんは好ましい性向をお持ちのようだ。話を続けよう。集落の場所を秘匿するのはこの力によるところが大きいのだ。この力により相手の悪意が感じられてしまうのだからね。相手の人族が好ましい性向を持つとわかり好意を持ち島を出て相手の元で暮らす者も過去にはいた。が、それも長くは続かない。勿論、時間の感覚が大きく違うという事もあるが、それ以上にあるのが悪意や害意だ。自分の伴侶が信じている相手、親友と呼ぶ者や家族と呼ぶ者が自分に情欲を持ち、それに伴って自分の伴侶に悪意や害意を持つ過程を身近で感じ続けるのはつらい経験だ。自分のせいで自分の愛する伴侶が、周囲の愛する者から憎まれ疎まれ妬まれる。それはやがて殺意にまでふくれる。大抵の者は子供を連れて集落へ帰ることを選択するのだよ。そこで起きる問題が別れた伴侶が集落の事を漏らし強引な手段に出ないかという事だ」


「子供を巡って色々と遺恨を残すでしょうからねえ」


 俺は親権を争う泥沼訴訟を思い起こす。前世界でもそれは良く聞く話だったし、元親族による子供の連れ去りや、それを防止するための法律の問題点などを題材にした作品も多くあった。


「そう言う事だ。そしてそれは同時に禍根を残す事にもなる。そこで我々はそうした別れる事になる伴侶に必ずすることがあるのだよ」


「どういう事ですか?」


「我々の同族は姿を変えてあちこちに居る。もし、お前が集落の事を漏らしたらすぐにわかる。それがわかったらお前は死ぬことになる、と」


「それは同族が殺すという事ですか?」


「いや、こう言うのだよ。お前に食べさせていた食事には特別な薬を混ぜていたのだ、それは我ら種族の者が近くにいる限りなんの害もないモノだが、一定期間、我ら種族の者が離れると内臓を食い破り外へ出る虫になる、と」


「それは本当の事なのですか?」


「そんな訳なかろう」


 族長は表情を変えずに言う。


「そんなものは抑止力になるのですか?」


「ああ、なるな。特に海辺の街では効果絶大だよ」


「特に海辺の街では?」


「ああ、海辺の街では魚をよく食べるだろう?魚には寄生虫がついている事があり、火の通りが甘かったりすると稀に腹の中で暴れ激しい腹痛を起こすことがある。まあ、ほとんどの寄生虫は日が立てば勝手に死滅するので痛みも治まるのだがね」


「なるほど、それが心当たりのある者にとっては疑心暗鬼を産むんですね」


「自分にまったくやましい所が無ければ、その現象はしっかり魚に火を通さなかったんだな、としか感じられないだろう。しかし、やましいことがある者の目には、もしかしたら自分と同じく耳長族とかかわりを持つ者がその情報を漏らそうとして警告を受けたのではないか?と考える訳だ」


「ううむ、それは良く出来ていますね。なんなら、魚の寄生虫以外にも似たような症状を引き起こす事はありますからね。恐れる心が異形の存在を生み出す、という事ですね」


 クランケルが言う。


「そうした事は我々の得意とする事だからな。認識疎外やこの海域に近付く者に見せる幻などもそうした事の延長に過ぎないからね」


「むう、それは、戦う術と通ずるものがありますね。なんといいますか、勉強になりました」


 クランケルが族長さんに頭を下げた。族長さんはおかしな所で学びを得られたと感謝するクランケルに虚をつかれたか、一瞬間を開け頭を掻いた。


「いや、まあ、あれですよ、とにかく、我々は人族魔族の欲望の強さと言うものを軽くは見ていないと、そう言う事なんですよ。ですので、世界樹のみならずこの場所自体を秘匿しておきたいのです」


「わかりました。そう言う事でしたらお力になれると思います。そこで、もうひとつ。実はこれこそがお聞きしたい事だったのですが」


 俺は少々横道にそれたが本来聞きたい質問に入るのだった。


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