自分に出来ることをやるのって素敵やん
「来たぜ。あんまり露骨に見るなよ。」
シエンちゃんの食事もあらかた済んだ頃にムグリが呟いた。
「おう、了解だ。」
俺は返事をしながら視界の隅で入ってきた男を見る。
薄手のコートを着てフードを被った男は耳までは見えないまでも、キレイな褐色の肌、右目の上の傷、体格なども含めてムグリの言ってた通りの風体だった。
「きひひ、間違いないな。コートで隠しておるが武器を幾つか身に着けておる。それを隠すように身体を傾けぬ歩き方、戦場を知っておる者の動きよ。」
キーケちゃんが言う。
「うふふふ、シエンさん。そんなに嬉しそうな顔をしないでください。」
おっとりとした口調でアルスちゃんが言うのでシエンちゃんの方を見ると、凄い笑顔をしていた。
ニマーっと口角を上げて、本当に嬉しそうなのだが目が怖い。みぃ~つけたぁって顔をしてる。
それが視界に入ったのだろう、ムグリが一瞬ブルリと振るえた。
男は隅の席に座り、何かを注文した後はひとりじっと動かずにいる。
誰かと合流するわけではないのだろうか。
「外で人に会う事はあまりないらしいよ。」
こちらの気持ちを察したのか、ムグリが小声で言う。
「寝床は決まっておるのかえ?。」
キーケちゃんが問う。
「いや、ちょくちょく変えてるよ。用心深い奴さ。」
ムグリがジョッキを口に当てて言う。
「今日この店に来るのがわかったのも、たまたまさ。毎日ああして情報屋のところに行くけどわからない日のが多いさ。おまけに値上がりまでしたからな。奴も何かを警戒してるのかもな。」
「きひひ、蓋の着いたオルゴール入荷せずってかい。もしかしたら、発見者の件が奴の耳にも入ったのかも知れないな。ならば警戒度も上がるだろうて。」
「なるほどな、キーケちゃんが言う事が当たっているなら奴が店を出た後に尾行するのも難しいかもな。どうする?店出てすぐにさらうか?。」
「いえ、騒ぎにしたくありませんし、キーケちゃんが言うようなその筋の専門家ならば、上手く捕らえないと自死を選ぶ可能性もあります。できれば今晩の寝床くらいは突き止めたい所です。わたしとキーケちゃんで先に外に出て距離を開けて追跡しようと思います。皆さんは彼が店を出たら時間を取ってから出て下さい。ムグリさんと最初に出会った広場で落ち合いましょう。」
「わかった。ぬかるなよ。」
シエンちゃんが言う。
「気を付けてくれよ。姉ちゃんたちの事、気に入ったからよう。死ぬなよ。」
「はい。」
嬉しそうにアルスちゃんが答える。
アルスちゃんに死ぬなよとは、いささか複雑ではあるが、純粋な好意から出た言葉だってのはみんなわかっている。
「行くか。」
キーケちゃんはそう言い自然に立ち上がる。
「ごちそうさまでした。」
アルスちゃんはそう言って席を立ち、キーケちゃんと共に店を出て行った。
俺たちはその後、アドバイザーの男が店を出るまでゆっくりと話をしていた。
男はなんていう名前なのかムグリに尋ねると、驚いたことに誰も名前で呼んでいないのでわからないと言う。
信者に聞いてもそれはわからず、どうやら偽名すら名乗ってないらしい。不便じゃないのかね。
少なくとも俺たちの間で何か呼び名を決めよう、という事になり、目の上に傷があるからキズメにするか、ということになった。
キズメはエールを2杯飲み、幾らかのつまみを食べると会計をし席を立った。
俺たちはアルスちゃんとの打ち合わせ通りに、時間をおいてから店を出て例の広場へと向かった。
広場に着くと、日も沈み暗くなっていると言うのに人が結構いてブラブラしている。
「こんな時間でも結構人通りがあるねえ。」
「ああ、いつもこんなもんさ。賑やかな街だろ?。」
「いいね、活気があって。」
「そうだろ?俺も好きさ。」
ムグリとそんな話をしていると、空に小さな花火のような光が一瞬灯り消える。
「向こうに何かあったな。行くぞ。」
シエンちゃんが言う。
「おう!。ちょっと飛んで行くから、ムグリは後から来なよ。」
「悪いな、すぐに行くから先に行っててくれ!。」
ムグリは話が早くていいよ。
俺は飛んで移動するシエンちゃんをゲイルで追いかける。以前受けた魔法特訓の成果を発揮する時だぜ!
高速で空中移動しながら光が上がった方に向けてサウンドコレクションを使う。
「シエンちゃん!前がなんだかエライ騒がしいぞ!何があったんだろ!。」
「聞こえるかトモちゃん!あれは叫び声だ!しかも大勢の!急ぐぞ!。」
「おうよっ!。」
俺たち2人が急ぎ駆けつけると竜巻のような大きな黒い渦のようなものが見え、周囲の家か何かが燃えているのか炎が上がっているのが見えた。
「おう!来たか!事情は後だ!とりあえずシエンはあたしと住民の避難誘導と消火を手伝ってくれ!トモはアルスを手伝ってやってくれ!いくぞ!。」
駆け付けたキーケちゃんは一息にそう言い、シエンちゃんは心得た、と飛んで行った。
俺は黒い渦のところに飛んで行く。
「トモトモ!こっちです!。」
「アルスちゃん!大丈夫か!。」
「わたしは大丈夫なんですけど、この渦から魔獣が沢山飛び出してきまして、魔獣を倒すのと周囲の火事を消しながらではこの渦を消す暇が無くて困っていたところだったのですよ。トモトモには火消しと出てくる魔獣の退治をお願いしても良いですか?。」
「わかった、任せて!。」
俺とアルスちゃんは、渦から出てくる魔獣を倒しながら打ち合わせをする。
よく見れば周囲には魔獣たちの屍の山ができている。
俺はひとまず、渦を中心に出てくる魔獣をすぐに排除出来るように注意しながら、延焼している家屋に水魔法をかけていく。
文字通り水をかけるわけだ。前世界の消防隊みたいに。
実際には個人で消火器などで火を消せるのは、火災の初期のみで、それを過ぎフラッシュオーバーを起こしたら素人は安全を確保して逃げるように指導されるのだ。俺も前の世界で仕事上そうした資格が必要になって研修会に参加したことがあるので、そこでもそう教えられた。
しかし今の自分には魔法がある!
今の自分に出来ることを全力でやっちゃる!
俺は右手のひらから大きな管から水がほとばしる様をイメージし、なるべく太めの水を放つ。
消火のために必要な事、それは、燃焼の要素を取り除くこと、これに尽きる。
燃焼の要素ってのは、燃えるもの、酸素、熱源の3つだ。
一般的に消火活動ってのはこの3要素のいずれか、もしくは複数を取り除くことで燃焼の継続を絶つ行為の事を指す。俺にできるのは熱源に水をかけて消し、同時に風魔法で燃焼を始めていない可燃物を熱源から切り離すことだ。
そうしながら、目に入った魔獣を片端からかたずけていく。
両手がふさがっている時は、これも以前にシエンちゃんから教わった魔法発射場所はどこからでも良い、という考え方をアルスちゃんやキーケちゃんに手伝ってもらい練習した、額からのフォーカス発射によって刻んでいく。
本当は目から出したかったんだけど、そうすると、一瞬視界が塞がれるので戦闘中には出来ないという事がわかったのだった。残念だが戦闘中に視界がふさがるのは致命的だから仕方ない。
そうして消火活動と敵の排除を同時に行いながら、黒い渦の周りを範囲を広げながら回って行く。
途中、火を吐く魔獣、双頭の狼や翼の生えた大きな蛇、地面に穴掘り顔を出す大きなミミズなど火災の原因と思われる魔獣達にも遭遇し、倒していく。
俺が回っている範囲の避難誘導はすでに済んでいるのだろう、大きな声で誰かいないか叫びながら見渡しているが、人の気配はない。
消火と討伐をしながらの周回をしていると、黒い渦が徐々に小さくなっていくのがわかる。
まるで、圧縮されていくようだ。
2階建ての家程度の大きさまで小さくなると、消えるまではすぐだった。
「渦は消えましたー!わたしも消火にまわりまーす!。」
アルスちゃんの声がする。
「了解!無理しないでね!俺も範囲を広げます!。」
俺も大きな声で返事をして、消火討伐の範囲を広げる。
「おーい!あんちゃん達ーー!避難誘導は済んだぞーー!そっちは大丈夫かーー!。」
ムグリの声が聞こえる。
どうやら、市民の皆さんの安全は確保されたようだ。
ムグリがここまで来たって事はあふれ出た魔獣の討伐もあらかた済んだのか。
「おーい、ムグリよ!あまり先走るな、魔獣の残りがいるかも知れぬぞ!。」
キーケちゃんの声がする。
どうやら、別動隊とも合流出来たようだ。
しかし、一体何が起きたんだ?
詳しい話を聞かねばなるまい。




