波が踊るって素敵やん
波止場に到着するとフラントギルド長が腕を組んで立っていた。
「どうされましたか?」
アルスちゃんが声をかける。
「ああ、実は漁船か中型作業船を用意しろと言っておいたのだが、用意されたのがこれでなあ」
フラントギルド長が腕組みし渋い顔で見つめるのは波止場に係留された小型ボートだった。手漕ぎボートよりはやや大きく、船尾に小型一般用魔導機関が取り付けられた舟。ちなみに一般に使用される魔導機関は最大出力と蓄積魔力量が抑えられたものなのだそうで、陸上移動用だとパワーアシストタイプが主流になるが、温度管理が容易、つまり手軽に水冷が使える水上移動用ではこちらが主流との事だ。うーん、こりゃ水上バイクの方が先に実現できそうだな。陸上はパワーアシストサイクルが先かな。
「十分ですよう」
舟を見たアルスちゃんがいつもの上品おばちゃん口調で言う。
「いやあ、そうは言っても向かう場所が場所だからなあ」
「最悪、我々は飛べますし」
「術式具なしでかい?三人とも?」
フラントギルド長の問いに俺たちは頷く。
「そうか、でも海の天気は変わりやすいからな、十分注意してくれよ」
俺もこっちに来てから一回遭難してるからね。それでシエンちゃんと出会えたんだけどさ。
「はい。気を付けますね」
アルスちゃんはにこやかに答える。
「じゃあ、ひとつ頼むぞ」
「はい。では出発しましょう」
「ちょっと待って、アルスちゃん魔導機関の操縦は出来るの?」
「はい、教わりましたから。結構簡単ですので海上でおふたりにもお教えしますよ」
こともなげに言うアルスちゃん。
「おー」
俺は只々感心するばかり。アルスちゃんて、前世界にいったら資格マニアになりそうね。と、横を見るとクランケルが珍しく硬い表情をしている。
「どうした?大丈夫か?」
「え、ええ。実は酔うんですよ」
「え?」
俺は耳を疑ってしまう。
「ですから、船酔いするんですよ」
「マジかよ!運動神経の塊のお前が?波乗りはあんなにスゲーのに?嘘だろ?」
「これが、本当でして」
「いや、早く言えよ」
「場の雰囲気を壊すのは野暮かと思いまして」
「なーに言ってんだよ。無理しなくていいぞ?留守番してるか?」
「いいえ、この際、苦手を克服するのも一興です。それに波乗りの延長と考えれば、いけるかもしれません」
真剣な表情でクランケルが言う。
「そうか?マジでヤバかったら飛んで連れ帰ってやるからな」
「ええ、その時はお願いします」
クランケルが本気とも冗談ともつかない表情で言う。
「なんだかわからんが、くれぐれも無理はせずに頼むぜ。ここで君らが海難事故に遭ったらシャレにならんからな」
「ええ、その辺りは十分気を付けますよう」
アルスちゃんは朗らかにギルド長に言ってボートに乗り込む。俺とクランケルも後に続いてボートに乗り込む。実際に乗り込んでみるとなかなか広く感じるな。
「それじゃあ、頼んだぞ」
フラントギルド長がボートを係留しているロープを解きこちらに投げ入れて言う。
そうして俺たちは魔の海域へと出港したのだった。




