古の賢人の言葉って素敵やん
ローブを着た連中にはガビシの効き目も薄いようで敵は怯みはするもののストッピングパワーは低い。
連中のローブは耐魔法のみならず耐物理にも強いようだ。やり辛い相手だよ。
っと、人の心配をしていられるほどこっちも余裕はない、持ってる手段は全部使うぞ。俺は巨大な腕の攻撃を
避けながら鉄鋼弾を至近距離で食らわせる。
「ふひゃひゃひゃひゃ!無駄だ無駄だ!そいつは特別な術式で作られたもの!そいつへの攻撃は無意味!」
シタルカネが叫ぶ。俺は構わず攻撃を続ける。ウォーターレーザー、エアカッター、インチキメテオ、ファイアーボール、雷撃と間断なく食らわせて行く。
「無駄だと言ってるだろーが!バカなのか!お前はバカなのか!」
俺はひとつの確信を得ていた。シタルカネの奴は俺が攻撃を続ける度に無意味だ無駄だと騒ぎ立てている。こいつは着ているローブの事を尋ねても敵にわざわざ教えるか、とご機嫌な様子で答えた。なのに、俺の攻撃は効かない無意味だとご丁寧に教えてくれている。巨大腕の動きが遅くなった事を効いた振りだと言っていたが、さては本当は効いているな?
俺は魔力を練り上げインチキメテオを繰り返す。巨大な腕に、それに負けないレベルのでかさの岩石をぶつけ、
砕けては消し新たな岩石を発生してはぶつける、それの無限ループ。こうなりゃ俺の魔力が切れるか腕の耐久力
の限界が来るか我慢比べと行こうぜ。
「しつこいぞ!無駄だと言っているのに!お前さては学習能力のないバカだな?そうだろ?だから理解できん
のだ!この世界は勝ち組と負け組にわかれてるって事をっ!負け組になったら二度と這い上がれないって事を
っ!負け組に居場所なんてねーって事をっ!負け組は誰からも愛されねーって事をよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「そんな事はないぜ。そもそも人生に勝ち負けなんて関係ねーんだよ。強いて言うなら感謝して満足する気持
ちが無けりゃいつまでたっても平和な気持ちじゃすごせねーんだよ」
「そんなもんは負け犬の強がりに過ぎん!」
「俺のオリジナルじゃねーよ、古の賢人の言葉さ。年のせいか最近そんな事ばかり思い出してな」
俺はインチキメテオに加えて身体強化をことさら意識したパンチやキックも巨大腕に食らわせていく。
「ぐぅぅぅぅぅぅ、なぜなんだ!なぜお前のような奴が現れる!なぜ必ず邪魔者が現れるんだ!俺は間違っていないのになぜだ!それは世の中が間違ってるからだ!やはり世の中は虚構なのだ!そんな世の中は滅べばよいのだ!」
シタルカネはすでに俺に言っているのではなく、何か別のものと戦っているようだ。こいつはこいつで色々とあったんだろうけども、それで自分を省みずに外を恨んで責任転嫁ばかりしてるとおかしなものが心にスッと入って来ちまうもんだ。シタルカネの心に入って来たのはなんだ?魔神降臨派か?その上か?はたまたその下か?
今はわからんが、知らぬ顔じゃないしな。
「しょうがねーな!もう少し付き合ってやるよっ!!」
まったく、昨日の巨大石像といい堅い奴ばっかりだな。俺はインチキメテオは継続し、光魔法でフォーカス剣
を発生させる。
「こんちくしょう!」
俺はフォーカス剣で巨大腕に力いっぱい斬りかかる。
「ガッキィィィィィィィィィィン!!」
「うおっまじかっ!」
凄いな、フォーカス剣が弾かれたよ。手が痺れてるよ。
「だから言ったろう!無駄な事はいくらやっても無駄なんだ!結果を見れば明白だろ!ダメな奴は何をやってもダメなんだよ!」
「それは指導的立場の奴は言っちゃダメなセリフな。後な、威張らない、愚痴らない、不機嫌見せない。これ
ができないんなら人の上に立たない方がいいぞ?」
「お前に語られたくないわっ!!!」
「これも俺のオリジナルじゃねーけどな。それから無駄かどうか決めつけるの早いぞ?長い目で見てやれよ長い目で。短気は損気ってな」
俺はフォーカス剣を引き、ゲイルで勢いをつけて巨大腕に突きを繰り出す。
「ガツン!!」
鈍い音がしてフォーカス剣が巨大腕に突き刺さる。
「なに!」
「ほらな無駄とも限らねーだろ?」
俺はフォーカス剣を抜いてシタルカネに言う。
「そ、そんなもの蚊に刺されたようなものだ!」
「それでも一歩進んだろ?」
俺は動きの鈍った巨大な腕に再びフォーカス剣を突き刺す。さっきよりは抵抗なく突き刺さる。
「二回目は一回目より楽だったりすんだよ」
俺はシタルカネに言う。
「嘘だ、世の中そんなに簡単ではないはずだ。お前は、お前はズルい。恵まれてるだけだ。俺は、俺はそんな
に簡単に行かなかった。うまく言った事なんてなかった。俺は世界に憎まれているのか?結局、最初から勝ち負
けは決まってるって言うのか?俺の努力は無駄だったと言うのか?意味がなかったと言うのか?俺の人生は無
意味だったてのかよう!!そんなの認められるかっ!!!」
シタルカネは叫ぶと杖を高く掲げる。すると、天に稲光が走り凄い音がしてシタルカネの杖に雷が落ちた。
巨大な腕の動きもピタリと止まる。
「おい!大丈夫か!」
俺はシタルカネに声をかける。
「るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁあああああああああ!!!あああああ!!!」
急に大きな唸り声を上げるシタルカネ。
「いけませんクルース君!魔神化してます!」
クランケルが叫ぶ。
「魔神化だと!」
雷に打たれたシタルカネは目が黒くなり額が激しく輝いている。なんだよそりゃ。
シタルカネは口から涎を垂れ流し、唸り声を上げながら杖を掲げ続ける。すると暗い雲が渦を巻きその中心から巨大な足が発生し俺を踏みつぶさんと襲い掛かって来る。
「ちっ、今度は足かよ!」
筋肉質で剛毛を生やした巨大な足は俺を踏みつぶし、蹴り上げようと盛んに攻撃してくる。
「こなくそっ!!」
俺は腕を攻撃していたインチキメテオを今度は足の、それも指に向けて連発する。
「どうだ!足の小指は痛いだろ!!」
まったく動きを緩めない巨大足。
「なにやってるんですか」
クランケルが声を上げる。
「いや、足の小指はぶつけるとめっちゃ痛ぇーじゃんか。こいつもそれは変わらないと思って」
「真面目にやって下さいよ!」
さすがのクランケルもわらわらと群がるローブの軍団を捌きながらこっちに声をかけるのは大変らしい。まあ、こっちの様子を気にできるだけ、すげーんだけどな。ハルハもメイエスもレブンさんも押し切られないようにするだけで精一杯って感じだ。こいつは、俺も早いとこけりつけねーとヤバいな。




