混乱の最中にややこしい客って素敵やん
「外はエライ事になっとりますよ」
楽園城のレストランで合流したモンコックに俺は言う。
「一部の衛兵が強引な動きをしているようですね。楽園城の住人もかなり興奮してますので各地区長に暴動にならぬよう押さえよと伝えてあります」
「我々も信用できる仲間に街を見回って貰ってます」
「万象会もトラブルの仲裁に手を回していますよ」
ダーミット副長の言葉にモンコックも答える。何かを感じ取ったのか閣下はニヤリと笑みを浮かべる。
そうして、我々はそれぞれ自己紹介をし交渉のテーブルに着く。
お互い現在の状況を憂い、それぞれ手を打っているという事実が距離を縮めたのか、会談は終始友好的に行わ
れた。
勿論、国家権力側と裏社会側という事で立場はまったく正反対であるし、慣れ合って貰っては困るのだが、そ
の辺りは豪放磊落に見えて結構お堅い閣下と規則の人ダーミット副長さんのコンビだ、心配はないだろう。
ユメロンの件については大きな問題にはならなかったが、問題はやはり強化人間計画だ。国側がまったくノータッチという訳にはいかないが、ではどの部門がどの程度関わるのかが問題だった。
万象会としても、あまり深く食い込まれては旨味が薄くなるし自由が利かなくなる、国側としても下手な関わり方をすると余計な火の粉を浴びる事にもなりかねない。
その辺りの微妙な折衝に時間はかかった。しかしデオドラダイヤの返却によりもたらせられるもの、具体的には返却先のブリナン王国との関係性の向上とそれに伴う周辺国からの評価が上がる事は、それが今後起こるであ
ろうジャーグル王国との問題解決に大きな助けになるのは間違いがない。
万象会にしても、さすがに一国をマルっと敵に回すのはうまくない。完全に管理されるのは頂けないが、この手の商売をするとなると当然相手は国レベルになるので、いざとなった時に国家の力でゴリ押しされて美味い所を全部かっさらわれたり、報酬を踏み倒されたりするのも困るので出来ればバックにバッグゼッド帝国がいると薄っすらと臭わせたい所。
そんな訳でお互いにある程度手を結ぶことはメリットがあるので、いつまでも話は平行線という事にはならず前向きに建設的に話は進むのだった。
「ちょっと待って下さい!あまり横暴な事をすると住人感情を刺激します!」
レストランの入り口から聞き覚えのある声がする。
「うるさいぞ!君はどちらの味方なのだね!ええい!ここを通せ!」
ドカドカと靴音がして瘦せた男がこちらにやって来る。
「私はラウンドバーン領近衛兵団副長のエスクビトである。指名手配の男を探している!捜索させて貰うぞ!」
細い目に両端をツンと立てたカイゼル髭をしたいかにもインチキ臭い男が偉そうに言う。
「困りますよ、我々は明日からもここの治安を守るために働かなくてはならんのですよ。ここにはここのルールと言うものがあるんですから」
エスクビトと名乗ったインチキ男をたしなめているのは波打ち際衛兵分所の風紀安全課長さんのサイレム・デューラーさんであった。
こいつはひとつ、俺が出て行って話を聞いてみるとするか。
「どうされたんですか?随分騒がしいですが?」
「ん?って、君、クルース君じゃないか。なぜここに?」
デューラーさんが俺を見て驚く。
「俺だけじゃありませんよクランケルもいますよ」
「どうも」
阿吽の呼吸で俺の横に来てにこやかに返事をするクランケル。レストランの入り口からは住人の怒声と兵士の怒声が聞えてくる。
「急に近衛兵団がやって来てね、指名手配犯の捜索だと言って無茶な事をして回るものだから街が騒然となってしまって。私はその火消しに動いているのだが、こちらのお方が」
デューラーさんがエスクビトを見て言う。
「なにが火消しだ!私こそが我がラウンドバーン領の火消しをしておるのだ!」
「ですから、この街にそうした人物が逃げ込んでいるのならば、我々がまず対処しますしその後で速やかにそちらへ引き渡しますからと何度も申し上げております。急に来られて乱暴な事をされると困るのです。この街はデリケートな街なんですよ」
「ちなみにラウンドバーン領と言うのは?」
「私の地元のお隣ですよ。ご領主同士、大変仲がよろしいようですよ」
クランケルが意味ありげに笑う。クランケルの地元と言えばトーカ領だ、トーカ領のお隣と言えばここからは
結構離れている。そしてトーカ領領主ジンチョク・トーカと仲良しなご領主の所の近衛兵団か。
こりゃ、真っ黒すぎの怪しすぎだな。
俺はチラと後ろのテーブルにいるゼークシュタイン閣下とダーミット副長を見る。
ふたりとも腕を組み静観の構え。閣下は難しい顔をし副長さんは薄っすらと笑みを浮かべている。
こりゃ、すぐにでもこっちに来て身分を明かしたうえでどういう事か問い詰めたい閣下を副長さんが止めてるといった所かな。
俺は副長さんに軽く会釈すると、クランケルを見る。
クランケルは薄っすらと笑みを浮かべ頷く。
俺たちふたりである程度対応しようってか。いいだろう、俺は困り顔のデューラーさんと尊大な態度のエスクビトを交互に見る。
「ああん?なんだ若造?」
上から見下すような視線をくれるエスクビト。
うわー、嫌な感じ。
俺は思わず顔をしかめるのだった。




