しかるべき筋との交渉って素敵やん
「端的に言えば超人を作る薬の製造ですよ」
「おいおい、それじゃあ魔神降臨派と変わらなくないか?」
「我々が考えているのは健康を損なわずに身体能力、認知能力を強化する事です」
俺の問にモンコックが答える。
「ならば、俺たちに隠す必要もないだろう」
「そうですね、敵対関係になるぐらいならば最初から説明した方が得策でしたね。ですから、包み隠さず正直に言いますけどね、これは、国の兵士への使用を前提に考えています」
「なんだって?」
薬物などで能力を強化した拡張兵士を作るって事か?うーむ、確かに前世界でもそうした事はあった。ここで彼らにやるなと言ってもどこかで誰かが必ずやるだろう。それに、負傷した退役軍人や障害を持つ人の助けになる製品も出来る事だろう。ならばある程度の倫理的境界を引かせて取り組ませる事の出来る知り合いにやらせた方がマシか。
真剣な表情で俺たちを見るモンコック。
「本人の自由意思を奪ったり、市民生活に復帰できないようなものは止めて貰いたい。それから、その研究の
過程で民間で役立つモノが出来たら速やかに発表して貰いたい。それに伴う利益は勿論、そちらで得て貰って結
構だから」
「具体的言うと?」
ユメロンが問う。
「負傷し退役した衛兵や障害を持った人達の助けになるようなものだよ」
「なるほど、確かにそれは早い段階で出来上がるだろうな。うん、我々にとっても悪くない話だと思うが」
ユメロンがモンコックに言う。
「そういう社会貢献活動もしとけば不用意に敵を作らずに済むしな」
俺はユメロンの言葉を後押しする。
「・・・わかりました、約束しましょう」
モンコックはしばし考え、そう答えた。頭の中で損得勘定や上への報告などを考えたのだろう。
「それだけ約束してくれたならうるさい事は言わないよ」
「こちらからもひとつお願いがあるのですが」
モンコックはニヤリと笑って言う。この野郎、ただでは起きないってか。
「なんだい?」
「これの交渉をするのに信用できる人を紹介して貰いたいのですが」
モンコックはデオドラダイヤを手に言う。
「ちょっと当たって見るよ」
「お願いしますよ」
ちょっとモンコックの手のひらの上で踊らされた感があって癪だが、信用できない所と交渉されても困るから
な。通信手段はこれまで通りこの場所でという事で俺とクランケルは楽園城を後にした。
「クルース君、当てはあるんですか?」
「ああ、まあな。ひとまずミューメ指導員に会うぞ」
「波乗りの指導員さんですか?あのお方は衛兵関係者じゃないんですか?」
クランケルが言う。
「それは仮の姿ってやつでな、俺がバッグゼッドに来ることになったきっかけは話したろ?」
「ええ、対外治安総局情報局のお誘いでとの事でしたよね」
「その情報局員さんのひとりがミューメさんさ」
「ほう、どうも只者ではない肝の座り方だとは思いましたが、なるほど」
「この件を相談するにゃ適任だと思う」
「私はクルース君が構わないなら異論はないですよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいが自分の意見も言ってくれよな?なんつってもここはお前さんの国なんだから
よ」
「なるほど確かにそうですね。でしたら、感謝しないとですね」
「は?何に?」
「クルース君にとってここは縁もゆかりもない外の国。なのにこれほど尽力してくれている」
「縁があったから来たんだし、尽力って程でもないさ」
「ふふふ、そういうところですよね」
クランケルが愉快そうに笑う。
「どういうところだよ」
俺たちは軽口を叩きながらも指導員の宿泊所である波乗り処カイントへ向かった。
「お!どうしたクルースちゃん!こっち来て飲めよ!」
カイントの前では火が焚かれちょっとしたバーベキュー大会になっており、一杯ひっかけていい調子になってるコゼランちゃんから声をかけられる。
「ああ、コゼランちゃんでもいいや。ちょっと話を聞いて貰いたくてさ」
「でもいいやってのが気になるが、その調子じゃ真面目な話だな?」
真顔になるコゼランちゃん。さすがはやり手情報局員だな。
「まあ、そうなんだけどさ」
「ちょいと静かなトコで話すか」
「話が早くて助かるよ」
俺とクランケルはコゼランちゃんに続いてカイントの中に入る。
「ここなら誰も邪魔が入らねーよ」
コゼランちゃんの案内でカイント裏の物置へ行った俺たちは、そこで事のあらましを聞かせるのだった。
「おいおいおいおい、何してんのよクルースちゃんは。カレッジのご学友まで巻き込んじゃって」
「いえいえ、私の方が巻き込んでしまったようなものですよ」
コゼランちゃんの言葉にそう返すクランケル。
「こいつはこう見えてかなりの使い手よ。対人戦なら俺よりよっぽどやるよ」
「まじかよ!」
コゼランちゃんがビックリする。
「いえいえ、それは大袈裟ですよ」
「コゼランちゃんも知ってるでしょ?エルスフィアで会ったおとっつぁん」
「知ってるも何も帝国でもその動向を注意してる最重要人物だっつーの」
「そのおとっつぁんの愛弟子だよ。おとっつぁんをして天才と言わしめた、その名をクランケル君です!拍手!」
「おおー!マジか!クルースちゃん引きが強いなあー!」
ノリの良いコゼランちゃんは拍手をしてくれる。
「こらこら、およしなさいって。それよりもご相談したいのはデオドラダイヤの事ですよ」
「ああ、そうだったそうだった」
クランケルの問にコゼランちゃんが声を上げる。
「どう思うアルっち?」
「そうですねえ、やはり副長さんと閣下が適任ではないでしょうか?」
まるで話は聞かせて貰ったよとでも言いそうなタイミングでミューメさんとアルスちゃんが入って来る。
「むう、あの方は?」
クランケルが俺に小声で聞く。
「彼女はアルスちゃん。俺の冒険者仲間で魔法のお師匠さん」
「あらやだトモトモ、お師匠さんだなんて古臭い言い方して」
アルスちゃんがクスクスと笑う。
「なるほど、それなら納得できますが、クルース君ともあの人とも違う、まるでそこにいないような透明の気配・・・・世の中、広いですね」
クランケルはアルスちゃんを見て汗を一筋流した。
「魔法だけじゃなくて剣術や体術も超一流だからね」
「いつか手合わせお願いしたいです」
クランケルはアルスちゃんに向かって静かに頭を下げた。
「あらあら、まあまあ。そんなにかしこまらないで下さいな。トモトモのお友達ならいつでも御指南致しますよ」
「よろしくお願いします」
親戚のおばちゃんみたいな温厚な口調で言うアルスちゃんに襟首を正して頭を下げるクランケル。
「さてと、物騒な相談は置いといて。やっぱり副長と閣下だよなあ頼むんなら」
「副長ならすぐに連絡付くし、なんなら今からでもこっちに来れると思うわよ」
コゼランちゃんの言葉にミューメさんが答える。役者は揃った。話は早く動く事になりそうだ。




