大人の事後処理相談って素敵やん
俺たちは楽園城の例の高級レストランへと戻り、冷たい紅茶でのどを潤した。
「で?あの石像はなんなんだい?」
俺はモンコックとユメロンを見て言う。
「やつらは真の魔神と読んでおったが、私は、恐らく滅び去った古代魔法文明の遺産、ヘパタロスではないかと考えるな」
「ヘパタロスとは?」
クランケルが首をかしげる。
「万能ゴーレムだと聞いているがな」
俺は短く答える。まあ、実物を見ているし、なんなら一戦交えてもいるがあれが全てとも限らないだろうしな。
「ほう、さすがやり手冒険者のクルース君だね。古代の文献によれば、ヘパタロスには用途によってさまざま
な大きさ形の物があったらしい。さきほどのあれは恐らく戦闘用だろう」
「それがなんであんなに大暴れしたんだ?」
「奴らは国宝をヘパタロスに埋め込み、毎日毎日魔力を補充していたのだよ。まあ、洞窟の魔物に邪魔をされてなかなかスムーズに事が進まなかったようだがな」
「それがたまたま俺たちが行った時に動くほどの魔力が貯まったってのか?」
「いや、邪魔者が入った事で急いで起動したのではないかと思われるな。その証拠にヘパタロスは粉々に崩れ
落ちてしまっていた。動かすには時期が早かったわけだな」
おいおい、どこの生物兵器ですか?きちんと仕上がってれば口から猛烈なビームでも出したのか?今回は文字通り人工の神ってとこか?
「ふふふ、そんなに微妙な顔をしないでくれたまえよ。あの状態でも十分な強さだったろう?」
考え込んでた俺を見て何を勘違いしたのかユメロンが言う。
「クルース君の気持ちもわかりますよ。どうせやるなら完全体のあいつとやり合いたかったですよね。」
またクランケルがとんちんかんな事を言う。
「さすがはやり手冒険者と言った所だな」
ユメロンまでもが俺を戦闘狂の様に言う。俺は苦い顔をする。
「クルース君、そんなに不服そうな顔をしないで下さいよ。まだまだ、この先、奴よりすごい相手が現れる可能性はあるんですから。ところで、それの事ですが」
クランケルは更にとんちんかんな励ましの言葉を俺に言った後で、テーブルの上に出してある例の国宝、ブリナン王室のグレートスターを指差した。
「どうするつもりですか?まさかと思いますが」
クランケルの声に怖い物が混ざる。
「ふふ、そんなに怖い顔をしないでくれ給え、別に盗みはしないよ。ただ取引の材料にはするがね」
「取引ですか?」
モンコックの言葉を聞いてクランケルの声から険が取れる。
「そう取引だ。まずは衛兵隊内に潜り込んだ魔神降臨派の手に渡らず確かにブリナン王室に戻る保障が欲しい。またあんなことになっては市民の社会活動に支障が出るからね。それは我が組織の望む事ではない。そして、今一つは彼の事だ」
隣りで何かの草の根みたいな物を齧っているユメロンを目で追ってモンコックが言う。
「そう言えばこのおっさんはなんでここにいるんだよ?」
「オッサンだと?嬉しい事を言ってくれる。ジジイではなくオッサンか」
「ちゅーか、さっきから何を齧ってんだよ」
俺は喜ぶユメロンに突っ込む。
「これはパニステリオプシス・カーピ、古くから魔力酔いの治療に用いられてきた植物だ。これからは少しばかり頭を使わねばならないからな、アエシュマ断ちのために用意して貰ったのだよ。とても苦く酷い味がするが、君も少し齧ってみるかね?」
胸ポケットから新しいものを出して言うユメロン。
「いや、遠慮しとくよ。で?少し頭を使わねばならないと言うのは?」
「ユメロン氏にはボナコンなどの破壊的で強力な依存性を持つ薬物の解毒剤の開発に従事して頂こうと思ってます」
「身体的、精神的、共に効果のある解毒剤だ。これは私自身が被検体なので都合も良いぞ」
モンコックに続いてユメロンが言う。
「それは大変結構な事だが、精神的な依存を治すのは容易じゃないぞ?強烈な快楽と言うのは記憶にこびりついて離れないからな」
「そこなんだよ。結局は人との繋がりや新しい生き甲斐でそれを埋めるしかないのだろうがな、今の私の様に。だが、少しでも苦しみを軽減させることはできるはずだ。こうした薬は人からすべてを奪うからな、金も意欲も将来も愛する人も」
ユメロンは珍しく真面目な口調で言う。
「そんなわけで彼はうちで預かりたいと思っていますので、このデオドラダイヤはそのための交渉材料にもなって貰おうかと」
モンコックが言う。
「なるほどね、国宝もあっち行ったりこっち行ったり忙しい事だな。ところでモンコックさんよ?」
「なんでしょうか?」
「ユメロンの使い道はそれだけって事はないだろ?おたくさんの組織だって慈善事業じゃないだろ?」
「いやあ、その手の解毒剤でも国に降ろせば大きな金を産みますよ?」
「またまた。別に俺たちにも一枚噛ませろって言ってんじゃないのよ。ただね。ここまで深くかかわり合っち
まったからにはさ、ある程度の腹は見せて貰いたいって訳」
俺は笑顔を絶やさずにそう言った。
「ふふ、さすがは大商会の創設者ですね。お話ししても良いですが、話を最後まで聞いて下さいよ。途中で敵
対行動をとるような事は止めて下さいよ」
「わかった。クランケルもそれでいいな?」
「私ははなからどうでも良いですので」
「また、そんな事言ってお前の琴線に触れる内容だったりしてもとりあえず最後まで話は聞けよ?」
「ええ、約束しましょう」
てなわけで俺たちはモンコックの企みを聞くことになったのだった。




