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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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ガンギマリの親分発見って素敵やん

 そこからは作業ゲーみたいなもんだった。

 モンコックから貰った地図に示されている場所に行く。ひと暴れしてボナコンとその関連品は没収する。案内所にあるマップに没収地点を記入し、現物と共に衛兵所に置いて行く、の繰り返しだ。


「ちょっと兄ちゃん達、顔貸せや」


 次の場所へ向かおうとした所、人相の悪い男に声をかけられる。


「はい喜んで」


 クランケルは嬉しそうに言う。

 声をかけてきた男はより目つきを悪くして俺たちを睨み、首を動かしてついて来いと示す。


「やっとお声がかかりましたね」


「思ったより遅かったな」


 先を歩く人相の悪い男はチラリとこちらを振り返り、また前を向いてしまう。

 姿は見えぬが後ろに人の気配がする。


「後ろにいますね」


「ああ、前の奴の仲間だろ」


「普通のギャングっぽくはないですねえ」


「また楽しそうに言うなあ」


「楽しいじゃないですか。最高の校外学習ですよ」


「いや、こんなの校外学習じゃねーって」


「入れ」


 前を歩いていた男は大きな倉庫の前で俺たちに言う。


「はいはい、お邪魔しまーす」


 俺のおどけた態度に男は舌打ちする。俺とクランケルは男に続いて倉庫の中に入る。

 倉庫の中はかなり広く、奥の方は大きなカーテンのようなモノで目隠ししてある。そのカーテンの手前には机とイスが置かれ、幾人かの男が何かを話し合っているようだった。


「ユメロン様、お連れしました」


「ああ、ご苦労だった。君達ふたりが実験場荒らしか。随分若いな」


 短く刈り揃えた白髪、温厚そうな目をした初老の男がパイプを吹かしながら近付いて来た。


「実験場、ですか?」


 クランケルが聞く。


「はい。紹介が遅れたね、私はベルトル・ケーン・ユメロン。ジャーグル王国魔導学会会長でありチャルバートル計画の責任者だ。よろしく」


 大仰に挨拶をするユメロン。


「チャルバートル計画?」


 俺は聞き返す。


「こちらは礼を尽くして名乗ったのです。君達も名乗ったら如何ですか?」


「ああ、俺はトモ・クルース。こっちは」


「グロウス・クランケルと申します」


「結構。で?どちらの所属かね?治安総局かね?国防軍かね?それともハルスマニ辺りの情報局員かな?」


「どれでもないですよ。強いて言えば地元の自警団って所ですかね。それにしても、あなたが言った事は外に

 漏らしてはいけない事なのではないですか?それとも、我々をここで確実に殺す方法でもおありですか?」


 クランケルが笑顔で言う。


「そこなんだよクランケル君。こうした場合、できる事と言えば殺すか監禁するかのふたつしかなかった、今まではね」


「今までは?」


 クランケルが面白そうに聞く。


「そう、今まではね。これからは違う。我々はアエシュマの効能について研究してきた。それは長い道のりだったよ。多くの実験を繰り返し我々はようやく、新たなステージへと駒を進めることが出来たのです。君達もその恩恵にあずかるという訳です」


「非常に興味深いですね。一体どんな研究なのですか?」


 クランケルが尋ねる。


「人の精神、記憶、感情をコントロールする研究ですよ」


 ユメロンはうっとりしたような何かに陶酔した表情で言う。


「それなら魔道具で事足りるんじゃないか?」


 俺は尋ねる。


「だめだめだめだめ」


 ユメロンは両手を少し上げ首を振る。


「あんなものはとてもじゃありませんが実戦向きじゃありません。お金も手間もかかりすぎですよ、国宝級の宝石を使ってあれじゃあ話にならないと私は言ったんですけどね。まあ、私は私で成果を出せばよいだけの話しなんで構わないのですけどね、そんなつまらない事は忘れてしまいましょう」


 ハイになった様にまくしたてるユメロン。こいつアエシュマやっとるんとちゃうやろな?


「あれ?私がアエシュマを摂取してるんじゃないかと訝しみましたね?ええ、体内に取り入れてますよ。ですが、キチンと定められた量のみですから、悪影響はありません。定められた量を厳守するのならば感覚が鋭くなり肉体的魔術的疲労を軽減できます。あなたの表情や汗による体臭の変化に気付いたのもアエシュマのおかげなのですから。どうです?驚いたでしょう?これを突き詰めていけば我々人間はステージをひとつあげることができるのですよ。人族が魔族の風下に立つ事はもうなくなるのです。どうですか?素晴らしいでしょう?そのためのひとつの踏み石にあなた達はなれるのですよ」


 口の端から泡吹いてるよこの人。


「いやあ、自分の感情もコントロールできてない人に言われても、なあ?」


「そうですね。こうした物はそう簡単に乗りこなせる物じゃあないんですよね。中には体質的に強い人もいますが、それでも必ず身体と精神にダメージを負いますよ。そしてなによりまともな社会生活が送れなくなりますね。彼のような人は元々まともな社会生活を営めるタイプじゃなさそうですけどね」


 俺の言葉にクランケルが答える。


「何を言ってるのですかバカバカしい。まともな社会生活?そんなものは大きな財産や地位、名誉の前にはゴミ同然ですよ。そうしたものを築いた人間を誰が誹りますか?皆、そうした人間には跪き崇めるでしょうが?その人の中身なんて価値はないんですよ、何を成し遂げたかに価値があるんです。凡人はそこの所を勘違いしている」


「価値があるのは財産や地位や名誉だけですか?なんとも薄っぺらい価値観ですねえ」


 ユメロンのご高説を一笑に付すクランケル。


「はあ?他に何があると言うのかね?今すぐ提示してみたまえ」


「そんなものは幾らでもありますが、私が今、提示できるのはこれぐらいです」


 クランケルは肩をすくめて身体の力を一瞬抜いたと思ったら、その状態からまるでワープするかのように移動した。

 ユメロンがあっけにとられる中、クランケルは机の周りにいる男達5人の意識を一瞬にして刈り取る。


「どうですか?縮地とハエトリです。この技に価値はありませんか?」


 ニイっと怖い笑みを浮かべてクランケルは言う。なんだったんだ今のは?予備動作無しでの超ダッシュ、あれはゲイルダッシュよりも速かった。あんな事が肉体の操作だけで出来るのか?

 そして、机の周囲にいた男達をほぼ一瞬で無力化した技、あれもなんだ?全然目で追えなかったぞ。

 クランケルの奴、さぞや自慢げな事だろうよと思ったが俺の方なんて見てやしない。


「どうです?これは無価値ですか?」


「い、いや、決して無価値ではないぞ。そうした力は先ほど私が話したような人間を守るために使えば価値がある。そう例えば私のような人間を守るためならね。どうかね?私の下で働いてみる気はないか?自分の人生を価値ある者に出来る千載一遇のチャンスだと思うが」


「これを見て下さい」


 引けた腰ながらあくまで自分の考えを曲げないユメロンにクランケルはそう言って、近くにあった木製のイスを手に取った。


「そ、それをどうしようと言うのだ?まさか、それで私を叩こうと言うのかね?」


「いいえ、見ていて下さい。ふっ」


 片手で持ったイスの座面、しっかりした作りの板をクランケルは軽い呼吸音と共に打ち抜いた。

 本当に軽いジャブ、もしくはジークンドウのワンインチパンチのように予備動作の少ないパンチだった。

 堅そうに見えた、いや実際に堅いのは間違いないだろうよなんせイスの座るとこだもの、その座面はまるで紙にパンチャーで穴を開けたようにきれいな切断面を見せくり抜かれた。


「ヒッ」


 ユメロンが息をのむ。


「こうしたことが出来るまでにどれだけの鍛錬を積めば良いのかわかりますか?あなたの想像の範囲外ですよ、

 きっと。こうした事は魔法や魔動機を使えば同じような事は出来るでしょう。ではそれを身体能力のみでやる事

 には意味がありませんか?意味はないと思いますか?」


「そ、それは、だから」


「だがしかし!そうした力を持っていても私は家を作る事は出来ません」


「え?は?なにを?」


「海に出て魚を捕まえる事も、大量の野菜を育てる事も、家畜を育てる事も出来ません。病を治す事も出来ません。孤児に仕事を与えて商会を設立するなんて事も出来ません」


 クランケルはチラと俺を見る。よせやい、照れるってーの。


「いや、それは、だから、そんなことしか出来ない能力の低いものに任せてだね、我々はもっと高尚な価値のある事をしようではないかと言っている訳で」


「まだわからないのですか?今あげたような事は命を支える大切な事なんですよ?これより高尚な事がありますか?あなたや私のしている事など高尚な事ではないのですよ。命を支える事の逆ですよ、低俗中の低俗、卑しく下品ですが通俗的な事なんですよ。わかりますか?自覚した方が良いですよ?私のこの技にしてもあなたの研究にしても、大昔から普通に多くの人が求めているような俗で品がないもので誇るようなものではないという事を」


「ふっ、ふざけっ、うぷっ、ふざけるんじゃあないですよ!あなた自身の卑屈な考えを私にあてはめないで貰いたいっ!私の研究は!わっ私は!そんなんじゃ、決して、そんなものじゃ!そんなものじゃあ、ないのですよっ!その証拠を今からあなた方にお見せしましょう!いでよ!我が息子たち!!」


 ユメロンは逆上しそうになるのを無理やり押さえようとするが押さえきれない様子で叫ぶ。すると、後ろのカーテンが揺れて人がこちら側に出てくる。その数ふたり。

 スキンヘッドで上半身裸、シンプルな七分丈のズボン。背丈も身体の大きさもごくごく標準的。

 無表情、無個性な男ふたりは生気の無い足取りでユメロンの近くにやって来る。


「なんですか?研究の成果ってやつですか?」


「おいクランケル気を付けろ!」


 ふたりの男の奇妙な雰囲気に俺は思わず注意する。

 と。


「るぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「ぬうっ」


 いきなり口を大きく開け、妙な声を、それも普通の人では息が続かない程の長さ放つふたりの男にさすがのクランケルも飛び退って距離を取った。

 ふたりの男の放つ妙な声は共鳴し、倉庫のような広い室内にこだまし壁を細かく振動させる。


「ぐう、なんですかこれは」


 クランケルが鼻を押さえる。どうやら鼻血が出てきたようだ。かく言う俺も鼻の奥や頭の奥がピチピチと音を立ててきしんでいる感じに襲われる。


「ふひひひひ!ふひゃははははは!どうですか!私の生み出した人造魔神は!これこそ、偉大な発明と言わずしてなにを偉大と言うものかあ!!!ふはっ!ふあははははは!」


 ユメロンが唾を飛ばして叫ぶ。

 ちっ、こいつがアエシュマによって作られた実験体ってわけかよ!


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