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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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外国って素敵やん

 船の中は、カジノはあるし商業施設はあるし図書館まである。初日の夜に食事をした食堂以外にも軽食をとれる場所があるし、定期的に楽器の演奏がされたりとちょっとした街みたいだった。

 昼間はデッキでくつろいだり、船の速度が落ちている時には釣りをすることもできた。

 釣りの道具について、デンバー商会販売のマキタヤ製の新製品を揃えているので従来に比べて大物釣りが気楽に出来ます、是非ご利用ください、なんて書いてあったものだから道具を借りてやってみたりした。

 竿は竹ではないが金属でもない、かなりの剛性がありながらそこそこのしなりもあるような、前世界の海釣り用のジギングロッドみたいなものだった。きっと、なにか魔獣の素材を加工したのだろう。

 そして、以前にアウロさんと釣りの話をした時に触れたリールも良く出来ていた。

 糸巻が竿に対して横向きに回転するスピニングリールではなく、縦に巻かれるシンプルな造りの両軸タイプ、いわゆる、ベイトリールだ。

 これは、糸がらみしやすいというデメリットはあるものの、造りは単純だしなにより巻き取る力が強いから大物釣りに向いているのだ。

 糸の絡みも、キャスティングしなければ、つまり遠くに投げなければすることはないので船釣りには持ってこいだ。

 餌での釣り以外にも、これもアウロさんと話していた疑似餌もあった。

 魚の形をしたものや、湾曲した木切れみたいな胴体部分に針がつき針周辺に獣毛などをつけただけの弓角と呼ばれるものもあった。デンバー商会は仕事が早いし手広いねえ。

 そうして、トローリングなんかもみんなで楽しんだ。

 釣れた魚は調理してくれるもので、シエンちゃんなんかは随分と意気込んでやっていた。

 一週間の船旅を我々は飽きることなく満喫できたのだった。


 そうして到着したのが神聖エルミランド帝国最大の港町と言われるバトマデルーイ。

 本当にデカい街だった。

 まず、港からして広大なもので大きな船が沢山停泊している。

 港から市街に行くまで結構距離があるようで専用の馬車が出ているとのことだった。

 船を降りると、クルース御一行様と書かれた板を持っている人が居たのだが、出ましたよ!待ってましたの魔族さん!大柄な体にシッポ、トカゲのような顔、服装は祭服なのでモミバトス教会の方だろう。


「クルースです、お世話になります。」


 俺は声をかけた。


「これはこれは、長旅お疲れさまでした。バトマデルーイモミバトス教会のネルソンです、よろしくお願いいたします。早速ですが、教会までご案内致します。」


 という事で俺たちはネルソンさんに続いて、教会まで行くことになった。

 馬車から外を見ると、行きかう人々は皆さん魔族の方、魔族の国なので当然の事だが人族らしい外見の者も少数ではあるが見かけることはあった。

 見かける魔族の方々は、ネコ科の生き物のような顔をした方や、猛禽のような顔の方、犬系の方、など獣人の方が多いようだが、昆虫のようなフォルムの方や全身を毛に覆われた方、コウモリのような羽根を生やした方などもおり、とても多種多様である。


「ネルソンさん、失礼な質問でしたら申し訳ないのですが、これだけ多種多様な方々が一緒に暮らしていると言うのは、人族の自分にとっては驚きなのですが、大きな争いなどにはならないものですか?。」


 俺は思わず聞いてみた。


「クルースさんは魔族の国に来られるのは初めてですか?。」


「ええ、そうです。」


「でしたら、驚かれるのも無理はないですね。我々魔族は人族に比べて様々な外見をしてしていますからね。魔族にとっては同じ種族であるという認識が自然に出来ているので、違和感はないのですが、私も人族の国へは何度か行ったことがありますので、人族の方の考え方も多少理解できます。人族の方々は生まれた土地を大切にされますよね。我々魔族は、今いる場所を大切にし、生まれた場所や自分自身の同族への帰属意識みたいなものは薄いのです。これは我々魔族にとって大きな利点でもあるのですが、同時に弱点でもあるのですよ。」


「ほう、それはどういった具合にですか?。」


「簡単に言えば、元々属していた集団と揉めがち、という事です。結局のところ魔族としてひとつにまとまる事を阻害しているのも、こうしてひとつの場所で大きな争いなく暮らせるのもどちらも、そうした魔族気質に起因しているわけですからね。」


「面白い話だな。我ら人族でもそうした気質を強く持つ民族はおるぞ。商業を得意とする民でなあちこちの国で商売をやって成功して力を得るものも多くいるのだが、どうした事か彼らは出身地や同族よりも生活基盤を築いたその地に強い帰属意識を持つのだ。そうした気質が知られているからこそ異国での商売が成功しやすいという利点があるのだが、それだけ各地に散らばり力を持っていても民族として団結することはないのだ。それどころか、仲の悪い地域に住む彼ら同士も仲が悪かったりするからな。」


 キーケちゃんが言う。


「シマルシマ王国の方々の事ですね?彼らでしたらエルミランド帝国にも定住してらっしゃいますよ。ここバトマデルーイでも商売されてますし、大きな商会をされている方もおられますよ。」


「民族的な特質なんだろうね。面白いね。」


「さあ、そろそろ到着しますよ。」


 馬車の速度が落ちて、大きな教会の前で停車した。

 建物はレインザー王国で見たような尖塔がそびえ立つものではなく、上部がドーム状になっており、いたるところに植物や貝の彫刻がなされている。これはこれで、雰囲気あって非常に良いね。


「どうぞ、皆さん、中にお入りください。」


 ネルソンさんに案内されて教会内に入ると、中も中で白い内壁に金や赤に着色された彫刻がそこかしこに飾られて、絢爛豪華だ。

 高い天井には、これまたモミバトス教の宗教画が一面にあしらわれていて、なんだか吸い込まれそうになる。

 圧倒されながらも、ネルソンさんに続いて司教室と書かれた部屋に入る。

 部屋の中は一転して落ち着いた雰囲気であり、壁は本棚に囲まれ中央にテーブルとイス、そして奥に執務机があり、そこに座っていた人物が立ち上がってこちらに歩いてきた。


「ようこそ、おいで下さった。ランツェスター首座司教よりお話は伺っております。どうぞお座りになって下さい。」と女性らしい声で促してくれたのは、白い司祭服を着た大きくてムクムクとした体格の目のパッチリした熊顔の方だった。

 なんだか、可愛らしいなあ。

 俺たちは彼女に従ってテーブル席に着いた。


「では、私は失礼いたします。」


「ご苦労様でしたネルソン助祭。皆さん、申し遅れましたね、私はバトマデルーイ大聖堂の司祭をしております、パンチャコと申します。よろしくお願いいたします。」


 丁寧な挨拶をして下さったパンチャコ司祭に俺たちは改めて自己紹介をした。


「長旅、お疲れでしたでしょう。大したおもてなしもできませんが、よろしければお茶をどうぞ。」


 パンチャコ司祭がそう言うと、部屋の奥の扉が開いてティーセットの乗ったカートがスーッとひとりでやって来た。

 おぉーー!魔法だな!魔法らしい魔法だな!ファンタスティック!

 カートはテーブルの横で止まると、今度は上に置かれたティーセットがフワフワと浮いて我々の前に置かれる。そして、ティーポットがこれまた浮いて勝手にお茶を注いで回る。


「どうぞ、おあがりになられて下さい。」


 可愛らしいクマちゃん顔のパンチャコ司祭に言われて、幻想的かつコミカルに注がれたお茶を飲む。夢と魔法の国に入ったみたいで自然に顔がほころぶ。

 一口飲んだお茶は、チェリーのような香りがして非常に美味しかった。


「いかがですか?エルミランドはお茶の産地としても有名なんですよ。」


「とても美味しいですわ。」


 アルスちゃんが優雅に答える。

 こうした場はアルスちゃんが一番上手に振る舞うんだよね。シエンちゃんもキーケちゃんも、勿論そうしたマナーは押さえているし、場数も少なからず踏んでいるのだがふたり共、性に合わないとかなんとか、まあ余り好きではないようだ。


「さて、早速ですがお仕事のお話しをさせて頂いてよろしいでしょうか?。」


 にこやかに言うパンチャコ司祭。

 可愛らしい外見だが、やはりひとつの場所を任されているだけの事はある、押さえるところはしっかり押さえているようだ。


「ええ、お願いいたします。」


 俺は答えた。

 パンチャコ司祭の話しは勿論今回の依頼である、神聖エルミランド帝国内で勢力を拡大している、モミバトス教教典を深く理解し実践する会、通称モミバトス教実践会の事についてである。

 実践会は元々は小さな趣味の会的な集まりだったそうだ。

 モミバトス教の歴史的側面などに関心を持つ者が集まり勉強会を行う、無害でどちらかと言えば知的好奇心の強い方たちが集まる、学者肌な団体だった。

 ところが会員数が増えると、組織運営に長けたものの発言権が強くなり、運営費を寄付で集めるようになり、今度はこれを本業にするものが現れてだんだんと、ただの勉強会ではなくなっていく。

 それでも、しばらくは有料会員制のサロン的な集まりだったのだが、運営委員会が出来て代表が据えられ彼らの所に集められる寄付金や会員のボランティア的な労働力の利用により、資産の運用をしだしてからいよいよおかしくなり、この辺りから運営委員会の近くにアドバイザー的な存在がちらつき始める。

 その者は表舞台には出ずに、運営方針に大きな影響力を発して組織をどんどんとカルト宗教化させていった。

 発見者と同じように多くの規則で信者を縛り付けているようだが、違うのは信者たちの商業活動を阻害するようなことはしていない事だった。

 どうやら、発見者の運営で信者たちの商業活動を阻むような教理にしてしまうと、寄付金が集まらなくなることを学んだようだな。

 現段階でも、家族に不和を生じさせたり、信者の中にはモミバトス教に対して良くない反応を示すものも出てきたようで、だんだんと教会も見過ごせなくなってきたところにアタノールの密輸業者が捕縛される。

 アタノールと言うのは、魔導機作成に必要な特殊な炉で魔導機の製造は勿論、それに必要な素材や器具などもこの国では民間人の所持、売買は禁じられており無論、国内への持ち込みも固く禁じられているとの事。

 ちなみに、我々が乗ってきた魔導機船はレインザー王国国営、つまり民間ではないのだそうだ。

 魔導機と言うのはその利用法によっては大きな破壊を生み出すものなのだそうだ。

 その捕縛された密輸業者と頻繁にコンタクトを取っていた者が、どうやら先に述べたアドバイザー的存在の男らしいのだ。らしい、と言うのは証言を聞きだしている途中でその密輸業者は謎の死を遂げたと言うのだ。

 牢の中で壁に頭を叩きつけての自死。

 そんな事はよっぽどのことがなければ出来ぬことで、教会では牢獄の関係者の犯行も視野に入れて当時、侵入することが可能だった者の洗い出しと事情聴取を行っているのだが、はかばかしくないのだと言う。

 アドバイザー的存在の男は名前も判明していないが、耳長族の男という事だけはわかっており港湾労働者の寝泊まりする地域にいるらしいのだが、その辺りは元々格安の簡易宿などが立ち並び訳アリな者たちが集まる土地なので素性を探られるようなことに対して拒否反応が大きく、まあ、ありていに言えばガラの悪い地区なので中々調査が出来ないのだとか。

 現地協力者もいるにはいるのだが、教会派遣の調査員とはことごとく足並みがそろわず調査は進まない状況なのだそうだ。

 その地区に行き現地調査員と協力して耳長族の男を追う、というのが今回最初の依頼になる。

 最初、と言うのは順調にその足跡を追う事が出来たならば、状況が許すならばその男の身柄を確保し、更にその背後関係が明らかになればそちらも追って欲しいと言うからだ。

 シエンちゃんとキーケちゃんはその話を聞いて舌なめずりせんばかりに、露骨に嬉しそうな顔をしている。

 もう、ふたり共荒事好きだからなあ。


「さて、皆さん。こちらに地図があります。この赤印の場所は宿泊所です。ご自由にご利用ください。そして、こちらの青いバツ印が現地協力者との接触地点です。そこにいる花売りに、青いバラを3本箱に入れるよう言って下さい。それが合言葉になります。何かありましたら、いつでもここをお尋ねください。また、その宿の主人も協力者ですので彼を通して手紙などでのやり取りもできますので、いざと言う時はご利用くださいね。」


 パンチャコ司祭は笑顔でそう言い、俺に地図を手渡した。やはり、この方はやり手だ。

 さてと、仕事に取り掛かるとしますかね。

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