技の見せっこって素敵やん
「どっちがどっち行く?」
「選ばせては貰えないみたいですよ」
俺がクランケルに声をかけるや否や前方のふたりは恐ろしい速さで俺たちに突っ込んできた。
俺の方には小さな男、それも更に身を屈め地面を這うようにして接近してくる。こりゃ、俺も大人数の接近戦で試したが、相手にすればやり辛いねー。
どうせ、上からの攻撃には対抗手段を持ってるんだろ?
サイドからはどうだ?
俺はステップして右に避けると同時にローキックを放とうとするが途中でやめる。
「いい目だ」
地面に這う姿勢のまま男が言う。男の両肘には半月状の刃物が生えている。突っ込んでくる時にはなかったものだ。
男は地に這うような姿勢のままこちらに向きなおり、助走無しで突っ込んでくる。男の服が風にたなびく。
恐らく服の下には多くの刃物を仕込んでいるに違いない。
俺はすれ違いざまに地面の土を足でえぐって奴の顔に蹴りかける。
「!!」
男の顔が一瞬浮く。
俺はスピード重視の軽い蹴りを上がった顔のアゴに放つ。
「くっ」
男は上体を反らして避けるがアゴ先に俺の右足甲の端がかする。男の表情に焦りが見える。
俺は身体を回し、男の喉を左手の平ではたく。男の喉に指先がヒットする。
男は両手を動かし俺の指を払おうとするが、反らした上体の不自然な姿勢が邪魔をし一テンポ遅れる。
その間に俺は指先に力を入れて手首を返し奴のアゴを下から突き、そのまま指をアゴの骨に引っかけて持ち上げ背負い投げの要領で地面に叩きつける。
男は背中から地面に叩きつけられる。ジャキンと音がして両手両足から刃物が飛び出す。
男は腹を上に向けしばらく手足を動かしていたが、やがて動きを止めた。
俺は男に近付くが男に反撃のそぶりはない。
俺は男を視界に収めながらクランケルたちを見る。
クランケルは頬に薄い傷をつけ嬉しそな笑みを見せている。相対する女は肩で息をしており、クランケルの周りにはキラキラした金属片が多く散らばっていた。
「ヒャオッ!!」
女は声を上げ両手を振るうと民族衣装の中から金属片が飛ぶ。
クランケルは笑みを浮かべたままそれを全て蹴りで落とす。
「もう打つ手なしですか?」
クランケルは笑顔で言いゆっくりと女に近付く。
女は呼吸を整えようとするが、どうも上手くいかないようだ。どうしたんだ?
俺は目を凝らす。
どうやらクランケルの奴は強烈な殺気を放ち続け相手の女にぶつけているようだ。えげつない事をする。
「クワッ!!!」
女は奇声を上げ近付くクランケルに向かってキレイな飛び蹴りを見せる。
「いいですね」
クランケルがポツリと言う。俺は目を凝らしてクランケルの動きを見る。
女が長い足を延ばしキレイな飛び蹴りを放つ。クランケルの右足がきれいに上がり女の蹴り足にかかと落としを喰らわす。
女はそのまま地面に向かって直角に落とされるが、クランケルの右足がもう一度上がり女のアゴを蹴り即座に戻った。目を凝らしてなけりゃ一回の蹴りとしか認知できなかった。
今まで見せたのも二回の蹴りだったのか。
「双咬」
「そうこう?」
俺はクランケルに聞く。
「技の名前ですよ。ね?きちんとお見せしましたよ。ですから、クルース君も出し惜しみしないで下さいよ。さっきの指先の技、あれは何と言うのですか?技の名前は?」
「いや、名前なんてないよ」
「ふうむ、勿体ない。あの人に言われませんでしたか?技には名前が必要だと」
「それは教えられなかったな」
「そうですか」
クランケルが笑う。いつもの笑みとは違う、どこか安堵を感じさせる笑みだった。
クランケルにとってサーヴィングのおとっつぁんの存在は余程特別なものなんだろうな。




