兄弟弟子って素敵やん
「さすがにこの辺じゃあ波乗りは出来なさそうだな」
「ええ、岩が出てきましたからね」
メイエスとハルハが言うように、波乗りをしている人の数が減って来たと思ったら岩場になって来る。
「しかし、随分と強い波が入ってるみたいですよ。うまく乗れれば面白いかもしれませんよ」
「いや、板がぶっ壊れちまうし最悪ケガしちまうといけないから止めといた方が無難だな。指導員さんも言ってたけど安全第一無理をしない。波乗りはこれが一番」
「なるほど、自然と戦うと言う事は慎重になるべき事なのですね」
「戦うって言うかなんちゅうか、遊ばせて貰うって感じかね。戦うなんておこがましいだろ?農業や治水をやろうってんじゃないんだから」
俺はクランケルに言う。
「ほう?農業や治水は自然と戦う行為であると?ふうむ、なるほど。では農業や治水を学ぶことで格闘術にもなにか生かせるかもしれませんね」
「お!お前、凄い事を考えるなー!俺の地元の大昔の有名な剣豪がさあ、兵法の極意は剣の道のみならず社会のあらゆる道に通じるものである、なんて言葉を残しててさあ。それを6つの巻物にして残したんだよ」
「ほう、誠に興味深い。その書を読めば剣の極意が学べると?」
「いや、それがさあ。この書を読んだだけで兵法の道がわかるはずがない、書かれた事を自分が見出した理論と思って常にその身になって試して工夫せよ、ってその剣豪は言ってるんだよなあ」
「むう、あの人も似たような事を言ってました。伝えた事をとどめるな、そこは始まりであり終わりではないのだと。ううむ、あの人はその書を読んだのでしょうか?」
「いやあ、俺の地元はかなり遠いからなあ、さすがに読んじゃいねーと思うけどな。でも、ひとつ言えるのはなんでもそうだが、その道を極めた人の辿り着く境地ってのはあるんだろうな。おとっつぁんも俺の地元の古の剣豪も、同じ境地に達しているのかも知れないな」
「クルース君はどうなのです?その境地に足を踏み入れているのですか?」
「いやあ~、全然っしょ。おとっつぁんにも、うちのパーティメンバーにも全然足元にも届かないよ。まあ、俺ってためられる魔力量が多いみたいでさ。それに任せた力技でなんとか今までやって来たけどさ。おとっつぁんやうちの格闘術の師匠に言わせれば、俺の体術はまだまだ泥臭くてタイミングがあってないってさ」
「しかしこうも言われませんでしたか?クルース君は武術でしか役に立たない訳ではない、これは武術を知る入り口なのだと」
「ああ、武術しか役に立たない者は武術を知る事は出来ぬってか。それも言われたな。お前はそれは大丈夫そうだなって言ってくれたっけな」
「そうですか、私は逆にそれが課題だと言われましたよ」
「へえ、どうやら俺たちはお互いに足りないモノを持っているのかもな」
「ふふ、面白いですね。なんだかクルース君と出会ってから武術以外のものも面白く感じて来ましたよ」
「どうやらクランケルの方がおとっつぁんの課題を先にクリアしそうだなあ」
「それなら良いのですが」
俺は肩をすくめクランケルは微笑を浮かべた。なんだかいい感じに力の抜けた笑みだった。
「おーーーい!!クルース君とクランケル君!ちょっとこっちへ来てくれないかーー!」
俺たちが話し込んでる間にハルハとメイエスは岩場を散策していたようだ。大きな岩の向こうからハルハが俺たちを呼んでいる。
「なんだろうね?」
「ああ、行ってみようぜ」
俺とクランケルはハルハの方へと行くのだった。




