班の仲間って素敵やん
その後、俺とクランケルも波乗りをしたのだが、やはりと言うかなんと言うかクランケルの奴はすぐに上達したよ。俺なんかよりよっぽど上手に乗りやがる、まったく、ここでのサーフィンは俺が創設者なのになあ。まあ、いいや、クランケルの奴もなんか楽しそうだし。
「いやあクルース君、これはいいですねえ。バランス感覚を鍛えるのにとても良いですよ、是非、あっちの短い板の方もやってみたいですね」
陸に上がって休憩してた俺に近付きそんな事を言うクランケル。
「おい!クランケルー!お前、スゲーよ!波の上で踊ってんのかと思ったぜ!」
メイエスが大きな声を出して走って来る。
「うん、クランケル君は確かに凄かったな。板の上で倒立してたよね?あれには指導員の先生も目を丸くしていたよ」
ハルハが板を持って歩いて来た。
「いやー、お前いっつもボーっとして目立たないけどよー、やっぱ、人ってのは何かしら特技があるもんだなあ」
「失礼だろメイエス!クランケル君は身体能力が高いのではないかと常々思っていたんだよ。体育や剣術の授業の時は、目立たないようにふるまっているのではないかとね。普段の立ち居振る舞いになにか達人のような気品を感じていたんだよ」
「そりゃお前、こいつ顔は抜群によろしいからなあ。それにやられちまったんじゃねーのか?あー、あれか、ハルハもあれか、あれなんだな!よし!わかった!お前もスパイラルスネークに入会したいんだな?いいぜ、歓迎するぜ」
「なっ!何を言ってるのかね君は!私は別に女性に手ひどく振られるなどといった過去はなくてだね!」
「いやいや、俺にはわかる。やっぱりハルハからは俺と同じ香りがするんだ。ようこそスパイラルスネークへ」
「うわー!や、やめてくれー」
ハルハが頭を押さえて叫ぶ。
「おいおいその辺にしとけよ。お前らもそろそろ水分補給どうだ?ちっと休憩して、板を変えてみようぜ」
「ああ、いいね。短い奴をやってみたいよ」
クランケルが同意し、メイエスとハルハもついて来る。飲み物は指定の店ならサインをすれば提供して貰える。
俺たちは板を戻してから指定店を探して歩く。
「おい兄ちゃん兄ちゃん」
「なんですか?」
浜辺を歩く俺たちに話しかけてくる男がいる。
「いいもんあるよ。こっちこっち」
男は自分の口元に盛んに手をやりながら言う。なにかの符丁か?こいつはあれだな、俺はチラとクランケルを見ると静かに微笑んだまま軽く頷いた。ハルハとメイエスも一瞬難しい顔をしてから俺とクランケルの顔を見て軽く頷く。
俺たちは男について行く。
男は立ち並ぶ店の裏に行くと、積んである木箱の後ろから紙袋を取り出した。
「軽いの重いの、速いの遅いの、揃ってるよ?どうだい?」
「やはり、そうでしたか」
クランケルが薄く笑う。
「授業でやったのが早速役に立つとはな」
メイエスが言う。
「なんだ?兄ちゃん達、学生か?学生さんじゃあ色々と苦労もあるだろ?軽くて速いやつがいいかな?勉強もはかどるよー。集中力が上がるからね。なんたって、こいつをやると同じ事をずーっとやり続けるのが苦にならないからな。俺なんて3日間ずっと家の壁を磨いてたよ。今ならサービスで3つ買えばひとつ付けるよ」
男は紙袋を開けて、中から小分けされた茶色い粉の入った小袋を見せる。
「うん、よくわかった。詳しい事は別の場所で聞かせて貰おうかな、ちゃんとした大人のいるとこでね」
俺は男に言う。
「なんだぁ?お兄ちゃん達、商売の邪魔をしようってのか?」
男は急に鋭い目つきになりそう言うと、防砂林の中から人相の悪い男達がぞろぞろと出てくる。
「6人ですか。たったそれだけの人数で何をしようと?」
奥の防砂林から出て来た男たちの人数を数えてクランケルが言った。
「学生のケンカじゃ済まねーよ。お前らの親の所に行って損害の賠償をしてもらわねーとなー。俺たちの商売ってのはお客さまの評判が大事でなあ。お前らみたいのがフラフラしてたんじゃ評判が悪くなって売り上げに響くんだわ」
男は紙袋を木箱の上に置くとズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出しゆっくりと刃を出す。防砂林から出て来た男達も、それぞれ短刀を手にしている。
「どうします?」
クランケルが俺に尋ねる。
「勿論、生け捕りだ」
「生きていれば良い訳ですね」
クランケルが怖い事を言う。
「喋れるようにしとけよ」
「わかりました」
クランケルは怖い笑みを浮かべ男に近付く。
「なんだ?坊ちゃんが」
男がナイフを向けるがクランケルは自然な感じでふっと手を出しナイフを持った右手首に触れる。まったく勢いもなくただ触った様に見えた。
「ぎゃぁぁぁ!なにしやがった!」
男はナイフを落とし叫んだ。男の右手首は小指方向に直角に曲がっていた。男は口から泡を吹いてうずくまる。
「テメー!!」
「なにしやがった!」
「やっちまえ!」
短刀を持った男達は大きな声を出しながら俺たちに向かってくる。俺はしゃがみ込んで地面の砂を掴み向かってくる男の目に勢い良くぶつける。
「ぐおっ!」
砂を目に食らった男は声を上げ目を押さえる。クランケルは向かってくる男たちの間を素早く通り過ぎ挟み撃ちの形でこちらを向くと、やっと反応して短刀を向けた男の腕に神速の蹴りを放つ。
俺は目を押さえうずくまる男のうなじに軽く触れ電気を流す。
メイエスは木箱を両手に持ち振り回し、一度にふたりの男を吹き飛ばす。
ハルハは男が突き出した短刀を避け、男の伸び切った腕の肘を軽い調子で打つ。伸び切った肘の関節を逆から打たれた男は短い悲鳴をあげ短刀を手放す。
メイエスもハルハも、元々運動神経は良いし剣術の授業も好成績だ。その上、この間のギライス祭り以来、ちょくちょくエンポ先生に武術を教わってるっぽかったからなあ。
結局、こんなチンピラ共は俺とクランケルが力を発揮するまでもなく、軽く無力化できてしまう。
「さてと、どうしますか?」
「ひとまず、指導員さんを探して力を貸してもらおうか」
「お!だったら俺が呼んで来るぜ!」
メイエスが鼻の下を伸ばしてすっ飛んで行く。
「まったくあの男は。懲りない男だ」
ハルハが腕を組んでため息をつく。
「へえ、ふたりとも結構実戦慣れしてるんだねえ」
クランケルが感心したように言う。
「ん?ああ、そうだね。私の地元は恥ずかしながらまだまだあまり治安が良くないのでね。メイエスは、まあ、やんちゃな男だからな」
ハルハが答える。ん?クランケルが他人に関心を示すとは、良い傾向だな。




