兄弟に気を使うって素敵やん
「どしたのクルっさん、なんか黄昏ちゃってるみたいだけど」
浜に上がって来たメイエスが俺に近付いて来て言う。
「ああ、なんかみんなが楽しそうにしてんの見てるとな。いいもんだなと思ってさ」
「クルっさんってたまにオッサンみたいな事言うよね」
「そうか?」
「そうだよ」
うーん、最近は若者に囲まれて生活してるからだいぶ若者化してきたかと思っていたが、どんな事もなかったかな。
「クルっさん、クランケルの奴、見ませんでした?」
「あいつなら、そこに板を置いて向こうに歩いてったぞ。どこ行くんだって聞いたらちょっとって言ってたから用を足しにでも行ったんじゃないか?」
「なんだよそんなもん海ん中でやっちまえばいいだろーに。あ!ウンコか!ならしょうがねーな。そればっかりは海の中でやってもバレちまうからなあ。知ってたクルっさん、ウンコって水に浮くんだぜ」
「ああ、見た事あるなー。ガキの頃、川で泳ぎながらした事あるよ、そしたらプカプカ浮いて流れていったっけなー」
「クルっさんも?俺もそうだよ。俺ん時は下流にいた他のガキに見つかって大笑いされてケンカになっちまったけど」
「ガキはウンコで一日笑えるからなあ」
「マジで参ったよあれは」
「なんかそんな話をしてたらションベンしたくなってきちまったな」
「じゃ海に入る?」
「いや、そのために海に入るってのもあれだしな」
「そう?俺はもう一発、波に乗って来るよ」
「おう、頑張って来い」
メイエスは軽く手を上げると板を担いで海に走って行った。元気なやっちゃ。
俺はよっこらせと腰を上げクランケルが歩いて行った方に向かう。ここからだとカイントはちょっと離れているな。
しばらく歩けば海の家みたいな建物が並んでいる。
俺は一番距離の近い建物まで歩いて行き、お店の人に声をかけると快くトイレを貸してくれた。海の家的な建物では飲食物以外にも手造りっぽいアクセサリーなんかも売っていて見ていて楽しい。
俺はついついウインドウショッピングをしてしてまう。
「・・・のはずだ!」
「・・だろ!お前も!」
歩いていると建物の裏から何やら人が争っているような声がする。まったくしょうがねーな、サーフィンみたいに身体を動かす遊びで若者が集まると、血の気の多い奴も必ずいるからなあ。どれどれ、ちょっと話を聞いてやりましょうか。って俺も結構野次馬だよな。
「私はそんなくだらない事には加担したくありませんね。だいたいあなた達は弱すぎるんですよ」
「なんだと!」
「貴様それでもトーカ領の貴族か!」
「腕だけは立つと言うから甘い顔を見せればつけあがりおって!」
「これだけの人数にかなう気か!」
聞いた事のある声と物騒なセリフ。
「おい、こんなトコで何してんだクランケル?先生が呼んでるぞ」
俺はフラっと顔を出し声をかけた。するとそこにいた男たちはパニックに陥ったのか、いきなり俺に殴りかかって来た。
こいつらも貴族なのか?一応は武道の心得があるようだが如何せん驚いてから咄嗟の動きで統率も何もあったもんじゃないし身体が固くぎこちない。
俺は向かってくる奴らよりもクランケルの動きを見ていた。腕が立つ、トーカ領の貴族、そう言われていた。
クランケルは俺に見られている事をはっきりと意識していた。俺の目を見て、自分の前にいる男の側頭部に凄まじい速さでハイキックを当てた。
クランケルの右のハイキックを喰らった男は、どういう訳か喰らった方向にぶっ倒れた。なんだ?今のは?
俺は自分に向かって来た男達のパンチを軽く受け止め軽く電気を流し昏倒させる。
クランケルは薄い笑みを浮かべたまま、もう一人の男の身体に突きを当てた。これも凄まじい速度だった。
あっという間に5人の男は倒れて動かなくなる。
「クルース君、あなたは何者なんですか?」
「それはこっちのセリフだよクランケル」
怖い笑みを浮かべるクランケルに俺は言った。クランケルの左足のあたりの砂がえぐれている。こいつ、まさか一瞬のうちに左右のハイキックを放ったのか?
「どこまで話を聞いてたのですか?」
クランケルは俺の目線に気付いたのか左足で砂を自然にならすと俺に近付いて来る。
「お前がトーカ領の貴族で腕が立つってトコくらいかな」
「ほう、正直ですね。それで、どうします?」
クランケルはニイっと笑う。鋭く刺すような気が俺に向かってくる。俺は呼吸を整えその気を自分の身体に纏うように巻き込んでやる。
「どうって、話を聞かせてくれんなら聞くし、話したくないってんなら無理に話せとは言わないよ」
「ぷっ、ふふ、ははははは」
いきなりクランケルが笑いだす。
「なんだよ、なにがおかしいんだ?」
「なにがって君、いいのかい?君もかなりやるよね?私の左足を見てたでしょ?知りたくないのかい?」
クランケルはまた奇妙な気を俺に放ってくる。俺は呼吸を丹田までおろしゆっくりと回し、おかしな気を霧散させる。
「面白い事をする」
赤い唇をニマーと広げ怖い笑みを見せるクランケル。
「おいおい、やめろって。争う気はねーよ。敵じゃねーんだから」
おっかねー気を向けるクランケルに俺は言う。肩の力を抜いてやや右足を前に出すクランケル、この野郎すっかりやる気になっちまってんじゃねーか。暴発する前に気勢を削いでやるか。
「!!」
クランケルは驚いた顔をし自分の左側を防御するような動きを一瞬見せ、すぐに構えを解いた。
「あなた、今の技をどこで?」
クランケルが言っているのは俺が今やった技、任意の方向から殺気をぶつける技の事だ。奴が一瞬自分の左をガードする動きを見せたのは俺がそちら側から殺気を飛ばしたからだ。しかし、こいつは一瞬でそれが殺気だけだと気づいてガードを下げやがった。
「怖いおとっつぁんから教わったのさ。それよりお前、これを知ってたのか?」
「ええ、私も怖い人から教わりましてね。差し支えなければそちらに技を教えられた方のお名前を伺っても?」
「サーヴィングって名前のおとっつぁんさ」
「リクチャー・サーヴィングですか?」
「やっぱりお前も知っていたか」
こいつの気配の怖さにゃ、どこかあのおとっつあんの影を感じたんだよ。だからおとっつぁんから教わった技を試しに放ってみたんだが、どうやらビンゴだったようだ。
「ふっ、ふふふふふ。世間は狭いとは良く言ったものですよ。あなたからはどこかあの人と同じような掴みどころのない飄々とした気配を感じたんですが、まさか兄弟弟子だったとは。いつ知り合ったのですか?」
「ここに来る少し前だから結構最近だな。まあ、始めた出会ったのはもう少し前になるが、その時は仲間と戦闘になって逃げられたから良くわからなかったしね」
「ほう、そのお仲間は?」
「無事だよ。かなりの使い手だからね」
「そうですか、あの人を敗走させるとは是非一度お会いしてみたいですね」
クランケルがまた怖い笑みを見せる。
「いや別におとっつぁんは負けちゃいなかったよ。どちらも無傷だったし、それにおとっつぁんにはおとっつぁんの義があったしね。その後に出会ってからは共闘したし、技や心構えを教わったよ」
「それはそれは。是非お話しを伺いたいですね」
「それは構わんが俺の方も色々と聞きたい所なんだがね」
「うふふ、兄弟弟子じゃあないですか、固い事を言わないで下さいよ」
「別に固い事を言ってるつもりはないぞ。それに教わった順番で言ったらクランケルほ方が先輩になるんだろ?だったらお前が兄弟子なんだから、固くても自然じゃないか?」
「ふふふ、あの人はそう簡単に技を教えるような人じゃないですからね。下手をすれば私とクルース君だけかもしれませんよ?だとすればこの世でたったふたりの兄弟じゃないですか。どちらが上かなんて小さい問題ですよ」
「そんなもんかね」
涼しい顔をしてそんな事を言うクランケルに俺は肩をすくめて見せる。
「まあ、いずれにしても話をしようじゃないか話を」
「ええ、久しぶりの兄弟再会です。積もる話もありますからね」
「小さい問題にこだわってんのはお前かもな」
「さてどうでしょうか?」
俺たちは軽口を叩き合いながら、倒れている男たちの元を後にするのだった。




