定番の災難をスルーって素敵やん
この時期の気候に合わせて俺たちに用意されたウェットスーツは半袖半ズボンタイプのスプリングと呼ばれるものだった。
「しっかしパツパツだな」
「フェロウズはちょっと腹が出てるな、運動した方がいいな」
「うるせールグロ!お前が痩せすぎなんだよ!」
初めて着用するウェットスーツに興奮気味のクラスメイト達。
「これって女子たちも着るんだよね」
誰かがそう言うと、ワチャワチャと騒いでいたクラスメイト達は水を打ったようにに静まり返った。
「今、下の階では着替えてる最中ってことだよな」
「おい、フェロウズ、お前、まさか」
ルグロが唾を飲み込む。
「行くっきゃないだろ」
フェロウズが覚悟を決めた男の顔になっている。その真剣な様に辺りの男子生徒達も当てられてか、フェロウズについて行きそうになってやがる。おいおい、シャレになんねーぞ?こりゃ止めなきゃやべーな。
「よしとけよしとけ。バレたらお前ら、女子たちから総スカン喰らうぞ?それも下手すりゃ卒業してもずーっと言われるぞ」
「はっ!お、俺は何をしようとしてたんだ」
フェロウズが我に返ったようになっている。
「うぅ、やべー、ヤバすぎるよ。危うく人生棒に振っちまう所だったよ」
ルグロが言い、周囲の生徒たちも盛んに頬を叩いたり顔を振ったりしている。誰かの一言で皆が思考を支配されてしまう、ある意味、強力な思考誘導とも言えるな。ったく、思春期の男の恐ろしさよ。
「皆さん、着替えは終わりましたか?自分の服はロッカーにしまって忘れないようにして下さいね。準備が済んだら下の階に降りて下さい」
案内をしてくれたスタッフが声をかけてくれるので、俺たちは下の階へ戻る。
「よーし、皆、次は班に分かれて板を選べ!最初は班で同じものを選べ。これから講習を行うので、それによって安全に楽しめるレベルに達したならば自由に板を選んで楽しむと良い。板を選んだら指導員の方の指示に従え。わかったな!」
カルデイナ先生に言われて俺たちは返事をして班のメンツと合流する。。
「さてと、みんなどうする?最初は手堅くロングでいくか?」
俺は集まったみんなに提案する。
「クルっさん経験者でしょ?だったら俺はそれで構わないけど」
「自分も異論はありません」
メイエスとハルハが言う。
「クランケルはどうだい?」
「・・・・」
俺は尋ねるがクランケルは薄っすらと笑みを浮かべたまま黙って俺を見ている。
「おい、クランケル。クルっさんが聞いてんだろ?」
メイエスが少し強い口調で言う。
「ああ、ごめんごめん、なんだっけ?」
「なんだっけじゃねーよ、さっきカルデイナ先生が言ってたろ?波乗りの板だよ。クルっさんは経験者だからさ、最初は扱いやすいロング板でどうかって言ってくれたんだよ。俺たちはそれでいいと思うがお前はどう思うかって話だよ」
「うん、それでいいよ」
メイエスに話しかけられてるのに俺の方を見たまま答えるクランケル。メイエスはヤレヤレと言った感じで肩をすくめる。
「ほんじゃあ決まりな」
俺はそう言ってロングの板を取りに行く。皆も後からついて来る。建物の外には波乗りの板が沢山立てかけてある。
「決まったら好きなのを手に取って下さい」
板の近くでカイントの職員さんが生徒に声をかけているので、それに従って一番長い板が立てかけられている所へ行き板を手に取ってみる。
「おおー!めっちゃ軽いじゃん!いいねー、上手く作ったなあ」
「クルース君、やったことがあるんじゃなかったのかい?」
板を持って喜んでいる俺を見てハルハが不思議そうな顔をする。
「いやあ、俺がやった時は普通の木の板を削っただけの物だったからね。こりゃいいよ」
俺は板を手に持って言う。長さは3メートルにチョイと足りないくらいか、フィンは真ん中に1本。直進安定性に優れたクラシックタイプだな。板の先端に立って乗るハングテンって技をやり易い板だ。
「ロング板を選んだ人――!こっちに集まって下さーーい!」
ん?なんか聞き覚えのある声がするな。それぞれ板を選んだ俺たちは声のする方へと向かうのだった。




