班分けって素敵やん
「さあ、ここが今回お世話になる宿、エンドロスザーフだ!」
カルデイナ先生の案内で案内されたのは海の匂いがするビーチサイドのホテルだった。赤い屋根に白い壁、前に来た時には勿論なかった建物だ。
「ファルブリングカレッジの皆さん!ようこそおいで下さいました!」
ラフな半袖シャツに半パン、派手な柄のギョサンもどきを履いた恰幅の良いおっさんがホテルの前で両手を広げて大きな声で言う。
「こちらはカディス街商業組合の会長であるジルド・ワッテンさんだ。今回の校外学習実現のために尽力して下さった。皆、あいさつをしなさい」
「「「「ありがとうございました!お世話になります!」」」」
「いやいや、こちらこそ皆さんのような明日のバッグゼッドを担う方々においで頂き光栄です。皆さんには是非、カディス発祥の波乗り文化を体感して頂き、その将来性を肌で感じて頂けたらと思います。そしてなにより、非常に楽しく心躍らせる遊びですので、心行くまで楽しんで下さい!」
「ありがとうございますワッテン会長。それでは皆、中に入ってロビーで班ごとに別れ受付の人から鍵を貰って各自部屋に荷物を置いたら再びロビーで集合だ。各自テキパキと動くように!」
カルデイナ先生の指示で班ごとに分かれて俺たちは動き出す。班は4人で俺の所は、元番長のメイエス、クラスでも発言力のあるハルハ、そしてもうひとりは。やややせ型の身体にウェーブのかかった黒髪に白い顔をし薄っすらと笑みを浮かべた少年が俺たちの後を黙ってついて来る。
この少年の名はグロウス・クランケル。クラスメイトなのだが誰かと話している所をほとんど見かけない、いつもひとりでいるのだがいじめられているってな風でもない。勉強もできるし運動神経も良いのだが、どうも周囲に人を寄せ付けない所があるみたいだ。本人はそれを不満に思っている様子もなく、いつも薄っすらと微笑を浮かべたような表情でいるもんで周りの生徒達もどう接したら良いのかわからなくて避けている訳ではないが自然と距離を置いてしまっているようだ。
今回の班分けは基本、仲の良い者同士が集まってできたものだが俺たちに関してはちょっと違う。カルデイナ先生からのリクエストだったんだ。
俺とハルハ、そしてメイエスはカルデイナ先生に呼び出されて校外学習の班分けについて、この三人でクランケルを誘ってやって欲しいと頼まれたのだ。
メイエスは、いっすよ、俺元々クルっさんと一緒の班になれりゃ何でもよかったし、なんて即答した。最近こいつ俺の事、クルっさんて呼びよるのよ。
まあ、それは良いとして。ハルハの奴は、自分も彼の事は少し気になっていました、お引き受けします、なんて堅苦しい事を言った。相変わらず真面目な男である。
当然俺も異論はないってんで、このメンツになったのだった。
「夜、いびきがうるさかったらごめんな」
俺はクランケルに軽口を叩いてみる。
「大丈夫ですよ」
微笑を崩さず短く答えるクランケル。近くで見ると結構な美少年だ、白い肌に赤い唇とあいまってちょいとドキっとしちまった。
しかしあれだな、こいつは悪い奴じゃないんだろうけど、コミュニケーション取るのが苦手なのか、愛想を振りまくのが得意じゃないのか、普通もうちょっとなんかあるだろ。俺もいびきうるさいから、とか、あんまりうるさかったら起こすかもよ、とか、なんでもいいけど、会話のキャッチボールってやつができないのかな?
こういうところが、周りの生徒がとっつきづらいと感じる一因かもな。
まあ、そんなこんなで俺たちは部屋に荷物を置いてロビーへ戻る。
メイエスが部屋の豪華さに興奮してベッドで跳ねたりバルコニーに出たり入ったりするのを引っ張り出すのに少し苦労はしたが、まあ、他の連中とさほどかわらぬ時間でロビーに到着し鍵を受付に預かって貰う。
「各自鍵は受付に預かって貰ったか?まだのものはすぐに行う様に」
カルデイナ先生に言われて数人が動く。
「よし、皆、済んだな。それでは早速今から道具を借りに行くぞ。ついて来い」
カルデイナ先生は大きな声で言うと颯爽と歩き出す。俺たちはその後をついて行くのだった。




