学ぶ若者って素敵やん
「うん、これはマジで学園に入れちゃマズイね」
「ああ、やばいやばいと聞いてはいたけど、こんなもんに手を出した日にゃ将来なんて吹っ飛ぶぞ。つーか、あれだな、逆に考えれば貴族として将来の領地経営でも気を付けなきゃいけないポイントだよな」
「それ、いいですねサイマー君。学園長に提案してみますよ」
「え?なにが?なにを提案するの?」
アルスちゃんに急にそれいいと言われて驚き質問するサイマー。
「授業のプログラムとして組み込むんですよ、こうした薬の人体に及ぼす影響から国に及ぼす影響までを」
「国?領でなくて国?」
サイマーが聞き直す。
「ええ、このさいですから国単位に影響を及ぼすという事をしっかり授業でお教えした方が良いと思います。ね?トモトモ?」
「ああ、そうだね。こうした薬が蔓延する時、背景には必ず社会の歪みがあるものだ。特に貧困だね、貧困は人を追い詰めるからね。無知と貧困は人類の二大罪悪だと言った人がいるが俺もその意見には同意見だ。国民から極端に搾取し、生活もままならなくなるような政治をしていれば貧困は蔓延していく。そしてそれは人々から意欲や活力を奪い、労働力を低下させる。それはそのまま国力の低下になる。国を人体に例えれば悪政は病だ。病を放置すればその先には死が待っている。国ならばどうなるか?簡単に滅亡とはならないだろうが、国力の低下、治安の悪化、国民の不平不満が頂点に来た時に起きるのは革命だろう。この辺りについては近隣諸国の思惑も絡んでくるので一概には言えないが、下手をすれば外国の傀儡政権になってしまう事も考えられる。そうなれば、その国は滅亡したに等しいのかも知れないよ。他にもこうした薬が国同士の争いに用いられる事もあるんだよ」
俺はワットモウ王国でギャビン王子にした話をふたりに聞かせる。アヘン戦争の話だ。ギャビン王子にして見せたようにとある国とお茶の国の話として聞かせる。
最終的にお茶の国は敗戦し巨額の賠償金を支払わされ主要港での領事裁判権を認めさせられる事、更にはそうした不平等な条約はとある国のみならず、追随した他国とも結ばされお茶の国はほぼ植民地化してしまった事を。
「嘘だろ?人はそこまで外道になれるのものなのか?それじゃあ裏社会のやり方よりえげつないぞ?」
サイマーが言う。
「色んな噂を見聞きして一番怖いのは人だと思ってはいたけど、まだまだ認識が浅かったよ」
ストームが低い声で言う。
「だが、お茶の国はその後、どんどん力をつけていくのさ。人ってのは逞しいもんだ。それにな、光があれば闇もある。とある国にしても自国民のために進み続けるしかなかったという一面もあるだろう。だから俺たちはそうした過去から学んで同じような悲惨な結果を招かないように何ができるのか学ばなければならないんだよ。無知と貧困が罪悪である、というのはそうした意味もあるのさ」
「なるほどねえ。しっかしクルース君もアルスさんもただもんじゃないね」
ストームが言う。
「つーかクルース君とアルスさんって付き合ってんの?」
いきなり素っ頓狂な事を聞いて来るサイマー。
「お前、どうしてそうなるんだよ?」
「だってさ、クルース君ブランシェットの熱烈アタックにもなびかないっしょ?普通、あれだけ迫られたら好きじゃなくても付き合っちゃおうかなって思うっしょ?」
「お前なあ。ブランシェットにも言ったけど俺は今、特定の異性と深くお付き合いする気はないのよ」
俺は肩をすくめて言う。
「え~、でもアルスさんとクルース君、お似合いだと思うけどな~」
「わかるわかる、アルスさんってクルース君の魔法の先生なんでしょ?ふたりが付き合えば最強カップルなのにね」
ストームとサイマーが言う。
「うふふ、おふたりとも良い方ですねえ」
なぜか上機嫌なアルスちゃん。
「コホン、まああれだ。うん、そんな訳でだな授業のプログラムとして組み込むのは非常に良案だな。サイマーとストームは噂を、俺とアルスちゃんで授業の方を進めて行こう。それでいいな」
「うん。クルース君の弱点見つけちゃったかも」
ストームがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「それ弱点か?別に苦手って訳じゃなさそうだし、ただ単に今はってだけだろ?」
「サイマーにはその辺の微妙なトコってわかんないかもね」
「なんだよ、どういうことだよ?俺だって結構モテんだぞ」
「いやあ、そう言う事じゃないんだよね~。じゃあ、そういうことでそれぞれ頑張ろう!」
ストームが笑顔で手を上げて去って行く。
「あ!ちょっと待てストーム!どういう事か説明しろっちゅーの!んじゃ、クルース君、アルスさん、また!」
サイマーがストームを追いかける。
「うふふ、若いっていいですねえ」
「そうねえ、ちょっとついて行けない所もあるけどねえ」
走り去る二人を見て俺とアルスちゃんはしみじみとそう言うのだった。




