忙しいって素敵やん
メイグル氏から話を聞き、セイテニア公の数奇な人生を知った俺たちはゴゼファード公へ報告するために城へと向かった。
「人間て、いいな。」
シエンちゃんがポツリと言った。でんぐり返ってバイバイしそうな事を言うなあ。
「きひひひ、シエンもアルスもトモもあたしも、そしてセイテニアもその従者達も、変わらぬよ。」
「そうかな?。」
珍しくシエンちゃんが言葉少なに問う。いや、質問というより、キーケちゃんの言葉に照れながらも嬉しく思っているようだな。
「きひひ、そうさ。なあ、トモよ。」
「ああ、俺もそう思うよ。」
「そうか。」
「うふふ、良い仕事でしたね。これだから、この国が好きなんですよ。」
嬉しそうに答えるシエンちゃんに続いて、晴れやかな笑顔で言うアルスちゃん。今回の依頼は、皆、思う所があるようで、それぞれに何かを得たような顔をしている。
俺も、この世界に来て色んな人に出会い、色んな仕事をし、色んな場所に行ったが今回はこの国の歴史に触れることができたように思う。
どういう過去があったのかがわかると、その人の言動に対しての理解も深まるように、この国の過去の一端を知ることで現在のこの国への理解も俺自身、少しは深まったのではないだろうか。
俺はみんなの顔を見て、この世界との距離がより縮まったように感じたのだった。
俺たちは城に戻りゴゼファード公に謁見し、事の詳細を余さずお伝えした。
「そうでした、そんな事が。」
涙をこらえるように上を向いてゴゼファード公は言う。
「ご先祖が逐電していた場所は私も知っています。今度、セイテニア公の墓に挨拶に行きたいと思います。あの絵は大切に二つ並べて保管しておきます。文化財管理委員の方へは、説明案内のために必要な人員と資金を報告するように言っておきます。皆さん、本当にありがとうございました。依頼の報酬は現金でもカードでもどちらでも大丈夫です。ジェンス、後の事は頼む。私は、今一度あの絵を見に行こうと思います。重ね重ね、ありがとうございました。」
そう言って頭を下げるゴゼファード公。
俺たちも頭を下げてから、ジェンスさんに続いて部屋を出た。
「ありがとうございました。キワサカ様も感慨無量の面持ちでおられました。皆様への報酬ですが、現金とカードのどちらになさいますか?。」
「俺はカードでお願いします。」
「皆、それで良いだろう。な?。」
キーケちゃんが問い、シエンちゃんとアルスちゃんもうなづく。
「では、こちらにいらっしゃって下さい。」
ジェンスさんに続いて入った部屋は本棚に囲まれた書斎のような所だった。
ジェンスさんは書棚から石板を取り出すと、机の上に置かれた羽ペンを手に取り石板に何やら書き込まれた。
「では、こちらにカードを置いて下さい。」
ジェンスさんに言われてその通りにすると、カードの上に数字が浮かぶ。
「こちらの額でよろしいですか?。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、指で押さえて下さい。」
俺は数字の上を指で押さえると、数字は溶けるように消える。何回やっても面白いなこれは。
指を離すとカードの右上に何か紋章のようなものが浮かんでいる。
「あの、この右上の紋章は何ですか?。」
俺はジェンスさんに聞く。
「こちらは、ゴゼファード領主のお墨付きを示すものです。すぐに消えますが冒険者カード内に情報として残ります。なにかの折には後ろ盾になるという印です。キワサカ様の感謝の印と思って頂ければ幸いです。」
「そうですか。わかりました、ありがとうございます。ゴゼファード公の名を汚さぬように努めます。」
俺はそう言ってジェンスさんに頭を下げた。
皆も続いて同様の手順を踏む。
「さて、皆さまこれからどうなされますか?すぐに馬車のご用意もできますが、今からですとノダハへの到着は夜半になります、迎賓館でお泊りになり明日の朝出発される事をお勧めしますが。」
「どうするみんな?俺は明日の朝出発が良いかと思うけど。」
「それで良かろう。」
キーケちゃんが言い、皆も了承したので俺たちはジェンスさんの案内で迎賓館に連れて行ってもらい、豪華なお風呂に入って豪勢な料理を頂き、セレブな一晩を過ごさせてもらったのだった。
翌朝、来た時と同じタイプの馬車に乗り、ノダハへと俺たちは帰る。
ノダハにはお昼過ぎには到着したので、冒険者ギルドに行き、公に謁見し依頼を受けそれを果たした事を伝えた。
ニーソンギルド長は喜び、特にお墨付きを貰ったことに対しては大仰なまでの喜びようだった。
シエンちゃんの目がジトーっとし始めたので早々に退散し、事務所に戻った。
事務所に戻ると子供たちのはしゃぐ声が聞こえ、随分賑やかな様子だった。
「なんだか賑やかだな。来客のようだが。」
シエンちゃんが事務所の中に入って言う。
俺も続いて中に入ると、ひとりの老人がお茶を飲んでおり、その周りで事務所のみんなが小さな子供と遊んでいるのが見えた。
「クルースさん!お帰りになられましたか!。」
そう言って俺に近づいて来た老人は、オウンジ氏だった。
「おーっ!オウンジさん!お久しぶりです!何時ノダハに?。」
「昨日の夜です。昨日は宿に泊りこちらにクルースさんを訪ねて来た所、お仕事で留守にしていると言うのでお暇しようとしたのですが、皆さんがせっかく来たのだからゆっくりしていってくださいと、こうしてお茶まで出して頂いて。しかも、ハティと一緒に遊んで頂きまして。」
「トモちゃんっ!トーモちゃーーんっ!。」
俺に気づいたハティちゃんが力一杯抱きついてきた。
「おーーっ!ちょっと大きくなった?背が伸びたんじゃない?。」
「きゃははは!ハティ、おっきくなった?お姉さんになった?やったーー!。」
そう言ってまたみんなのもとに走って行ってしまった。あいかわらず天真爛漫で良いな、ハティちゃんは。
「いやあ、しかし、良く来てくれましたね。色々と大丈夫になったのですか?。」
俺がオウンジ氏に尋ねると、シシリーがお茶を持って来てくれた。
「トモさん達もお仕事終わってお疲れ様です。みなさんお座りになってお茶でも飲みながらどうぞ。」
「悪いねシシリー。本当に気が利くなあ。ありがとうね。」
という事で、俺は改めて、みんなとオウンジ氏にそれぞれを紹介し、近況を話した。
まず、ハティちゃんについて。あの事件以来、未来予知的な事は一切言わなくなったのだそうだ。
アルスちゃんが言うには、幼児期にそうした強い力を発する事は稀にあり、大人になる事で失われるものだそうだ。きっと、ハティちゃんはあの事件で、どこか精神的に大人になったのだろう。
そしてモミトスの発見者について。組織は完全に崩壊し多くの元信者が心の支えを失い精神的に路頭に迷っている状態だと言う。
オウンジ氏はスーちゃんと共同でそうした人たちに向けた心のケア本を書き、ランツェスター首座司教のバックアップで各地を回ってそうした人々に本を配り相談に乗ったり、時には大勢の人の前で話す事もあるのだと照れながら語った。
ハティちゃん誘拐を始め、非合法で過激な事を指示した人間と実行した人間は洗い出されて、ほぼ捕縛されているとの事だったが、気になったのが捕縛された教団上層部の人間が2人不審死していると言うのだ。その2人はそれまでの調べで、王国外の勢力から資金や組織拡大のノウハウについて援助を受けていた事を少しづつ話し始め、詳しい情報と引き換えに安全の確保と減刑を要求していたその矢先の事だと言う。
俺はその国外勢力と言うのは隣国だろうか、と疑問を口にするとキーケちゃんはそれはないな、と言う。
キーケちゃんが言うには隣国にそんなややこしいちょっかいをかけるだけの組織も資金もないだろう、奴らにできるのは反王国的思想を持った人間のスカウトや、この間のようなチマチマした工作だろうとの事。
レインザー王国は魔族も含めた他国との交流を盛んに行い、相互の理解と発展を推し進めている、それを良く思わない国や勢力は世界中にあるのだ、とはシエンちゃんの話。
オウンジ氏が顔を出してくれたのは近況報告と旧交を温める目的だけではなく、ランツェスター首座司教から手紙を預かってきたのだと言う。
手紙を見ると蝋で封印されており、なんとも重要文書といった感じがして物々しい。
これからどうされるのか、なんならここに泊まっていかれぬか尋ねたところ、今日中にビエイナまで行かねばならないのだと言われる。
明日ビエイナにて、脱会し心に傷を負った人のための座談会が開かれる。オウンジ氏はそこで話をするのだとか。
ビエイナは元々教団本部があった街で信者も多く住んでいたため、多くの人の来場が見込まれるようでオウンジ氏も力が入っているようだった。
クルースさんがおっしゃられたことが本当になりました、なんて言うオウンジ氏の顔はなんと言うのか、やりがいのある仕事に取り組んでる人間の顔ってのか、忙しいけど充実してるように見えた。
俺はオウンジ氏に良かったら帰りにもお寄りくださいと声をかける。
事務所のみんなはハティちゃんとすっかり仲良くなったようだ、また来てねーと手を振って賑やかなお見送りとなったのだった。
さて、気になるのは手紙の内容だ。
俺たちは事務所に戻ると早速手紙を開封した。
キレイな紙には、ノダハモミバトス教会にてイオアネス司祭に会われて下さい。神の祝福を。ランツェスター。と書かれてあった。
時間の指定はないから何時でも良いのだろう、まだ日も高いしノダハの教会ならすぐだ。
今から行って話を聞こうじゃないかと、そう言う事になりました。
まあ、我々も大概忙しいよな。




