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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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仕事には報酬って素敵やん

 「殺せ」


 後ろ手に縛られたゲッキウムが渋い顔をして言う。


「大事に使えば一生もんの命、無駄に散らすなよ」


 俺はゲッキウムに言ってやる。


「クソッ、俺も焼きが回ったか。老いぼれと小僧相手に後れをとるたぁな」


「おじさん、引退すれば?」


「そうそう、引け際って肝心よ」


 ストームとサイマーが転がってる奴らを縛り上げながら言う。


「ゲッキウムよ、今回は偶々勝ちを拾わせて貰っただけだが、勝ちは勝ちだろ?命の代わりにこの階段を上った先の事を教えちゃくれぬかね?」


 バッチーノ氏が持っていたバンダナで左手を止血しながら言った。


「俺が話すとでも?」


「今日は色々と珍しい事が立て続けに起きる日でね。元ブラウンチェストが元雇い主の情報を喋るなんて珍しい事も起きても不思議はないかと思ってな」


「元だと?」


「ああ、元だ。ミンブートは引退して姿をくらます事になるからな」


「・・・・、あの臆病野郎がかい?面白いな。もし本当なら見てみたいもんだ」


「本当さ。あいつは話し合いに来た私達に魔獣をけしかけ地下に落としたのだからな。あいつは穏便に済む機会を自ら失ったのだ」


 バッチーノ氏は毅然とした態度でそう言った。


「誰だよ人食いバッチーノは島流しで牙を抜かれたなんて言ったのは」


 ゲッキウムは天を仰いだ。


「わかったよ。依頼主が引退しちまうんじゃ契約不履行だ」


 ゲッキウムは飄々とした口調でそう言って上階の事を話しだした。


「あの上はオークションルームになってんだよ、悪趣味だろ?ちょうど今は禁制魔獣のオークションが入ってる。近くには魔獣対策班が詰めてるはずだぜ」


「魔獣対策班?」


 バッチーノ氏が聞き返す。


「ああ、万が一のことがあっても顧客に被害が及ばないように重装備の兵士がいるのさ。オークションは勿論非合法の闇オークションだ。深夜に行われるので今頃ちょうどその最中だな。オークションの最中は最も警戒されているから終わってから抜けた方が良いと思うぞ」


 ゲッキウムが言う。


「あんた、どうして素直に話すんだい?」


 俺はゲッキウムに聞く。


「ふふふ、嘘を言ってるかも知れないぞ」


「嘘を言ってるようには見えない、それどころかすっきりしたように見える。それが不思議でね」


「・・・、面白い小僧だな、お前、名前は?」


「クルース。トモ・クルース」


「クルース・・・聞いたことがあるぞ。ワットモウで最近大きな動きがあった、裏の世界と表の世界の大物が同時に同じ方向に舵取りをし始めたんだと。そして、その両者に働きかけたのがケイトモの創設者トモ・クルースだと。お前がそうなのか?」


「ああ、そうだよ」


「ケイトモ創設者は腕利きの冒険者だとも聞く。なるほどなあ、入って来た時の奇妙な動きといい普通の小僧じゃねーとは思ったが、ありゃなんなんだ?床を這うように飛んでいたが?」


「やりづらいっしょ?室内での混戦で役立つのよ、足狙いだから間違って味方に当たっても大事に至らないでしょ」


「おいおいクルース君」


 バッチーノ氏が苦笑いする。


「さっきの場合はバッチーノさんだけだったのでその心配はなかったですけどね。しかもバッチーノさんの動きは私との間に必ず敵を挟んでましたし」


「クソッ、戦闘中によく見てやがるよ。人食いにケイトモかよ、ミンブートもエライ奴らを敵に回しちまったもんだ。なんでスッキリした顔してんのかって聞いたよな?教えてやるよ、そこの奴隷だよ」


「奴隷?」


 俺は後ろにいる地下牢から助け出した人達を見て言う。


「そうだよ。こいつらは奴隷オークションで売られるのさ。そいつが前から気に障ってたんだよ、俺も元々は奴隷だったからな」


 ゲッキウムは相変わらずふてぶてしい顔をして言う。


「そんな事を言ってこの人らを不当に集めるのに協力もしとったんだろ?」


 バッチーノ氏が厳しい顔をして言う。


「そんな事は俺の仕事にゃ含まれてねーよ。まあ、含まれていても断ったがね」


 ゲッキウムが答える。


「・・・・クルース君、私はこのままオークションとやらをぶっ壊してやろうと思うのだが、どうかね?」


 バッチーノ氏がいたずらっ子のような笑みを浮かべて俺を見る。


「ちょうど私も派手な事がしたいなと思ってた所ですよ」


「ゲッキウム、お前も手伝わんか?」


「は?何言ってやがんだ」


「できれば魔獣は傷つけずに、客は散らしてミンブートの手の者だけを倒したい。それをやるにはちょいとばかり手が足りなくてな、みんなはどうだ?」


 バッチーノ氏がそう言って俺たちを見た。


「そうっすね。こんなとこに来る客なんてろくなもんじゃないけど、どうせ権力や金を持ったやつらっしょ?下手に怪我させちゃうとややこしいことになるかもしんないっすしね。人手があった方が助かりますね」


「そうそう、僕も戦闘は苦手だから戦力になる人は歓迎ですよ」


 サイマーとストームが言い、俺とバッチーノ氏は頷く。


「それじゃあゲッキウム、信用できる者が居れば連れて行くが良い。そして混乱に乗じてここを去ると良い」


 バッチーノ氏はそう言ってゲッキウムの縄を解いた。


「良いのかい?俺の事を信じて」


 ゲッキウムが言う。


「信じたのは私だけじゃないからな」


 バッチーノ氏は俺たちを見て言う。


「わかった。客と魔獣は傷つけずミンブートの手の者だけを無力化する、この仕事引き受けた」


「別に仕事ではないぞ」


 バッチーノ氏が言う。


「いや、俺たちの自由が報酬の仕事だ。しっかりやらせて貰う」


 ゲッキウムはいい顔をして言う。

 さて、ミンブートちゃんお仕置きタイムの始まりですよ。


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